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「君を御せる人がいることに驚きだよ……」

遅くなりました……もう四月ということに驚きです。

 リシューにもだが、全員にいつ帰るかとかは言っていない。


 もう帰るかもという発言に一番動揺したのはエヴォックだった。


「えっ! だってまだ帰らないって言っていたじゃないか!」

「まぁ、あの時はとりあえずそうだったんですが……この数日で私自身の用事はほぼ終わってます。とは言っても帰る帰らないを決めるのは私じゃないんで、まだハッキリとはわからないんですが」


 なんでそんなに反応してるのかがよく分かっていない白亜がさらっとそう答えると、エヴォックが大きなため息をついてガックリと肩を落とした。


 かなりショックだったらしい。


 というのも、とんでもない戦闘能力を持つ白亜がいれば今まで手が出せなかった様々なことが片付く可能性がある。


 これからの計画を練っていたらしいエヴォックが年単位で再び計画を見直す必要が出てきたのだ。ちょっと可哀想である。


 実はもともと白亜が勝手にリシューを連れてきて、あの黒い蜥蜴をがっつり一掃したことでかなり年計画に修正を入れる必要があったのだ。


 あの黒蜥蜴、この辺り一帯ではほとんど敵なしの最強生物だった。リシューは別格で別物扱いなので単純に比較はできないが、白亜がそこそこ本気で殴らなければ倒せない相手というのは確かに相当である。


 少なくとも防御力だけでいえばジュード並みである。


 そんなものがあんな風に群れで行動していたら、そりゃ誰も歯が立たないはずである。


 リンの魔法なら遠くから狙い撃ちで全滅、ジュードなら普通に剣で首を落とせるだろうが、あのレベルは正直異常と言っていい。


 白亜の周囲も十分化け物なのだ。ちなみにリシューとジュードならおそらくジュードの方が強い。


 リシューとリンだと、距離によってはリンが勝てるだろう。近接だったら魔法を打つ前に襲われそうなのでリシューの方が有利だろうが、白亜から教わっている転移などを駆使すればリンも勝てるかもしれない。


 ダイなら普通に勝てる。白亜からの扱いが毎度酷いが、彼も一応神獣である。


 そして今回、幸か不幸か白亜があらゆる障害を気づかずに排除した上で、それ以上にヤバイ存在を引き連れてきたことにより年計画を大幅に変更したのだ。


 黒蜥蜴をどうにかして街道に出現させないための策や、サザ(リシュー)を刺激せずに他国との交流を進める方法の模索などに、それこそ数年単位で考えていたことが。まるっと意図しない形で解決してしまったのだ。


 黒蜥蜴に関しては逃げた個体もいるが、白亜がいると向こうが思っている限り近づいては来ないだろう。


 それくらいのトラウマを植えつけたのは間違いない。


 そして他国との交流に最も大きな障害となっていたサザ。


 国を隔てる巨大な谷はその近くを通るだけで命の危険があり、要人が通過するなどとてもできない状態だった(ガルは戦闘力があるので問題ないと判断されたらしい)が、今ではサザ改めリシューと会話できるということが判明し、橋を架けるということまでしてしまった。


 リシューと話ができるということが知れ渡ればもっと外交は便利になる。


 だが、リシューを取り込もうとする国もどこからか出てくる可能性が大いにあるのだ。


 そうなった時にリシューが敵対でもしたら色々とまずい事態になる。


 リシューが暮らす谷に一番近いのはこの国である。人の足ではそこそこ時間がかかってしまう場所にはあるが、リシューの足なら数時間でつく。


 実際白亜がその背に乗って帰ってきたので間違いがない。遠いと言ってもそこまでの距離ではないのだ。


 とはいえ最も危険な存在の対処が可能であるということがわかっただけ、白亜は大手柄である。


 会話するなんて発想、普通の人間なら絶対に出てこない。実際リシューは最初白亜に襲いかかっていたのだから。


 白亜が異常な強さを持っているからこそ、たまたまこんな結果になっただけである。


 その白亜がいなくなってしまったら、困った事態を何とかしてくれる人がいなくなってしまう。


 白亜のパワープレイは意外にも誰かの役には立っていた。


「帰るのをやめてもらうってのは、無理かい……?」

「え……ちょっと難しいです……」

「そうだよね……」


 ちらっと『領地経営っぽいことをしてる』と聞いているエヴォックとしては「領地を放棄してこの街に留まってくれ」なんて言えない。


 普通に考えて領地の経営など、そんな簡単にぽんぽん投げられるものでもないからだ。


 エヴォックが落ち込んでいるのを見て哀れに思いつつ、白亜らしい回答だと苦笑いするガルは「一つ気になったのだが」と前置きして、


「帰るのかを決めるのは私じゃない、ということはその目的は君自身のためのものじゃないという事か?」

「そうですね。仕事です」

「仕事、ということは先ほどの言葉から察するに雇い主のような存在がいるのだろうか」

「はい。仕事を終える終えないは私の上司にあたる人が決めます」


 白亜はただの報告係である。


 前田がこの世界の英雄になる資格があるとは伝えたが、白亜の報告を見て「いや、やはり不適格だ」と上が判断すれば時間を巻き戻して終わりである。


 前田の様子を逐一報告するだけならば白亜でなくてもいいので多少白亜の主観も交えて報告してくれという事なのだろうが、白亜の意見などあまり意味はない。


 ただ、もし「的確だと思うかい?」と聞かれれば「はい」と迷わず答えるだろう。


 そう断言するくらいには前田のことを気に入っていた。


 エヴォックは白亜の上司という存在を想像し、また大きくため息をついた。


「君を御せる人がいることに驚きだよ……」


 多分その人も苦労してるんだろうな、とは思いながらそう呟いた。

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