CASE21 助けるべきか
今回はシュティンケンが警護対象か、それとも
下級貴族のウォーレンから一人息子のシュティンケンの警護を任されたルドルフとセリア。しかし、一人息子の不可解な点やヴァルト王国にて起きる事件との関連性如何に…?
「んぐ、んむむ、これは…なんだろ?おいしいことしかわからないよ!」
「セリア、落ち着いて食べてくれ…」
「あ、ごめんおにいさま、てかすみませんね、こんなにご馳走になっちゃって」
普段食べることがない、世界各地から集められた珍しい食材が使われた料理が立ち並んでいた。ここぞとばかりにがっつくセリアをルドルフが窘める。
「あ、ああ…かまわないよ、こちらから依頼した以上は客人であることは変わりない」
ウォーレンはセリアのがっつき具合に目を丸くしていた。
"ふむ…しかし、なぜ狙われていて、誰が狙っているかも調べておく必要はあるか…。あ、このキッシュうまいな…"
対するルドルフはあくまで冷静に考えながら食べていた。こうして時は過ぎていき…
「いやあ、数日間の護衛で金貨がたんまり、割のいい依頼だこと…」
「気を抜くんじゃない、それに、気になることもあるしな…」
シュティンケンが寝静まった頃、床で並んで寝転がるルドルフとセリアは小声で話していた。、
「てかこの部屋で寝るの嫌なんだけど、よく見たら汚いし、うわ…足に変な粉が…」
「粉…?」
「ほら、見てよ…いやだなあ」
セリアはルドルフに足の裏を見せる。足の裏は床に落ちていたという粉でやや灰色に染まっていた。
「これは…?ちょっと、セリア、すまない」
「え、ちょ、にいさま?きゃんっ!」
ルドルフは突如、指でセリアの足の裏をなぞりはじめる。ルドルフの突然の行動にセリアはびくんと体を震わせる。
「あ、あう…なんたる暴挙…」
「ふむ、これは…睨んだ通りならば…」
悶えるセリアをよそに、ルドルフはセリアの足の裏についた粉を黙々と小袋につめていく。
「…てかそれはなんなの?」
足の裏をなぞる指の動きが止まった頃、セリアが尋ねる。
「ああ、私の想像通りならば、この護衛、取り止めだ」
「ええ、それどういう?順を追って話してほしいんだけど」
ルドルフの言葉に対しセリアが困惑する。
「ああ、ここに来る前にゴブリンに襲撃されただろう?あいつらが持っていた粉、あれは恐らく、エニアコクだ」
「それって確か、魔物を興奮状態にするとかいう?」
エニアコクとは、魔物を興奮状態にする薬品で、わずかに嗅ぐだけで魔物が興奮状態になり、さらに吸った量が多いと、依存状態になるという危険な薬物である。
「その依存性の高さから、ある程度知性の高い魔物に服用させれば言うことを聞かせて、奴隷にすることもできるんだ」
「つまりは…あのバカボンが魔物に薬を盛って強盗させていたと?」
セリアが言うと、ルドルフは小さく頷く。
「まあ、まだ仮説ではあるけどな。明日僕はちょっと
少し離れる。その間は一応あいつの警護を頼めるか?」
「うん、任せてよ。…ということはルカスくんがあのとき興奮してたのは…そういうことだったのかな」
セリアはルドルフの頼みを了承すると少し考えを巡らせながら、眠りについた。
「というわけで、今日は少し外れますね。まあ、うちの専務は強いので、単体でもなんとかなるでしょう」
「ああ、なら構わねえけどよ…」
翌朝、ルドルフはシュティンケンに警護依頼を一時的に外れる旨を伝えると、列車である場所へ向かって行った。その場所は…
「クックック…お久しぶりですね…何か入り用ですか?」
王都から東に数キロ離れた地域のスラム街の裏商店であった。
「ああ、今日はこれの解析を頼みたい」
ルドルフはゴブリンが持っていた粉の入った袋と、セリアの足の裏についていた粉を入れた袋を手渡した。
「ああ、私の予想が正しいならエニアコクの粉だと思うのだけど…そういった解析はあんたのが得意だと思ってな。報酬は弾む」
