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不思議の王国の奇妙な錬金術師  作者: えのころ
vol.1 便利屋ゼルトザームの事件簿
18/19

CASE18 疑惑の諜報メイド

最近重めの話が続いたのでここで軽めな回をひとつまみ。いわゆるお口直しというやつです

 ある日の昼下がり。便利屋ゼルトザームの面々はタイゲン一家が営むメンタンピン亭で日頃の労をねぎらうために宴をしていた。


「あわわ、こんなに高いのやおいしいの、いくらでも食べちゃっていいんですね!」


 ルチナは運ばれてきたローズバファローのピリ辛スープを見て目を輝かせる。


「えへえ、辛くてお肉たっぷりでおいしいや!…お野菜もたっぷり…そーっ…」


 ルチナはスープに舌鼓を打ちながら、苦手な野菜を別の皿により分けていた。


「ルチナちゃん、食べものを粗末にしないの!タイゲンくんやメイリンちゃんや店主のおじさんにも失礼でしょ?」

「粗末にしてないよ、あとでマリーちゃんにあげようと…」

「だめよ、ちゃんと好き嫌いせずに食べなきゃ立派な錬金術師になれないからね!」


 そんな妹を注意するクリセルダと、言い逃れをするルチナの攻防が軽く繰り広げられていのであった。

 

「今日はもう、全額社長が出すんだから、社長のポケットマネーをぶっ殺しちゃおう!がコンセプトだよ!」


 そう豪語するセリアの前にはタイゲンたちの故郷である東大陸の貴重な地酒が置かれていた。ルカスは竹筒から顔を出しながら、


「ああ、飲まなきゃやってられないからなあ…メイリンくん、もう一杯もらえるかな」

「きゅむきゅむ!」


 ルドルフが空になったガラスの急須を掲げる。ルドルフとマリーは酒が飲めず、ガンガン飲み勧めるセリアを呆れたような横目で見つめていた。飲みまくり、食べまくり、社長のポケットマネーをぶち殺そう、これが便利屋ゼルトザームの宴であった。


「いやいやすみませんねご主人…こんなに騒いじゃって」


 だとしてもあまりに騒がしくてたまらない。ルドルフは空きテーブルを拭いていたメンタンピン亭の主人に謝罪の言葉をかける。


「いえいえ、かまいませんよ。こんなに楽しんでいただければ、私としても嬉しい限りです」


 店主が優しい笑みを浮かべながら言う。


「あはは…すみませんね…いつもありがとうございます」


 ルドルフは出された饅頭にかじりつく。こうしていると…


「えへ、きちゃいました。皆さん、ごきげんよう」

「あ、ルドルフくんたち。宴会中邪魔じゃなかったかな?貸し切り…ではないよね?」


 揃いのメイド服を着た狼耳とうさ耳の獣人メイド…。チェルシーとミミが来店した。この2人もメンタンピン亭の常連客だ。2人は饅頭屋一家やルドルフたちに向け、優雅なカーテシーを披露する。


「それじゃ、あたしお水を…」

「いや待って、ぼくがいくから…」


 メイリンが水差しとグラスを持っていこうとするが、それを呼び止める声がする。メイリンの兄であるタイゲンだ。


「あれ、タイゲン、今さっき休憩行ったんじゃなかったの?」

「いや、いいから、ぼくが行くよ…にゃはは…」

「…なんかおかしいなあ、なんかゆでダコみたいになってた…」


 タイゲンはメイリンから水差しとグラスの置かれたトレイを受け取ると、そのままチェルシーとミミのテーブルへ向かっていった。頬を染めながら向かっていくタイゲンの姿をメイリンは怪訝そうに見つめていた。


