クリスマス番外編 下
クリスマス? そんなものは忘れてください。
卒業試験とか色々あってあんまりPC触ってないんです、すみません……
猿王子の子供には白亜もかなり困っていた。
大人ならば「自分の面倒は自分で見ろ」と追い出すことも検討するのだが、まだ10歳なのである。
白亜の感覚からしたら10歳なら金があれば一人で生きていける年齢ではあるが、一般人はそうでもない。
しかも王族の子だ。甘やかされて育っている。
放り出すのは簡単だが、それで事故にでもあってしまえば普通に国際問題だ。ジュードの身内だからと雑な対応はできない。
「本当、なんとかならないか……興味がこの街から逸れてくれればいいのか?」
そもそも街全体を、生活ではなく娯楽の類に特化させているのでなかなか難しいかもしれない。
ただでさえ面白いものが集まっている場所に興味を持つなと言うほうが難しい。
「……そういえば、この近くに湖ってなかったか?」
「湖ですか?」
「あるよ。ハクア君の足ならすぐだけど普通の人ならそれ程近くでもないし、この街は水を引く必要ないから重要視してないけど」
リンが地図を持ってきて白亜たちの前にある机に広げる。リグラート領が細かく描かれたこの地図は白亜たちが勝手に作った代物だ。
本来地図は戦略的な意味も含むので個人がサクッと作って所有するべきものではないのだが、白亜の場合は魔眼で全方位見えているので正直隠されたところであまり意味はない。そのことをリグラート王……ジュードの父に正直に伝えたら「じゃあ作ってもいいが、私にもくれ」みたいなことを言われた。
ただし他の貴族などには内緒という条件付きである。
リンが指差したのは森のやや東側に位置する場所だ。この森はとても広く、また厄介な魔物の類が出現する。単純に強いだけでなく、人を好んで食う生物もいるため開拓が進まなかったのだ。
そのおかげで白亜の領地は、ほぼこの森全域である。
正直他の人間では管理できる土地ではないので助かったとジュードの父から言われたほど『微妙』な土地なのだ。
そこそこ広大ではあるものの、あまり肥沃でない大地に、頻繁に出没する魔物。森から先は荒れ地が広がっているので戦略的な意味も薄い。そう言った理由から、ここを欲しがる人は基本いなかったので殆どの自然が手付かずで残されている。
コロポックル族が今まで発見されていなかったのも森の厄介さが原因だ。
もっと価値のある森だったら白亜が見つけるより前に誰かが発見していただろう。
「この森って……俺の好きなようにしていいんだよな?」
「え? まぁ、一応許可は頂いてますが」
白亜は眼に魔力を流して湖を確認する。
「ああ、あった。これだ……。このあたり調査したのって誰だっけ?」
『この辺りはダイですね』
「ダイか」
表で大はしゃぎしている当人を見つけた白亜は、椅子から立ち上がるのも面倒なので通信機で連絡を取った。
「ダイ、はしゃいでるところ悪いが聞きたいことがある」
『ん? いいぞ。だが、こんなに近いのになぜ通信を』
「動きたくない」
『……そうか』
疲労など一切感じない白亜だが、『寒そう』とか、『疲れそう』とか何となくの感覚でそう言ってみたりする。
実際は苦痛に関しては殆ど何も感じていないのだが、人間だった頃の感覚でそんな感じがするのだ。
本当は感じていないのに見た目で判断するので寧ろ前より動かなくなった気がする。
「で、聞きたいことなんだけど。この街から少し行ったところに湖があったのを覚えてるか?」
『ああ、あったな。大きさの割には魚も少なかった』
「やっぱりそうなんだな? 大型の魔物は?」
『ふむ……部屋に戻れば詳細な記録はあると思うが、確かいなかったな。そもそも魚が少なく、しかもあの辺りは荒野に近くなる。大物がいたとしても食事も満足にできないだろう』
白亜は遠視でよく周辺を観察し、ダイの証言が正しいことを認識する。
「何となくわかった。ありがとう」
『ああ、それより遊ばなくていいのか?』
「いい」
ブツッと通信を切ってジュードとリンに思いついたことを話す。内容は、この街の外にも娯楽を作ろうというものだった。
白亜の話を聞いて二人はピンとこなかったのか一瞬キョトンとしたが、白亜と、主にシアンの説明で理解できたらしく頷いた。
数日後、白亜やその配下たちの能力により異常な速度で完成された建物が湖のそばに建てられた。
白亜の『時間を思い通りに動かす力』と配下たちの『身体能力』と『魔法』、白亜を崇拝していると言っても過言ではないハクアファンクラブ会員の『圧倒的財力』と『コネ』をフル活用すれば高層ビルですら三日で建設できる。今回はその力で巨大な旅館を作り上げた。
宿はハクアの街にもあるのだが、最近観光客が増えすぎて手狭になってきていたのだ。街の構造上、これ以上建物を増やせないので外部に作ろうという話は出てはいたのだが、こんな急ピッチでこんな場所に作られるとは誰も予想していなかっただろう。
運がいいことに白亜はエレニカの指導で神力を扱える。時間を戻したりすることに重点を当てて練習していたが、空間を操るのも非常に上手くなってきてはいるのだ。
そのためにこれだけ距離が離れていても、白亜の能力ならハクアの街からここまで一瞬で移動できるように空間を曲げることができる。
だからこそこの場所に作ることができたのである。そしてここに作ったのには理由があった。
「ぅわっ! これ、まともに立てないよ!」
「あ、でも壁に掴まれば意外と……慣れればいけそうです」
ここは殆ど魚もいない湖。夏になれば泳ぐことができる。そして冬になれば、湖の表面を氷が覆うのだ。
「白亜。ここに作った理由、ようやくわかったぞ」
「ああ。夏は遊泳、冬はスケート場として使える。氷が張ってなかったり、氷が薄かったりしても俺たちなら表面を凍らせることも難しくない。宿の問題解決と、街の外にも施設を作ることでの人数の分散もできるかもと思ったんだ」
この年からこの湖は、ハクアの街のもう一つの観光地として人気が出る。白亜の思惑を知ってか知らずか、猿王子一行はこちらの宿に入り浸るようになってしまい、白亜の部屋のものが壊されることはなくなったものの結局街から引き離すのには失敗した。




