「そう言われても、なんか出来るのでやっているだけで」
エレニカの話に、いつか来るその時を意識してしまって少し作業の手が止まる。
白亜の気持ちもわかるからか、エレニカもその事を指摘せずにポットにお湯を注いだ。
エレニカが無言でお茶を淹れる間も白亜は考え込んでしまっていた。その内、ふんわりと爽やかな少し苦味のある香りが漂ってくる。
緑茶特有の香りに少し驚いて顔を上げると、小さな包みを取り出してそっと差し出しているエレニカの姿があった。
受け取ると、小さな大福であることがわかる。いつの間にかすぐ横に茶柱の立った緑茶が置いてあった。少しだけ休憩しろという事だろう。
軽く会釈してお茶を口に含むと、少しぬるい緑茶がほんの少しの甘みとじんわりと広がる苦味を届けてきた。疲れた体に溶けていく。
「休憩なんて入れるつもり無かったけどね。ちょっと重い話をしてしまったし、せっかく良い茶葉を手に入れたから一息つけられるかなと思ってね。アマテラスに貰ったんだ。この小さい大福もそうだよ」
ポンと優しく白亜の頭に手を置くエレニカ。白亜の事を子ども扱いしている所が時々あるエレニカだが、なぜかそれに関しては気にならないのだから不思議である。エレニカが半端じゃないくらい年上だからというのもあるが、生きた経験に関して自慢をしようとしている所がないからというのも大きいだろう。
相手を一人前と認めた上で接している。子ども扱いと言っても、エレニカの場合は基本的にどんな相手も年下だ。成長中の後輩を見守る先輩の立ち位置に似ているかもしれない。
おそらく神や人間などの種族の違いを考えずに一個人として接しているのだろう。
「さぁ、これを食べたら再開しようか。さっきも言ったけど、決めなければならない時まではまだ時間がある。君のしたい事をする為に、自分に正直でいる事を心がければ大丈夫だよ。自分に嘘をつくと、後々酷く後悔するから」
エレニカの言葉に小さく頷いて、大福を齧った。
作業を開始してから二十時間ほどが経過した。
いまだに緩衝材の時間の巻き戻しは成功していない。一度惜しいところまで行ったのだが、一瞬だった。
「うーん。いつもそうなんだけど、君のやり方はあってるんだけどね……過程なんだよなぁ」
エレニカも頭を悩ませている。
白亜は天才である。一を知って十を即座に推測できる頭の回転もそうだが、なんとなくで色々操ることができてしまう。その為に普通の人なら意識するだろう過程をすっ飛ばして考えてしまう癖がある。
魔法を使う時も特に意識を集中させなくともポンと使ってしまえる。大抵の人なら詠唱をして、魔力を集めて、イメージを固めて魔法を発動するのに対し、白亜の場合は使おうと意識したら何となく出てくるので他の人がやっている細々とした過程を意識する必要がないのだ。
だから普通の練習法が使えない。リグラートの学校を途轍もない早さで飛び級してしまった白亜だが、教師からすれば天才すぎて教えるのも大変そうである。
だからこんなにも早く卒業できたのかもしれない。
「そう言われても、なんか出来るのでやっているだけで」
「うん。君の言いたいことはわかるよ。俺も炎系統の魔法使う時は何となくで使えるし」
うまく分離は出来ないが数だけはこなせているので、発動も早くなっている。特訓という点では失敗している訳ではない。ただ、力を使いこなせているかといえば『そうでもない』のだ。
そもそも神としての生きている年数が短すぎる。
人として生きていた期間を全部合わせても100年に届かない。そんな白亜が魔力よりも扱いが難しい神力を天才とはいえ完璧に使いこなせるはずがないのだ。
神力は魔法とは全く異なる力だ。出来ることに関しては似たものもあるが、砂糖と塩くらい違う。調味料というカテゴリで見たら同じだが、味は真逆である。
使い方が違う上に、白亜は時空神である。空間と時間を操る、言わば複合属性の神だ。複合された力を持つ神は実はかなり稀で、根本の力が違う可能性もあるらしい。
その為、精霊神であるエレニカの助言は実は何の意味もない、という可能性も十分にあり得るのだ。
白亜はかなりのイレギュラーな存在なのでエレニカも指導に困っている所もある。
「複合型の神って、昔はいなかったからね。ここ数億年くらいでたまーに生まれるくらいの確率だし、その力の研究も進んでいないんだ。だから神力の質が違う。俺のやっていることが君にとってやたらと難しいことに感じているという可能性もあるんだけどね」
エレニカは白亜の修行の内容も少し見直しているらしい。
「まぁ今は考えるより沢山こなすしかない。頑張って」
「……はい……」
軽く肩を落としてため息をつく白亜だった。




