7.『最初の町』の中級ダンジョン進行
細かい数値まで設定してる作品ってスゲーと思う。
私はできない。雰囲気でどうぞ。
「MNDが――でVITが――だとダメージが――。さっきは――――。…てことはブレスの計算式は――――。とするとスキルで強化する分もいれてMNDは――あれば………。いや、回復のリキャストが………。それならSTRを――まで上げられる。敵HPは――くらいだから…手数は………」
すでにボスのいなくなった洞窟型ダンジョンの最奥で、エンプティはああでもないこうでもないと一人唸っていた。そう、『最初の町』近郊のダンジョンである。エンプティはこのダンジョンをもう連続で十数回ほど周回していた。
結局、オフラインで手に入るスキルの一覧など見つからなかった。
エンプティはそれならばと、どの攻略サイトにも載っていた「チュートリアルをさっさと終わらせるのに必要・便利なスキル」のみを用いた『最初の町』完全攻略に舵を切ったのである。
その第一段階として敵スペックの把握である。装備やスキルで自身のステータスを調整することで、敵の攻撃・防御性能やダメージ計算式を逆算して割り出すのだ。
かなり細かい作業で他のプレイヤーからは呆れられることも少なくないが、この病的なまでに数字に基づいた分析がエンプティを強者足らしめる要因の一つだった。
「………。行けるな。次は実際に縛ってやるか」
来た道の逆順を辿って一旦ダンジョンの外を目指す。今はオフラインモードなので一度外に出ればダンジョンは直ぐに再生する。オンラインモードだと色々と仕様が異なるのだがここでは割愛する。
外に出たエンプティは装備をオフラインで手に入るものに変更し、最後に真っ黒なチョーカーを取り出し装着する。各ステータスの元々の値を好きな値まで減少させるアイテムだ。縛りプレイにしか使えないアイテムだがエンプティは愛用しており、装着する手付きは淀みない。かつてその様子を見たウーナは白い目を向けた。
「さて、………行くか」
精神集中と手順の確認を済ませて、エンプティはダンジョンへと駆け出した。
○
三分後。
エンプティは町の小さな神殿にいた。死に戻りである。ボスまで辿り着くことすらできなかった。
「雑魚集まって来るのか…。そうだよな、今までは火力あったもんな…」
勿論、エンプティは道中の魔物のスペックも把握していた。しかし、最初にHP減少による行動の変化がないことを確認したため、それ以降は検証が済めばとっとと止めを刺していたのだ。戦闘が長引いた時の軍としての行動は把握していなかった。
「集まって来るとなると、さっさと倒すかいっそ逃げるか…。雑魚のHPは………。逃げるならAGIが………。となるとボスは………」
エンプティにとってのダンジョン攻略は実践一割思考九割だ。ダンジョンにいる時間よりもこうして神殿でぶつぶつ呟いている時間の方が遥かに長い。
今回はオフラインなのでNPCの神父に怪訝な顔を向けられるだけで済んでいるが、普段は人の多いオンラインの神殿だ、その怪し過ぎる姿は悪い意味で有名だった。
たっぷりと一人反省会を終えて。
「さて、………行くか」
お決まりのセリフを最後に呟いて、エンプティは神殿を出て行った。
○
三回の死に戻りを経た。
「この辺から群がって来るようになる…」
エンプティは無意識に呟きながらダンジョンを進む。
エンプティの『最初の町』は、地表エリアのトリサード大陸中央部に位置するノイサ共和国のスタルテという田舎町だ。
近郊にちょっと大きな湖があるくらいしか特色はない。その湖が関係あるのか、周囲のダンジョンでは水棲生物系の魔物が多く、現在エンプティが攻略しているこのダンジョンも例外ではなかった。
目の前には二足歩行のイモリ――所謂リザードマンに似ているが、爪や鱗は無く、かわりに四肢や背中が毒の粘液で覆われている――が二体、両方ともこちらに向かって来ている。
洞窟内は狭く、一体なら隙を見て脇を抜けることもできるが、並ばれると通り抜けることはできない。まずい展開だった。
「くっそ…集まって来んなよ…?」
魔物はダンジョン内を自由に移動する。敵を見れば襲って来るが、近くにいるかどうかは運次第だ。敵に増援が来ないことを祈りながら、エンプティは斜めに並んだ二体のイモリマンと対峙する。
先に仕掛けたのは向かって右前に立っていたイモリマンだった。右腕を叩きつけるように大きく振るう。隙の大きな一撃だ。軌道を見切ったエンプティは空いた脇に入り込み、右の脇腹を短剣で切りつける。普段ならこれで終わるのだが…、やはりチュートリアルスペックでは倒し切れなかった。
悲鳴を上げたイモリマンは怒りに任せて続けざまに左腕を振るう。しかしエンプティは後ろ下がってそれを回避し、さらに攻撃を仕掛けていた後ろのリザードマンの突きを防ぐ盾として利用する。
「っし。『攻撃力強化』っと」
仲間に押される形になったイモリマンは体勢を崩しつんのめる。その隙を見逃さず、スキルで火力を底上げして無防備な首を二度切りつけたところでイモリマンは力尽きて倒れた。
まずは一体。だが…。
残ったもう一体が大振りの一撃を振るう。倒れたイモリマンが最初にやったものだ。同じように脇に潜り込み、今度は切りつけることなく走り抜けた。
考察・検証を重ね、エンプティは雑魚敵からは極力逃げる方針に決めた。戦闘を行うのはさっきのように逃げ切れない場合だけだ。
このダンジョンの雑魚敵は大きく分けてイモリマンとコウモリの二種だ。両方とも正式な名称ではないが。
イモリマンはこのダンジョンの主な魔物だ。
毒の粘液を持ち、触れるだけでダメージを負う。さらに再生能力も持つため、コンスタントにダメージを与え続けるか一気に大ダメージを与えなければならない。チュートリアル相応に能力を縛っている現在ではかなり面倒な相手だ。
しかも奥へと進むにつれて復数体で襲って来たり、途中から敵を加勢したり、剣や盾などの武器を持ち出したりする。まともに相対するとかなり時間がかかる相手だ。
コウモリはそのまま三十センチくらいのコウモリだ。ダンジョンの中間地点辺りから出現する。
イモリマンと戦っていると天井から降りてきて噛みついては直ぐに天井へと帰っていく。防御は低く切りつければあっさり死ぬのだが、噛みつきはそれなりのダメージが有るので無視できず鬱陶しい。
イモリマンとの戦闘さえ避けられればコウモリも出て来ない。そしてイモリマンは攻撃がかなり大振りで回避自体は然程難しくなく、そのまま逃げられるくらいのAGIはチュートリアルの装備でも確保できた。
ステータスもスキルも弱いので正面突破は到底無理だが、逃げに徹すれば十分勝機は見込める。
実際に、五回の死に戻りを経てエンプティはボス部屋に到達した。




