「うん……それはなんかわかる」
「あれ……できてる……?」
ふと流れ作業になりつつあった分離作業。基本的に時間を戻しすぎて細かいチップが大量に床に散らばり続けていた白亜の足元にシート状のものが落ちた。
もう手元などほぼ見ていなかった白亜は足の上に落ちたシートをワンテンポ遅れた反応で認識する。
透明なシートが二枚、重なって落ちていた。
「で、できたぁ……」
本当に一生終わらない気すらしていた白亜はその場に座り込む。
ここまでの精神的な疲労感を覚えたのは久しぶりである。達成感より安堵が先に来た。
エレニカがお茶の入ったペットボトルを投げてよこす。シートをじっくりと見て軽く頷いた。
「お疲れ様。どうやってやったか覚えてる?」
「なんとなくは……」
正直半分意識なかったので曖昧である。もう一回やれと言われたらやりたくない。
『私が記憶したので問題ありません』
「お、君のサポートさん凄いね。主人が覚えてないことも記録できるんだ」
『はい。基本的にスケジュール管理などは私がやっています』
「うん……それはなんかわかる」
白亜がスケジュール管理とか明らかに向いていない。
気分で物事変更してしまうので、キッチリしているシアンとジュードが近くにいるのは幸運だ。白亜のやり方では敵を作りすぎる。
「いやぁ、よく頑張ったね。正直かなりの難題をぶつけてしまったから修正入れたほうがいいかなって思ったんだけど」
白亜はまだあまり自覚していないが、今回の時間戻しは任意の時間に巻き戻したり早送りしたりして固定するための力だ。
触れた瞬間にどこまで巻き戻せるのかをなんとなく理解できるようになる。どれくらい力を使えば任意の時間に巻き戻せられるかもわかる。
正確には、白亜ではなくシアンが習得したと言っても過言ではないが。
白亜がシアンに「二枚のシートの状態になるまで巻き戻して」と伝えればシアンがその通りの現象が起こせる量の神力を計算してくれるのだ。本当にシアン様様である。
白亜一人だったら倍の時間は掛かっていたかもしれない。
「それで、なんでこのやり方を?」
お茶を飲みつつ、エレニカにずっと聞くのを忘れていた疑問をぶつける。正直クリアすることに全力だったので質問を浮かぶ暇がなかったのである。
「ああ、言ってなかったかな。君を敵対視してる俺の元ストーカーなんだけど、物作りの神でもあって。特に武器製作に長けているんだ。そのせいでバカみたいに強い武器をバンバン作って下界に配っちゃって、一時大変なことになったんだよ」
『大変なこと、ですか?』
「本当、人の手に余るものばかりだったせいで、ちょっと戦争したら大陸が三つなくなってね。大きすぎる力ってのも扱い難いものだよ。その上天界にまで乗り込もうとする輩まで出てきたもんだから大騒ぎ。他の世界の神も手伝ってなんとか鎮火させたんだよね」
ちょっと戦争したら大陸三つなくなる、とは規模が大きい。
しかもその勢いで神の領域に入り込もうとする人が出てきたのが凄い。
「そのとき結構俺が活躍しちゃって、そのせいでそいつに目をつけられたんだけどね。無視はできない状況だったし、ああするしか無かったのも事実なんだけど、今ちょっと後悔してんのさ、手助けしたこと……」
白亜としても話を聞く限り面倒そうな相手なのでできれば関わりたくない。
残念ながらもう目をつけられてしまっているらしいが。逃げられないからこそ、エレニカも急遽白亜に修行をつけにきたのだろう。
逃げ出す場所があれば完成するかもわからない修行云々に時間を費やすより逃げた方がいい。エレニカが逃走経路確保より戦力強化を選択したということは、おそらく逃げるのは難しい。
「それで、これからどうすれば?」
「ひとまず向こうから反応があるまで休憩だね。君の力なら油断しなきゃ勝てると思うし、相手の道具を封じる方法も身につけた。後は調子を整える時間だよ」
試合前のどこかのボクサーか、と思ったが状況的にはそれほど大ハズレでもない。
「思ったより早く君がこの課題をクリアできてよかった。最悪一ヶ月かかるかと思ってたし」
「一ヶ月もこんなことしてられない……」
たったの数日でこれなのだから、こんなのやっていられない。
シアンがいたからこその時間短縮だ、本当に一ヶ月かかる掛かっていた可能性があることを考えると少しゾッとした。
「それじゃあとりあえず帰ろうか。君は一旦寝たほうがいい。精神を休めるためには寝るのがいいから」
「そうさせてもらいます……」
それから白亜は二十時間爆睡した。




