『じゃあ来週また連絡するねー』
白亜の上司の話になりつつある時、その上司から連絡が入った。噂をすれば影というやつだろうか。それとも単純に白亜の行動をずっとみていただけなのかもしれないが。
「すみません。少し外しても?」
「? ああ、そうだね。一度休憩しようか」
白亜に入る連絡は基本的にシアンが受け取る。無言で急に立ち上がった白亜をみて、トイレか何かだと思ったらしい。
白亜はまだうまく使えないが、空間移動と似た神力の使い方の一つに通信系のものがある。声を出さずに会話する『念話』に非常に近いものだ。
念話なら使い慣れているのだが、根本的に使っている力が違うのでまだ扱いには不得手である。
そのため、本来なら無言で会話できるはずの力であるはずなのに、声を出して会話しなければ通話できないという矛盾が発生している。
結果独り言にしか見えないのだ。白亜自身、割と独り言が激しい(シアンと無意識に会話しているので)タイプで、別に独り言を言っているのが恥ずかしいとか思ったことはないのだが。
今回の場合は機密事項に触れる可能性があるので、なるべく一人の空間に行きたいと思ったのである。
勘違いされているとは分かっていたが、正直「何かあったの?」とか聞かれても困るのでそのままにしておく。
まさか話題になっている上司から直接連絡が届いたとは思っていないエヴォックたちを横目に、隣の部屋に行き魔法で音を遮断する。
「よし。シアン、繋いでくれ」
『はい』
数秒後、聞き慣れた声が響く。
『あ、お疲れー。どう? 調子は?』
「……エレニカさん……?」
なぜか天照大神ではなく、エレニカだった。
シアンも天照大神が出ると思っていたのですぐに反応できない。そもそも白亜に取り継ぐ前は確かに天照大神だった。いつの間にエレニカが乱入してきていたのだろう。
『ごめんね、アマテラスが急な用事入っちゃったみたいで……なぜか俺に引き継ぎしてきたんだけど』
「それは……お疲れ様です」
『うん……とりあえず君の仕事内容をざっくりしか聞いてないから、詳しく教えてもらってもいいかな』
どうやらエレニカは詳細を聞かされていなかったらしい。
トップの扱いがあまりにも雑すぎる。
ざっと(シアンが白亜に指示して内容をまとめた)解説をすると、エレニカが「そっか」と簡単に相槌を打った。
「それで、これからどうするべきでしょうか」
とりあえずそこである。すぐ帰るべきなのか、まだ留まった方がいいのか。
やるべきことは全部終えたので、あとは帰るだけである。前田が実際にどうなるかを決めるのは白亜の役目ではない。
『そうだね……君の送ってくれたデータ見たけど、これなら彼は適性があると認められると思うよ。君自身は彼のことをどう思う?』
「悪ではないと。人としての生き方は真っ当だと思います」
『人として、か……うん。君の報告書の書き方からしてちゃんと公正な目で見ていたっぽいし、君はしっかり職務を遂行してくれた。ありがとう』
エレニカの言葉に少しホッとする。
初めての仕事で緊張していたのかもしれない。とはいえ白亜の胆力から考えると微々たるものではあるだろうが。
『それで、君はどうする? すぐ帰ってくるかい?』
「もう帰っていいんですか?」
『うん。あとは俺の方でやっておくし、帰りたいなら今すぐにでもいいよ。……あ、帰り方大丈夫?』
「帰り方はわかります」
この前知ったのだが、エレニカはかなりの方向音痴らしい。
自身に備わる特殊能力のおかげで迷うことは滅多にないそうなのだが、それがなかったら目的地にたどり着けることは皆無だと自分で言っていた。
そのためほとんど迷ったことはないけれど迷う人の気持ちはよくわかる神である。
「えっと……もう少しだけ、ここにいてもいいですか? お世話になった人とか、いるんで」
『ああ、それは別に構わないよ。いつまでとか決めてる?』
「じゃあ、一週間欲しいです」
『了解。こっちで滞在日程伸ばしとくね。あ、俺の権限で勝手に引き延ばしって本当は良くないから、あんまり他の神に言わないでね』
「わ、わかりました」
実はこれ、さらっと職権乱用である。
普通、こういった下界での任務の場合は下界の情報を少しでも乱さないために『なるべく早く』帰るのが鉄則だ。
もう白亜の場合はあらゆる場所を引っ掻き回しているが、本来そんなことはしてはならない。
まだ「自分は神だ」とか言いふらさないだけマシではあるが。
だがエレニカの場合、エレニカに意見できる神が実質ほぼいないので(天照大神は別枠)見つかったとしても誰も怒ることができないのが現状だ。
ちなみに天照大神がエレニカに意見できるのは『友達枠』である。白亜もだが、本当なら話すことなんてできないはずの存在なのだ。あそこまで軽い性格だとそうは見えないのが残念なところではあるが。
『じゃあ来週また連絡するねー』
本当にノリが友達との電話のそれである。
なんでこの人がトップなんだろうと、たまにふと考えてしまうくらいには不思議だった。