ルドルフはカウンターに銀貨がぎっしり詰まった袋を手渡す。
「相場よりも高い報酬を出すとは…いいでしょう、少しお待ちください…クックック…」
闇商人は手渡された粉と報酬を手に取ると、カウンターの向こう側にある部屋に入っていった。
「ふむ…僕の想像が正しくて、そのことを掴んでいるとしたら…あのシュティンケンを狙っているかもしれないとかいうのは…あの子たちか…?」
闇商人を待っている間、ルドルフは思考を巡らせるた。ルドルフの脳内で、ひとつの仮説が浮かび上がった。そうしているうちに、闇商人が再び姿を表した。
「解析が終わりましたよ。ええ、社長さんの予想通り。どちらもエニアコクの粉です。最近多発している魔物による強盗殺人とどのような関係があるかは分かりませんが…どうでしょう?」
「ああ、一刻も早く現場に戻る必要がありそうだ。礼を言うよ」
ルドルフの想像通りの答えが返ってきた。ルドルフは闇商人に一礼すると、大急ぎでスラム街の最寄り駅へ向かい駆け出した。
「最近走ってなかったな…。セリアたちはどうしているだろうか…」
その頃、セリアはというと…。
「それじゃ、警護は任せたぜ」
「キヒヒヒ、大船に乗ったつもりでいてよ!」
王都の露店が立ち並ぶロータリーに用があるというシュティンケンについて回り、警護をしていた。
「さて、何の用かはわからないけど…んう?誰かいるのかなっと」
セリアは背後から見つめられるような視線に気がついた。
「昨日も誰か見てるかなと思ってたけど…あたしの目と勘のよさを舐めないほうがいいよ!」
セリアは視線を感じた物陰へ突き進むと、物陰にはよく見知った顔があった。
「まさかセリアさんがあの男の警護をしてるなんて思わなかったよ…」
「依頼を受けたからね、というか、ミミさんがいるってことはやはり…」
銀色ウルフカットにぴんと立った狼の耳と尻尾、マルーン色を基調としたメイド服。視線の主は王家直属の諜報機関I&Sのリーダー、ミミだった。
「うん、簡単に言うね。あの男、シュティンケン・ウォーレンは、最近多発するゴブリンやコボルトによる強盗殺人の計画者だよ」
ミミの発した言葉は、ルドルフとセリアが考えていた仮説と同じであった。
「それは本当のこと?」
「ゴブリンを締め上げて拷問にかけたらすぐに吐いたよ。それに、情報屋からシュティンケンがエニアコクの群生地によく立ち入っているという情報もあったし、一度話を聞く必要があるかなと。あとは…奴が魔物どもとやりとりしている場面や、エニアコクの粉の現物でも押収できれば…」
ミミはシュティンケン捕縛のために水面下で動き続けていたようだった。
「ならば、今お兄様があいつの部屋にあった粉の解析に向かっているみたいだったよ」
「ならば、その解析を聞いたらルドルフさんを連れてあたしと合流しよ…?」
セリアはミミと一時的に離れ、ルドルフとの合流を待つことにした。セリアたちが屋敷に戻った頃…
「ああ、お兄様、どうだったの?」
「ああ、案の定だったよ」
ルドルフは闇商人による解析結果を話し始めた。セリアもまた、ミミがシュティンケンを捕縛するために監視していたことを伝えるのであった。
「ふむ、なるほど…I&Sが動いているか。なら、こちらも手を引く必要がありそうだ」
ルドルフは報酬として渡された報酬を持つと、当主
であるウォーレンのもとへ向かう。
「なんだって?依頼をキャンセルしたいだと?どういうつもりだ?」
「ええ。言葉通りですよ。私達はこういったことに加担するつもりはない」
眉間にぴくりとシワを寄せるウォーレンに対し、ルドルフはエニアコクの粉を突きつける。
「どういう理由があるかはわからないが、これは貴方の子息の部屋で見つけたもの、ここ最近多発しているゴブリンによる強盗事件…これの依存性を餌にゴブリンを従わせて…私達はそう考えた。ご子息には錬金術の心得があるとのことだし、調合できるだろう。それに、あんたはこのことを知って私達に警護を依頼したんじゃないか?」
