『あれでよく引きさがってくれたな』
白亜は紅茶を口に含んで小さく感嘆の声をあげる。
「……いいですね、これ。香りが爽やかです。柑橘系のシャーベットに掛けても美味しそうですね」
「気に入ってもらえて何よりだ」
リシュー達と出会って数日後、ガルと白亜、リシューは三人で食事に出かけていた。
実はガルと別れてから連絡先を伝え忘れていた白亜だが、リシューの諸々の件でガルにも話を詳しく聞きたいとギルドから呼び出しがあり、そのタイミングでガルが白亜の連絡先をエヴォックから聞き出したのだった。
ちなみに今回のことが済むまでリシューは白亜と同じ宿で寝泊まりしている。
白亜はというと、エヴォックから「すぐに話聞きたいって上から頼まれた時に君いないと困るから街にいて」と切実な表情で頼まれたので街から出ずに露店巡りなどをして暇を潰している。
しばらく働かずとも金ならかなり余裕がある上に、事情を理解しているエヴォックがリシューの分の雑費を経費でなんとかしてくれる。
白亜はもともと少食なので食費もあまりかからない為、出費のほとんどは宿代だが、高級宿に泊まっているわけでもないので白亜の懐へのダメージは微々たるものだ。
単純計算であと三ヶ月は遊んで暮らせるくらいの金はある。
街から出ないことに関しては特に不満もない。面倒なのは前田だ。あれから結構な頻度で突っかかってくる。
正直監視対象と仲良くするつもりもないのでなるべく放置しているのだが、面倒なのは変わりがない。
「それで、桃は気に入ってくれたかい?」
「ああ。とても良い。帰ってからすぐに食べる」
箱に入った高級桃をガルから受け取ったリシューは、それをしげしげと見つめながら頷いた。
桃に関しては厳しいリシューの合格をもらえたらしい。甘い香りが漂っているそれを、大事そうに隣の席に乗せた。
ガルは未だ紅茶をゆっくり楽しんでいる白亜にこっそりと話しかける。
「あの件がどうなったか、聞かせてもらっても良いかな? 中途半端なところまでしか聞けなくてね」
「まぁ、そうですね。一応仮契約ということで話はつきました。今後どうなるかは、一先ず半年様子を見るそうです。リシューもそれでいいって言ってますし」
白亜が勝手にリシューと結んでしまった不可侵の契約だが、エヴォックがそれはそれは頑張った結果、なんとかして履行にまで持って行けた。
根回しなどを一切せず国家問題に発展しかねないことをやらかしてしまった白亜の責任も多少問われる事態にはなったのだが、白亜とリシューの仲がいいことを知った上層部はそれを不問にした。
白亜の力量は知らずともリシューが危険なのは誰でも知っている。
白亜を害することでリシューが牙を剥くことになってしまうのは、なんとしてでも避けたかったのだろう。
残念ながら白亜の方がリシューより圧倒的に強いので害することすら不可能なのだが。
「君のところに上層部が直接話しに来たんじゃないのか? リシューとの関係をどうやって説明したのか聞いてもいいかな」
「えっと……名前がちょっと似てるから仲良くなれましたって言いました」
「………そう……」
リシャットとリシュー。確かに似ているが、それだけの理由で仲良くなれるのであれば誰でもできそうだ。
白亜は「名前が似ているから」という謎すぎる理由でごり押しした。説明を半分以上放棄したのである。
なぜなら説明するのが面倒だから。「知っていることは全部話した。これ以上話すことはない」という意思表示でもある。
普通ならその理由では納得できないだろうが、白亜が説明下手という話をエヴォックがあらかじめしていたらしく、結構すぐに諦めてくれた。
『あれでよく引きさがってくれたな』
『普通無理ですね。ギルドマスターのお陰でしょう』
本当にエヴォックは有能である。白亜のあれこれに全部対応してくれる。
ただ、エヴォックにも限界があるらしく、働きすぎで倒れた。
大したことはない、少し眠れば治る程度の睡眠不足だったが、シアンとアンノウンは『これ以上はエヴォックに押し付けるのやめてあげよう』と考え、白亜にもその旨を伝えた。
そしてそれはガルもなんとなく感じ取っている。白亜とリシューに「エヴォックさん無理させちゃダメだよ」と約束を果たすついでに伝えてきたのだ。今日のこのお茶会は白亜に紅茶をおごるという約束以外にもそれを伝えるためのものだったらしい。
白亜はなんとなくわかっているのか、いないのか。一応返事はしたが、本当に理解できているかは謎である。




