CASE11 話し合いはあらぬ方向に
FLAT小隊との話し合いはどうなるか…?
「それで、お前たちは一体何者だ?」
「ええ。名乗っていただきましょうか」
「なんだなんだ、どうしたの〜?」
「し、侵入者!?」
ゲラルトと、合流したハイディがルドルフたちに問いかける。気づけばFLAT小隊の4人が集まってきていた。銃に手をかけたマルクをゲラルトが何も言わずに制止する。
「私は便利屋ゼルトザームの社長、ルドルフだ」
「便利屋ゼルトザームの専務、セリア」
「王家直属I&S副隊長、チェルシーです」
ルドルフたちが名乗ると二人はは頭を抱えた。
「便利屋ゼルトザームにI&Sが動くとは…」
「あの男、外道だったか…」
便利屋ゼルトザームは依頼されれば悪党を捕縛、必要ならば殺害することもある。I&Sはメイド隊の皮を被った王家直属の諜報部隊。ハイディたちも会ったことはなくとも、名前は知っていた。
「この屋敷の主、カイコンはスラム街で薬物を売りさばいている外道です、なので捕縛に来ました。そして、カイコンの悪事に加担している、知っていて護衛しているのなら、あなたたちも捕縛することになりますが…」
チェルシーが軽く圧を込めハイディたちに告げる。チェルシーの左手は青く、凍てつく冷気をに包まれている。
「…いえ、私たちは加担もしていませんし、知りませんでした」
「そうだよねえ、ただ、依頼をされて、そのまま見捨てるのも気が引けたから引き受けただけだよ、素寒貧でまとまったお金が欲しかったのはあるけど…」
ハイディとリシェルはチェルシーの圧に屈することなく答える。
「ふむ、そうですか…まあ、一応捕縛したのち事情聴取はいたしますが…では、奴の身柄を…」
チェルシーがそう告げた時だった。
「んー、別に捕まえるのはいいんだけど、あたしたちもあのシマシマハゲガッパには腹立ってたからさあ、あたしたちにやらせてくれないかなあ?」
「な、なんですって?」
リシェルの言葉にチェルシーは驚きを隠せない様子だ。
「な、なにを…」
「おいリシェル…」
「だってさあ、あたしたちだって悪を討つ傭兵集団。あんな外道のシマシマハゲガッパを守ってたんじゃFLAT小隊の名が泣いちゃうよ、それに…」
戸惑った様子のハイディとゲラルトを横目に、リシェルはルドルフの前に出る。
「あなたの錬金術や魔法術、見てみたくてねェ…センパイ…」
「!!」
リシェルがルドルフの鳩尾を指でなぞると、ルドルフは背筋が凍るのを感じた。
「な、なにを!」
「いやいやあ、知っていますよ?アカデミー始まって依頼の才人、ルドルフ先輩…卒業後に便利屋をはじめたと聞いてましたが、まさかここで会えるとは…一度お手合わせしたかったところです…ひひひぃ…」
「な、なんだこいつ…」
「きゅむ!」
リシェルが息を荒くしているのを見たルドルフは後退りする。マリーは木槌を構え、リシェルを威嚇しはじめる。
「ああもう、そんなに睨まないでよ、かわいいおちびちゃん…」
「き、きゅむ…」
マリーが頭を撫でようとしたリシェルの手を後退りで避けた。マリーの目に怯えの表情が見える。
「いひひい、製法とか素材とか…特に血液を使ったのか、アレを使ったのか、聞きたいことは山程ありますが、それはまた別の機会に…」
リシェルはそう言うとにやにやとした薄笑いを浮かべ、下がっていった。
「じゃあこうしますか、まず、うちの部下ちゃんたちがハゲ…カイコンを捕縛して、ボクらとFLAT小隊の皆さんが交戦し、勝ったほうが身柄を王城に持っていくということで」
「ええ、そうですね、傭兵である以上、戦いを求めているところはありますし、あなた達はなかなかに戦い慣れてるとみました。学びが得られそうです」
チェルシーの提案に、ハイディが乗り気な様子を見せる。ハイディのまっすぐな瞳に闘志が宿って見える。
「それでは、まずは下手人を捕縛しましょう。ジェシカさん、他の皆を連れてカイコンを捕縛し、庭の木にでも縛り付けてください」