ルドルフが淡々と述べる。その顔には侮蔑の感情が込められていた。
「な、なにを…」
「ともかくだ、私は悪党の依頼を受けるつもりはない、悪いが、手を引かせてもらう。報酬は返す。では、もう会うことはないだろうな…」
ルドルフは報酬として渡された金貨を突き返すと、ウォーレンがにやりと笑う。
「そこまで知っているならもう隠す必要はないか」
ウォーレンがベルを鳴らすと、黒服の男女が数人入室し、ルドルフに銃を向ける。
「あの馬鹿息子が殺されれば、悪事が露呈し、ウォーレン家は取り潰しになるだろう、そうなれば困るだろう…だから依頼をしたまでだ。だが、感づいたならもう終わりだ、帰りたいなら帰るがいい、物言わぬ骸になってな」
ウォーレンが脂ぎった笑みをルドルフに向ける。銃を向けられたルドルフは顔色一つ変ええことなく、両手を上げる。
「なんだ、命乞いか?それならお気持ちをな…」
黒服の男がルドルフの胸の真ん中に銃を当てにへらと笑う。
「グルート・ハウホ」
ルドルフが詠唱すると、ルドルフの掲げた両手が赤く光り、黒服の男女数人にむけて高温の熱風が吹き荒れる。
「あ、あぢいいいい!?」
「んぐうう!!」
黒服の男女は焼きただれた赤黒いヒトガタになり、倒れ込んだ。数人は焼けただれた銃と手がくっつき、離れなくなっていた。
「あ、ああ…」
目の前の惨状を目の当たりにし怯えるウォーレンに一瞥もくれることなくルドルフは退室する。
「あらあら、貴族に対して依頼をキャンセルしただけでなく大立ち回りなんて、大した社長さんだねえ、くふふ〜」
外で待っていたセリアがルドルフをにやにやしながら出迎えた。
「時には依頼よりもマリーに食べさせるパイのほうが重要なこともあるからな。それより、ミミさんは」
「ん、ルドルフくん、セリアちゃん、こっち」
屋敷の外でミミが呼びかける。
「ほら、これ、情報屋の調査資料に、奴がエニアコクの葉の群生地で採取をしている写真…。まさか、君たちが奴らの警護してるとは思わなかったけど…」
ミミはルドルフとセリアに資料を手渡す。
「奴らがゴブリンたちに粉を手渡すところを取り押さえる計画だったけど、こうなってはもう出られなさそうだし…仕方ない」
ミミは軽く準備運動をすると、屋敷に向けて猛然と駆け出し、壁をよじ登り、2階の窓を叩き割り、シュティンケンの自室へ向かった。
「あー、相変わらず無茶するなあ」
その様子を見たセリアは感心したような表情にはなる。そうして数分後
「さて、まずは取り調べないとだから、あたしは城に戻るね、ルドルフくんたちも一応いろいろ聞かないとだから、また後日城に来てね」
「ええ、ではまた」
ミミは縛られたシュティンケンを担ぎ上げると王城まで駆け抜けていった。ルドルフとセリアはそれを見送る。
「貴族一家の御曹司、ゴブリンを操り強盗を実行…本人はある人物からの誘いによりやったと供述…なんじゃそら」
数日後、セリアはシュティンケンの起こした事件に関する記事が書かれた新聞をくしゃりと握りつぶし、くずかごに投げ入れる。
「ある人物ね…いろいろありそうだよね、禁足地扱いされてた変な館や、こないだぶっつぶした悪い錬金術師のギルドといい…兄様、何か知らない?」
セリアがマリーに対してパイを食べさせるルドルフに目を向ける。
「…わからないことがわかる、としか言えないが…ただ、全てが関連してないとも言えない、そんな気はしてるんだ」
「んむう…そういうこと…かなあ?」
ルドルフの要領を得ない回答にセリアは腑に落ちない様子であった。
…この事件の裏に潜む巨悪の正体を知りルドルフが驚愕するのは…しばらく後のことである
さていかがでした?
CASE26から最初の長編を予定しております




