「すごいもの貰っちゃったね……」
エレニカから受け取った神をも作り出せる薬液を手に、シアンと相談した。
薬として取っておくというのも一つの手だ。白亜でも如何しようも無い未知の病が流行することもあり得る。その時のために保管するのも悪い手ではない。
ただ問題なのはこの薬の存在を隠し切る方法だ。もし何処からか情報が流出してしまったら、狙われるだけでは済まない危険な品だ。それもこの世界の中だけの話で完結しないかもしれない。
エレニカは「俺みたいに特殊な存在でもなければ、普通は意図的に神を作ることは無理」と断言していた。今、神を創ることができるのはエレニカと白亜だけらしい。
誰かが他にも隠し持っている可能性はあるかとエレニカに聞いたら「可能性はないわけじゃないけど、これを見つけるまで俺も忘れてたくらいだし、多分持ってるとしたら相当高位の神だね。まぁ……多分これ持ってたら大半の神はさっさと使うから最後の一本がこれと言われても納得だね」とのことだった。
基本的に神は神を創れない。超人に神力を与えることで神に近い存在に引き上げることはできる(白亜がその最たる例だ)が、完全な神を作ることはほぼ不可能だ。白亜ですら何度も転生することにより漸く神化した。自然発生により神が生まれることはあるそうだが、コントロールはまずできないらしい。
そのために神を生み出せる代物は貴重なのだそうだ。
単純に労働力が増えるのだから、慢性的な人手不足に陥りがちな神の世界では重宝されることだろう。実際エレニカも忙しすぎて分裂していた。
この薬も『もう今はいない』神によって生成されたものらしく、おそらくこれ以上出回ることはないとの事。他の神に知られれば厄介ごとに巻き込まれる恐れもある。
「……使っちゃった方がいい、かな」
『エレニカ様もそう仰っていましたし、争いの火種になるくらいなら……いっそ使ってしまった方がいいかもしれませんね』
エレニカも「さっさと使う方がいいかもね」と言っていたので、その通りにしようという結論になった。
使うとなれば配下がさらに増えることになる。一応ジュード達にも聞いてみるかという話になり、白亜はジュード達の仕事場へ向かった。
ジュードの仕事は主に外交関係だ。他国からの訪問客や手紙を処理するのは大半がジュードである。
これに関しては王子として教育を受けてきたジュード自身が「これは僕が引き受けます」と言った仕事だ。
正直白亜がこれをやったら色んな意味で大変になる可能性があるので、ジュード以外いないとも言える。
礼儀作法に関しては朱雀やガルダ達も問題ないレベルではあるものの、あまりにも長生きすぎて少々古臭い礼を使ってしまうことがある。それだけなら別に大丈夫なのだが、あまりにも白亜が好きすぎるのが問題なのである。
召喚獣として白亜に従っている彼、彼女らは『主人に気に入られること』が基本的な行動原理としては最優先だ。ダイに関してはちょっと違う気もするが。
召喚獣は基本、手伝って欲しい時に対価を支払って喚び出すものだ。つまり召喚主は対価を支払う必要がある。ただ一緒に居たいからいる、というだけではこの場に留まることができない。
白亜の場合は召喚の時に使う魔法陣をシアンと共に魔改造しまくった結果、それを最小限に抑えることに成功している。それでも多少の対価は必要になるのでタダでというのは無理だが。ちなみに対価は大体の場合魔力である。
ずっと召喚したままの状態になっている白亜の負担は、実は軽いものではない。白亜だから何とかなっているだけで、普通の魔法使いなら対価としての魔力を使い切って下手したら死にかねない。白亜がいない時もダイ達がこの場に残っていることができたのは、何かあった時のためにと白亜が最初に召喚した際に相当な量の魔力を受け渡ししておいたことと、もしもの時用の魔力を込めた道具を置いているからだ。
サクッと喚び出して結構こき使っている白亜だが、ちゃんと支払うものは支払っている。そのため『主人に嫌われれば、もう喚んでもらえない』と感じているのだ。別に多少の失敗を咎めるほど白亜は細かい性格していないが、召喚獣としてはそんな漠然とした不安があるらしい(色々特殊なダイを除く)のだ。
そのため白亜の役に立てるならと暴走しやすいのも事実だ。
普通なら召喚主の話しか聞かない召喚獣達を宥め、指示を出せるジュードとリンの二人がいなかったら、召喚獣達のやらかしに頭を悩ませることになり白亜はもっと生きづらい生活を送っていたかもしれない。
来客が白亜の悪口を言ったと暴走されて他国からの風当たりが強くなると困る。念には念をと他国交渉では忙しすぎる時を除いては全部ジュードに任せきりなのだ。
そんなこんなで(下手したら白亜より忙しい)ジュードの部屋に行くと、リンとジュードで他国からの手紙の返事を書いているところだった。
「あれ? ハクア君。どうしたの?」
「リンもいたのか。ちょっと相談したいこと……みたいなのがあって」
この薬の話が外に漏れてはまずいと判断した白亜が即座に防音の結界を張る。そもそもこの部屋は防音設備が備わっているのだが、それでも更に防音を重ねる白亜に二人の顔が少し真剣になった。ちょっと世間話、という空気感でないことを察したらしい。
白亜、というかほとんどシアンがエレニカに聞いた話や今回の件で得たものの話を簡潔に説明した。
そしてシアンと白亜の方針としては『持っていることのリスクを考慮して、早めに神を作る形で消費したい』ということになったとも伝えた。
「すごいもの貰っちゃったね……」
「本当ですね。僕としては師匠のものなので口出しはするつもりはないです。早めに使いたいというのもわかりますし。それにしても、その薬って師匠の力でも複製できないんですか?」
「ああ、これは無理っぽい。なんか能力がうまく発動しないんだ。こんなの量産できるってなったら、それはそれでどうしようって思ったけど」
「「確かに……」」
あまり力が強すぎるものは、持っていても不幸になってしまうこともある。白亜だけではなく、ジュードもリンもそれはよくわかっているので、今後を考えて使ってしまおうという結論に至ったのだった。