「承知いたしました、副メイド長!」
ジェシカと呼ばれたチェルシーの部下は、他のI&Sのメンバー数人を引き連れ、カイコンの捕縛のため屋敷内へ侵入していった。しばらくして、中年男性の汚い断末魔のような叫び声が響いたと思うと、部下たちが簀巻きにされたカイコンを運んできた。
「よし、それじゃ、今からあたしたちでやりあって、んで、シマシマハゲガッパのシマシマを1本引きちぎった方の勝ちってことでいいかな?」
「い、いや、なぜわしの髪を引きちぎる必要が!?」
「うるさいよヤク売りハゲガッパ」
セリアが出した提案にたいして簀巻きのままツッコミを入れたカイコンの髪をセリアは容赦なく2割ほど引きちぎった。
「無茶苦茶しますね…」
「緋燕のセリア…多くの悪人を切り刻んできた猛者だ…ふざけているように見えるが、油断はするなよ」
ハイディとゲラルトはセリアに対し警戒を強める。
便利屋陣営とFLAT小隊が向き合い、戦いの火蓋が切って落とされた。
「さて、速攻で決めるよ!」
「っ!速い!?」
最初に動いたのはセリアだった。燕のようなスピードでハイディの懐にはいる。腕には既にかまいたちをまとっている。
「そりゃあっ!」
「っ!」
かまいたちをまとった強烈な水平斬りがハイディを斬りつける。バックステップでかわすも、薄く一文字に斬りつけられてしまう。
「さすがです…ですが、これは!」
「おおう!雷使いか!でも、食らわないよ!」
斬り終わりの隙をつき、横っ跳びで距離を空けたハイディの指先から弧状の雷が放たれる。セリアは超反応を見せ、空高く跳び上がる。
「なんとかかわした…さて、どう動こうか」
「着地の隙を…」
セリアが着地するその瞬間を、茂みの中からはマルクの銃口が狙いを定めている。セリアが着地し、ハイディと向き合ったその瞬間…
「ぐあああっ!?」
「よし、狙い通り」
ドンッという破裂音とともに、セリアの後背部を圧縮された空気の弾丸が襲った。狙われていたことにも気づかないまま、セリアは気づけば前のめりに倒れていた。
「予期せぬ角度からの一撃…」
「ええ…スナイパーは地味に徹し、ここぞの場面で的確な一撃を食らわせる…それが本分ですからね」
「はは…さすがだよ…言うだけあるね」
「お褒めの言葉ありがとうございます。では、見えない弾道の怖さ、再び味わってください」
マルクのスナイパーとしての矜持を聞いたセリアは感心するしかなかった。FLAT小隊…そこいらのチンピラや悪党とは桁が違う強敵だ…。マルクは銃口をセリアに向ける。
「ボクを忘れちゃ嫌ですよ!」
「うああ!」
チェルシーの声とともに、指先から放たれた氷塊がマルクの手を強打し、空気圧の銃が遠くにはじかれる。
「し、しまった!」
「させないよ」
マルクが銃を取りに出たところをチェルシーが狙う。マルクの足元が青く光ったと思うと、マルクの膝から下が氷漬けになり、動けなくなる。
「おとなしくしていてください!」
「っ!さむい、冷たい!」
チェルシーは冷気をまとった身体でマルクを抑え込む。
「あーらら、ありゃしばらくきついね…ではこっちも続けようか」
「っ!さて、見せていただきますよ!その切れ味を!」
セリアはかまいたちを纏った腕、ハイディは獲物である剣を抜き、お互いの懐に入り、斬り合いを始めた。
「斬るタイプの攻撃同士フェアにやっちゃいましょうかあ!」
「対戦よろしくお願いしますっ…!」
お互いに斬撃を斬撃で受け止め、斬撃で斬りつけ合う鍔迫り合いが始まった。
「大根おろし!紅葉おろし!筆下ろし!六甲おろし!」
「どこの世界線の話ですかっ!らちがあきませんね…っ…このっ!」
「あ、足ぃっ!?」
セリアが斬り合いに気を取られている、その隙をつき、ハイディが強烈な足払いを決めると、セリアはつんのめって倒れ込んだ。
「斬り合いだけが戦闘じゃありませんからねっ!」
