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『流石に私もそう思います、マスター』

 エヴォックが胃を痛めつつも一応の報告は終了した。


 報告したのは白亜ではなくガルだが。


 ここで、エヴォックから今更すぎる質問が出る。


「ところで、谷で会ったとお聞きしましたが……なぜそんなところに? あんな谷に入るなんて一般人なら自殺行為ですよ」


 リシャットはさらっと一般人から外されている。


 ここまで色々やっておいて一般人だと言い張るのも無理があるとシアンとアンノウンが判断した為、白亜は無言でガルに目を向けた。


 シアンに止められていなければ「私が一般人ではない明確な理由ってなんですか?」と素で訊いてしまうところだった。


 周りからはどう見たって色々と規格外の白亜だが、本人これでも目立たないよう努力しているところもある。その努力は好奇心の前には霞むのであまり意味はないかもしれないが。


「ここに来る途中で大切なものを落としてしまって、取りに行ったら迷ってしまった」

「「「………」」」


 なぜ取りに行くときに上に上がる術を残しておかなかったのかが不思議だ。


 せめて何かしら目印でもつけながら降りたら、まだ迷うこともなかったかもしれないのに。


「それでよくご無事でしたね……」

「小生はこれでもそこそこ強い自負があった、のだけども。彼を見てからでは、まだまだだと思い知ったよ」

「リシャット君は色々おかしいので、基準にしないほうがいいと思いますよ」


 どこに行っても論外の存在扱いを受ける。


 リグラートでも「君基準でランク設定したらみんなランク1から上がれないから、君は暫定的に最高ランクって事にしておくけど、実際は圏外ってことでいい?」とギルドから直接言われた。


「それで、この街にはどんな用事で?」

「ああ、約束があってね。彼のおかげで間に合いそうだ」


 約束があってあの余裕があったのか、と若干驚く白亜。


 普通の谷を抜けたとしても、街に着くまでかなり時間がかかるであろう事を考えて時間設定しているのか謎である。結果オーライでいいという性格なら、それでもいいかもしれないが。


「それでは、報酬はまた後日でいいかな? 正直、色々ありすぎてパンクしそうだ……」


 本気で疲れた様子のエヴォックを残して部屋をでた。








「それでは小生はここで。約束があるからね。次会ったら酒でも奢らせてくれ、本当に助かった」

「そうですね……お酒より珍しいお茶や料理の方がありがたいです。リシューも果物?」

「桃がいい」


 本当に桃が好きらしい。嗜好があまり大人らしくない二人にガルは小さく笑って手を振った。


「わかった。茶の美味い店を探しておく。桃はうちの国から美味いものを取り寄せよう」

「ええ、楽しみにしておきます」


 ガルと別れ、物珍しそうに街を見渡すリシューと共に食事でもとろうかと歩き出すと、前田に腕を掴まれた。


 歩き出そうとしていた白亜に、多少力が強くとも一般人の前田は敵わない。


 白亜の手に引っ張られて盛大に顔面から転ぶ。


「「「………」」」


 その瞬間、全員が無言になった。


 あまりにも綺麗なヘッドスライディングはコントにすらみえる。自分から転びに行かなければそんな事にならないだろう、と誰もが思うほど吹っ飛んだ。


 白亜が見た目相応の線の細い人物だとするのなら、だが。普通に歩くときに手を前後に振る動きでさえ、当たったら人が吹っ飛びかねない威力なのだ。無理な体勢で白亜を止めようとした前田がバランスを崩したのは言うまでもない。


「あの、なんですか?」


 目の前で人が吹っ飛んだ(無自覚に吹っ飛ばした)にも関わらず最初に出てくる言葉は「大丈夫?」ではなく「何?」である。


 流石白亜だ。自分の方からしか景色が見えていない。前田とあまり関わろうとしていないのも理由の一つではあるのだが。


『白亜……そこは先に心配してやれ』

『流石に私もそう思います、マスター』


 武器と能力の方が周りを見ているのは間違いない。白亜は見えていない、というか見ていない。気を配る努力すらしないのである。


 白亜らしいといえば、その通りだが。


「なんで、お前……」

「?」

「そんな重要で凄そうな仕事やってんだよ」

「すみません、質問の意図がわかりかねます」


 白亜のストレートな物言いは伝えたい事はわかりやすくはあるものの、軋轢を生みやすい。


 結構な回数「俺を下に見てるんだろ!」とキレられている。


「だから、なんでギルドマスターと直接依頼内容確認してんのか聞きたいんだよ」

「ああ、それはエヴォックさんが今回の依頼を申し込んできたので」

「そういう事じゃなくて……! 何やったらそうなるんだって聞きたい」

「普通に仕事してますよ?」


 普通に仕事して最初の仕事でおかしな巨大生物の群れを仕留められるとは思わない。


 白亜は何度も聞かれるので、仕方なくエヴォックと会ってからの話を全てした。


 だが、前田は「何か裏がある」と確信したらしい。それから面倒な事に、ちょくちょく前田が白亜の秘密を暴こうと接触してくるようになった。

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