「いらっしゃいませ、ミミさん、ち、チェルシー、さん…」


 タイゲンはぎこちなく動きながらミミとチェルシーのテーブルに水差しとグラスを並べる。


「ん、ありがと」 

「えへ、ありがとね、タイゲンくんっ」


 ミミとチェルシーはその場でぺこりと頭を下げ、タイゲンに礼を言った。


「え、えへえへ…その…ご注文が決まったらよ、呼んでねっ」


 タイゲンは一瞬体をぴくりと震わせたと思うと、トレイで顔を隠し、そそくさと厨房へ下がっていった。


「…どうしたのかな、タイゲンくん」

「もしかしてあの様子は…ボクかミミさんにホの字だったりなんかしちゃったりして?くふふ…」


 怪訝そうに見つめるミミに対し、チェルシーは口元に手をあて、にこやかに微笑んでいる。


「もしかして、タイゲンくん、ミミさんかチェルシーちゃんに惚れてる?」

「なんかそんな感じですね」


 そんな様子をセリアとルチナがにやつきながら見ていた。


「かわいいもんだねぇ、ミミさんに500コール!」 

「それじゃあ、チェルシーさんに200コール!」


 セリアとルチナはあまりにも野暮な賭け話を始めていた。直後、そんな野暮な2人の脳天にげんこつが落ちた。


「純真な子を賭けのネタにするとは何事だ、反省しろ!」

「ルチナちゃん、どこでそんな賭け事なんて覚えたの!お姉ちゃんはゆるしませんよ!」


 ルドルフとクリセルダの愛ある拳がそれぞれの妹に対する折檻を加えていた。


「はい、ごめんなさい…」

「反省します…ぐすん」


 小さなたんこぶを作りながら、2人は謝罪の言葉を口にした。


「でも気になるわね…ルドルフさん、もしかしたら相談されちゃうかもしれませんよ?」

「いや、恋愛相談は前例になくてだね…そうなったら困るんだ」


 ルドルフは困り顔で考え込みながら、冷めた饅頭を頬張った。ふとミミとチェルシーのテーブルをみてみると、タイゲンが注文をとっているのが見えた。


「えへ、饅頭盛り合わせだね、えへえ…」


 タイゲンは2人のどちらかに目が合わせられないという様子で厨房へ向かっていった。


「いやほんと…どっちなんだろうね。チェルシーちゃんだったら…いろいろ…うん、よくない扉を開ける事になりそうだ」

「え?」


 セリアはグラスに地酒を注ぎながらつぶやく。ルチナとクリセルダはの言葉の意味がよく分からない様子だ。


「セリアさん?それってどういうことですか?」

「あはは、クリちゃんになら。チェルシーちゃんは実はね」


 クリセルダが疑問を口にする。セリアはその疑問に答えるようにクリセルダに耳打ちする。チェルシーにかんすることを聞いたクリセルダは一瞬ぽかんとした表情になる。


「え、ほんとに、ですか?」

「マジもマジ、大マジだよ」

「え、な、なんの話?」


 信じられないという様子のクリセルダに対しセリアは本当のことだと念を押し続ける。ルチナが聞こうとしても、クリセルダもセリアも答えようとしない。


「た、タイゲン君には聞かせられないよね…これ…とてもそうは見えないんだけどなあ」


 クリセルダが見つめる先には、料理を運んだタイゲンに対しにこやかに微笑むチェルシーの姿があった。


「まあまあ、それはおいといて、タイゲンくん、さっきの地酒もう一本〜…」

「にゃはは!気に入ってもらったようで何よりだよ!」


 セリアに対してはいつもの朗らかでどこか飄々とした態度を崩すことはなかった。それを見たセリアがいたずらっぽい笑みを浮かべる。


「それで、チェルシーちゃんのどこがそんなに好きななの?」

「え、え、ふぇええええ!?」

「あらあら、そうだったんだね」


 セリアにカマをかけられたタイゲンはみるみる紅潮していき、聞いたこともないような叫びをあげた。


「にゃはは!やっぱりね」

「せ、セリアさん、どうしてそのこと」


 タイゲンがしどろもどろになる。前髪から僅かに見える目はぐるぐると渦を巻いているように見える。クリセルダたちもやりとりを聞いていたようで、セリアとタイゲンのもとに寄っていく。


「あらあら…そ、そうだったのね」


セリアからチェルシーに関する秘密をこっそり聞かされていたクリセルダはなにやら複雑そうな表情を浮かべる。


「えへえ、こんなタイゲンくん、初めて見たかも」


 ルチナはいつもの朗らかで飄々としたタイゲンの違う一面が見れてなにやら楽しげに微笑む。


「…なんだ、ふふ、微笑ましいな…あー…うん」


 ルドルフはタイゲンが恋をしていることに微笑ましさを感じつつも複雑そうにタイゲンを見つめる。


「な、なにさ…食べ終わったなら早く帰ってよね!」


 タイゲンは誤魔化すように言い捨て、セリアたちのもとから離れていく。


「ぷくく、かわいいもんだねぇ」


 セリアはそんなタイゲンをにやにやと見送る。セリアの目線の先では、タイゲンが辺りのテーブルの拭き掃除をしやがらチェルシーを見つめては頬を染めていた。


「えへ、では支払いは…25000コールになるよ」

「お、おおう…な、なんとか足りててよかった」

「にゃはは!貴重な地酒を4本もあけちゃった人いるからね!あれ東大陸から取り寄せるしかないからね、値が張るんだよ」


 宴を終え、会計を済ませた頃。ルドルフのポケットマネーは大ダメージを受けていた。ルドルフの傍らですっかり出来上がったセリアが両手を高く上げて左右に上体をゆらしている。


