「キモいだろ?」
エレニカとの特訓を終えて三日。ゆっくり休みを取っていた白亜の元へ再びエレニカが訪ねてきた。
「どう? 休憩はできた?」
「こんなに休憩できるなら、もっと余裕を持ってやれば良かったと後悔するくらいには……」
「あー、いつ来るかわかんなかったから、可能な限り急がせちゃった。悪いね」
苦笑したエレニカが取り出したのは、黒い封筒だ。
金色の字で何か書いてあるが、白亜には何て書いてあるのかがわからない。
「思ってたより早くきた、君への招待状だ。あいつからのね」
封を切って便箋を取り出すと、薄い青の便箋に何故か赤文字で何かが書き殴られている。
全く読めないが、書き手の怒りだけはひしひしと感じる。
「あの、読めないんですが……」
「ああ、ごめん。君にはまだ教えてない言葉だった。えっとね……………。うん……やっぱあいつキモい」
読みながらエレニカの顔が歪む。
文面からして気持ち悪いらしい。エレニカはこれを言葉にするのも憚られるらしいので、ささっと別の紙に訳してくれた。
【 エレン様を独占するクソ野郎へ
我が愛しのエレン様に対する無礼、貴様の一生分の恥と引き換えにしても足りない事を知るが良い。
十の青い月の夜、貴様に私と決闘する名誉を与えてやろう。
光栄に思うがいい、そしてエレン様の目の前で大恥をかいて死ね!
身の程を弁えろこの豚が! 元人間の弱小神ごとき、生きていることすら不快だ。
さっさと死ねクソ野郎が!
レーグ・ノア・ザイレット 】
文面を読み、正直この感想としては「うわぁ」としか言えない。
「「………」」
確かにこれは気持ち悪い。エレニカの言いたいことが凄くわかった。しかも赤文字で送ってきているのである。
途轍もない殺意を感じた。
「キモいだろ?」
「……あの、はい……」
言いたいことがよくわからない。しかも語彙力の問題なのか怒り狂っていて同じ言葉しか浮かばなかったのか、内容は終始殆ど同じである。
とりあえずさっさと死んで欲しいと思われている事と、クソ野郎と言われている事だけは確実である。
「えっと、十の青い月って?」
「こいつの世界の日付だね。日本風に言い換えれば、五月の満月かな?」
「十月じゃないんですね」
「まぁ時間軸ズレてるし。こいつの世界だと一年は三十ヶ月だから。一か月は短いんだ」
エレニカはそれから数秒黙り、軽く頷いてから白亜に向き直る。
「こいつの世界の暦から逆算すると、こっちの日にちで『十二日後』ってとこかな。十二日後の夜に決闘がしたいってさ」
「あと十二日ですか。……エレニカさんはいらっしゃるんですか」
「ああ、一応行くよ。君強いから死ぬことは無いと思うけど、あいつが何するかわかったものじゃないからね。不正とかさせない為に俺も行くよ。俺のせいでもあるし」
ことの発端は確かにエレニカだが、今回ばかりは如何しようも無い。
というか、このキモい奴が悪い。
「というか、決闘ってこんな風に申し込むものなんですか?」
「いや、ちゃんとした作法はあるよ。これじゃあ拒否権ないし。まぁでも、そもそも決闘なんて認めちゃ駄目なんだけどね。長としては。でもこいつの場合はちょっと例外。ボコれるときにボコりたい」
エレニカが関わる理由は結構私情だった。
「頼むハクア君。こいつをボコボコにしてくれ。もう顔の形わかんないくらいまで殴って良いよ! 俺が許可する! ついでに俺への接近禁止とかしてくれたら更に嬉しい!」
「思ったより、恨み募ってますね……」
「こいつのせいで面倒なこと色々あるから、そろそろ俺キレそうなんだよ」
エレニカも大変なんだなぁ、となんとなく他人事に感じている白亜である。
『今回の場合、私たちは全く他人事ではないですけどね』
シアンに言われて肩を落とした。この面倒そうな人とやり会いたくない。戦うこと自体はそれほど嫌いではない白亜だが、こういう相手は初めてなので普通に嫌である。
大きなため息を白亜とエレニカが同時についた。
お互い心労が絶えない。
「あ、そうそう。この前言ってた報酬、持ってきたから今渡すね」
「報酬?」
「うん。先日、君が受けたお仕事へのお給料的なやつ。後日渡すって言ったでしょ?」
確かにそんなこと言っていた気もする。
ハードではなかったが、拘束期間が長い面倒な仕事だった。
異世界を渡る必要があるので、そこそこ力のある神でなければ引き受けられない仕事であるとエレニカに言われていた。
それでも地味で面倒なので人気はないお仕事でもある。
「はい、紅茶」
「え? ……あ、ありがとうございます。良い香りですね。というか、報酬って紅茶で支払われるんですね」
「いやいや、これボケだから本気にしないで」
エレニカが苦笑しつつ何処かから取り出したのは白い腕輪と黒を基調とした手袋だった。
「これは?」
「白い腕輪は特に大したものじゃないよ。ただ、俺の紋章が入ってるから、この先面倒な神が居たらその腕輪見せれば大抵はおとなしくなるよ。……ならない奴もいるけど。日に三度、飛び道具から身を守ってくれる魔法具でもあるんだ」
「へぇ……」
これがあれば白亜へのヘイトを多少は散らせるだろうか。
「手袋の方は自信作だよ。アマテラスとの合作なんだ。決闘の日につけてって」
「わかりました」
そして十二日後の夜、決闘が始まった。