ハイディは距離を置き、剣を両手で構え円を描くように一回転させた。そのとき、剣の刃にが雷を纏い始める。
「雷電一閃!」
「んぐぅぅっ!っ!雷を纏った斬撃とはやるじゃない…」
ハイディがまさに雷のような踏み込みを見せ、セリアに斬り掛かった。セリアは後ろに引いて斬撃をかわそうとしたことで肉を軽くハスられる程度で済んだ。
「っ、う、動きづらいね…これじゃあ今は斬り合うなんてできそうにないかな…」
斬撃で受けた傷そのものより、雷を纏った斬撃を食らったことによる痺れにより動きづらくなっていた。
「今です!追撃を!」
ハイディが追撃のために斬りかかろうとした時だった。
「だけども、動けないほどでもないかな」
セリアがハイディに向け左手をかざすと、凄まじいまでの突風がハイディを吹き飛ばす。
「うあああ!?」
「斬り合いなんてただ遊んでいただけ、でも結構やられちゃったかなあ」
セリアは流れたちを拭いながらしびれる体を引きずり、カイコンのもとへ向かう。
「ふふ…そぉぉぉい!!!」
「んぎゃおええええ!?」
カイコンの残った髪を鷲掴みにすると、勢いよく引きちぎった。カイコンのシマシマハゲは、なんとも形容しがたい芸術的な形になった。
「これが勝利条件だったからね。ふふん。さて、あっちはどうなってるかな」
セリアとチェルシーがハイディ、マルクと交戦していた頃、ルドルフは、ゲラルト、リシェルと火花を散らしていた。
「これは、耐えられないぞ!!」
「むうううっ!!」
ゲラルトの警棒によるフルスイングがルドルフの腹部を打ち抜いたと思うと、激しい金属音が辺りに響いた。
「…そのローブの下、防具を仕込んでいたか」
「御名答…」
ルドルフは身にまとっているローブの下に、胴体を覆う仕込みの甲冑を着ていた。それがなければゲラルトの一撃はルドルフの骨を何本も粉砕していただろう…。
「ルド先輩、この爆弾はどうですか!?痛いよ熱いよ〜!」
リシェルが爆弾を放り投げる。爆弾は弧を描くようにルドルフに向けて飛んでくる。
「食らってやるわけにはいかないが…避けきれないか…」
う
ルドルフは岩陰に隠れ、爆発から身を隠す。岩の前に落ちた爆弾は激しい爆発音と爆風を上げ、ルドルフの隠れた岩を粉々に砕いた。
「ぐおおおっ!?」
爆風を直撃することは免れたものの、砕けた岩の礫を浴びてしまう。
「凄まじい威力だ…腕利きの錬金術師と見受ける。だが、私のがよいものをっ!」
ルドルフはよろめきながら立ち上がると、白い爆弾を投げつける。地面に落ちたそれが弾けると、強い光と音を放った。
「め、目がっ!」
「み、耳も!?」
視覚と聴覚を奪われたゲラルトとリシェルが悶えている間にルドルフは駆け出し、ゲラルトの顔を掴む。
「シャーフ・ヴァルデシュランゲ…」
「ぐっ…」
ルドルフの睡眠魔術が炸裂すると、ゲラルトはそのまま深い眠りに落ちた。
「それなりにやるみたいだけど、まだまだ私たちには敵わないかな…」
ルドルフがリシェルの頭を鷲掴みにし、力を込める。
「あだだだだだだだ!いだいいだい!魔法もできて錬金術もできて、力がゲラルトちゃん並ぃ!!?ずるいよずるいよ!」
「よし、こっちも終わり…あっちも、終わったようだな」
涙目のリシェルをその辺に置くと、カイコンから引きちぎった髪を掲げたセリアが目に入る。かくしてルドルフ一行はFLAT小隊を打ち破り、カイコンの身柄を得た。
「うう…強かった、けど、学びを得ました…」
「魔法術への対抗策…考えねばな」
「いひひ…先輩にはあたしの作品…もっとお披露目したかったなあ…」
「へくしょん!風邪引いちゃった…」
敗れたFLAT小隊は、便利屋ゼルトザームとの交戦を経て自分たちに足りないもの、やりたかったことなど、確実に何か学びを得たようだった…
まだまだ実力は及ばなかったFLAT小隊、強くなって戻ってくるか?それはまた別の話
はい、では次回は一話完結、闇深?ちょいホラーなお話になるかなと