「んう、お会計、お願いね」

「にゃは、3000コールになるよ、ありがとうございますっ」


 タイゲンはミミから代金を受け取る。平静を装っているが、目線はチェルシーをじっと見つめていた。


「ふふ、また来るね、それでは、ごきげんよう…」


 チェルシーがタイゲンに微笑みながらカーテシーを披露する。その寛雅な振る舞いに、またタイゲンがゆでダコのように真っ赤に染まったのは言うまでもなかった。


「ところで、今日は何か用があって村に来たのかい?」


 宴を終え、夜風にあたるチェルシーに対しルドルフが質問を投げかける。


「ええ、泊まりがけで少し仕事があったもので…今日は宿をとらないと…」

「でも、宿をとりそこねちゃったね。…公園で寝泊まりしようかな」


チェルシーが答えると、ミミは2人分の寝袋を取り出す。


「そんにゃらさあ、うちのオフィスに泊まってきなよ

う、お客さま2人くらい余裕はあるよう、いいよね、お兄様?」


 セリアがルドルフの顔を覗き込み、確認をとる。ルドルフは一瞬考え込むような仕草を見せる。


「まあいいんだけど、まともに寝室として使えそうなのは僕とお前の寝室くらいしか…」


 ルドルフが答えるとセリアはにやりと笑う。


「じゃあミミさんはあたしの、チェルシーちゃんはお兄様の寝室で寝てもらうのがいいんじゃない?」

「え」

「…くふふぅ」


 セリアの提案にルドルフの目が点になり、チェルシーが頬を染める。


「魅惑の諜報メイドと同じ空間で眠れるなんて…くふふ、イタズラしちゃダメですからねえ〜」

「そ、そんな気起こすかぁ!!」


 ルドルフの胸を肘でぐりぐりとしながらチェルシーが頬を染める。、ルドルフはそれを振り払い、いつになく狼藉する。


「疑惑の諜報メイドの間違いでしょ」

「なにか言いましたかなセリアさん?」

「いやなんでも、ぷくくく…」


 軽口を叩くセリアに対しチェルシーが突っかかる。セリアは耐えきれずに吹き出し、そのまま2人でけらけらと笑い始める。


「わ、わわわ!ルドルフさんがチェルシーさんと…わ、わわわぁ!」


 なにを想像したのか、ルチナは頬を真っ赤に染め、両腕を上下に激しく振るほどに動揺する。


「ルチナくん、君はなにを想像しとるんだ」


 ルドルフがゆでダコ状態のルチナに対しやんわりとツッコミを入れていると


「ツッコミがうまいけど、下ののツッコミは…」

「ミミさん、ハウス」


 真顔で狼耳をひょこひょこさせながら話を混沌に導こうとするミミをルドルフが制止する。もはや犬扱いであった。なんとも賑やかな帰路となった…。


「えへえ、ほんとにありがとうございます」


 ルドルフの寝室兼自室のソファを寝床として借りたチェルシーがルドルフに頭を下げる。


「いいんだよ、こんな寝床しか用意できなかったけど…」


 ルドルフは研究資料を読みながらチェルシーに応対する。今日もルドルフは眠れそうにないようだ。


「えへえ、それじゃ、眠くなってきました。ボクもう寝ますね…変な気起こしちゃ、めっ、ですからね…?」


 チェルシーが枕を抱きながらルドルフに不要な釘を差す。


「君ねえ…」

「きゅむ?」


 ルドルフが呆れたような声を絞り出す。傍らにいるマリーは理解できない、というように首を傾げている。


「僕は君にそういうことするつもりはないよ…だって君は…男の子じゃあないか」


 ルドルフとセリアが知っていた事実。チェルシーは実は男であり、女王陛下の命令により女装メイドの諜報員として仕えている。チェルシーというのも偽名であり、この事実を知るのは王家の関係者と、ルドルフやセリアといったごく一部の親しい間柄の人物のみである。ルチナやタイゲンたちはこのことを知らなかった。


「もう、これでもかわいい女の子を演じてるつもりなんだから、野暮なことは言いっこなしですよ」

「そりゃあすまなかったよ。チェルシーくん」


 ルドルフの物言いに、チェルシーはむすっとした様子でそのままブランケットをかぶった。


「はは…さて、今日も長くなるかな…」


 ルドルフはそのまま研究資料に目を通し続ける。今日も夜は長そうだ。


「ん、んう…」


 夜が明け、朝日が昇った頃。ルドルフは机に向かった状態で目が覚めた。研究資料を読んだまま眠っていたようだ。


「さて、朝食の準備を…んう?」

「すぴぃ…だめですよぅ…ボクはひとりなんだから…」


 ふとチェルシーの方を見ると、だらーっとよだれをたらし、片足を放り出し、足を広げて眠っている。なにかいい夢をみているようで、幸せそうな寝言が聞こえる。切りそろえられた前髪、よく手入れされたうさ耳と尻尾、優美なそれらを台無しにするほどあられもない寝姿であった…。


「なんつーあられもない、これが魅惑の諜報メイドか…え」


 ルドルフが思わず吹き出しながらチェルシーを見つめていると、とたんルドルフの顔が赤くなりまた青くなり、最終的にハーフ&ハーフで愉快なことになった。


「むにゃあ…二人くらいまでなら…うひひ」


 チェルシーは眠りながらにして、起きていた…。それに気づいたルドルフは敗北感と羞恥心に押しつぶされそうになった。


「…セリアちゃん、ルドくんどうしたの」

「社長はね、可哀想なんだよ、たぶん…」


 ミミとセリアが怪訝そうな目を向ける先には…


「それは…テントと呼ぶにはあまりに大きく…塔と呼ぶには小さかった…あははは…」


 白目を剥き、意味のわからない言葉を繰り返しながら朝食の支度をするルドルフの姿がそこにあったという…

今明かされる衝撃の真実

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