「遭遇したというか……彼です」
今回から話が戻ります。忘れてしまった方は三話前を見てから来てくださいませ。
なぜか前田が白亜達の話し合いに参加する形になってしまった。白亜は若干の居心地の悪さを覚えつつ、ガルに酔い覚ましの薬を渡す。
応接室で白亜とガル、前田が横に並んで座り、向かいのソファにエヴォックとリシューが座った。
前田と同じグループの女性達は前田の後ろに急遽用意した簡易的な椅子を並べて座っている。
「それで、サザの件を聞こうか。遭遇はしたのかい?」
「遭遇したというか……彼です」
白亜がリシューを手で示す。リシューはエヴォックへ「そうだ」と頷いてみせる。
「彼って、どういうこと?」
「えっと……谷に行ったら、ガルさんと会って、色々あってサザと会って、食べ物用意する代わりに橋作らせてって頼みました」
「「「………?」」」
事情の知らない面々の全員の頭に『?』のマークが浮かんでいた。
あまりにも説明が下手すぎる。
ただの事実の箇条書きに、ガルとリシューが軽くため息をついた。
ここで一つ補足しておくと、白亜は文章力がないわけではない。文章を構成する能力は人並み以上には持っている。
だが、残念なことにそれをいざ使うとなると使い方がド下手なのだ。
コミュニケーションに頭を使ってこなかったツケが回ってきている。
何をどう添削して話せば『相手に伝わるか』という考え方が欠如しているのだ。
白亜の基準は全て自分自身。そのせいで他人から見てこの状況はどんなものなのか、ということを考えるのが酷く苦手なのである。自己中心的、というより人に頼ることをしなかった為に自分自身で全部完結させようとした結果だ。
自分自身で終わらせるつもりなら誰にも何も伝える必要はない。
頭の中だけで思い浮かべてうまくいくか考えて、実行する。その行為に他人が挟まらないのなら会話は存在しない。
シアンという会話相手はいるのだが、シアンの考え方は白亜のそれなので結局あまり会話の訓練にはならない。
ジュード達は白亜の言葉足らずに適応しているので問題なく意思疎通が図れる。
結果、未だに会話は苦手なのである。
「うーん……もっと詳しく話してもらっていいかな……?」
「詳しくですか……」
白亜的にはどこをどう詳しく話したらいいのかさっぱりわからない。今さっきの報告でちゃんと報告できていると思い込んでいる時点で結構重症である。
悩んでいると、大分落ち着いてきたらしいガルがお茶を飲んでから一言告げる。
「……よければ、小生が話そうか?」
「「……お願いします……」」
白亜とエヴォックは白亜の言語能力に諦めた。
エヴォックはガルから聞いた話を整理して頭を抱えた。
まずどうして行くのに普通数日かかる谷に一日で行って帰ってこられるのか、という疑問はもうどうでもいいと感じるくらいにはなってきた。悪い意味で白亜に慣れてきたらしい。
そんなことより問題は『リシューと約束してしまった』ことにある。事後報告だ。
まだ一応白亜とリシューの内輪だけでの契約に過ぎないが、これが適用されるかどうかは正直わからない。
サザとコミュニケーションを図ったことがそもそも前代未聞のことなのだが、しっかり話し合って決めてしまっているので反故にもし難い。
しかもそのサザが今横にいる。下手な回答をすれば自分が食われるのではないかと戦々恐々としつつ、エヴォックは思考を巡らせる。
白亜のやってきたことは結果だけ見ればパーフェクトだ。どちらにも損が出ないし、しっかりサザの意見も考慮されている。
だが性急にもほどがある。普通こんな大掛かりな契約を結ぶなら年単位で準備や根回しが必要だ。白亜はそれをゴリ押しで全部すっ飛ばしてしまったのである。
特にわざと谷の付近を長く通行止めにして、商人から高い通行料を受け取っていた貴族あたりが荒れることは目に見えている。
「そういうことか……何をどうすれば……どこから手をつければ……」
このままではエヴォックの胃に穴が開きそうである。
すると突然沈黙を貫いていた前田が、
「なんか問題あるのか?」
とサラッと言った。問題ある、というかほとんど問題しかないのだが、彼の考え方は若干白亜に似ているらしい。
お気楽といえばそれまでだが。
「問題というか、なんというか。あまりにも急な話だったので」
エヴォックが苦笑いを浮かべた。そこにリシューも少し不思議そうな表情を浮かべつつ声を上げる。
「しかし、これがそちら側の要求を最もいい形で纏められるものだと思ったのだが、違うのか?」
「え、あ、いや……なんというか……」
リシューは人の柵を知らないだけである。だが、リシュー本人が一番の当事者である。
リシューの意見はもっとも尊重されるべきであることは間違いない。
「いえ、そう、です……ね。頑張ります……」
エヴォックは白亜に負けないくらい死んだ目になりながら張り付いた笑みを浮かべた。
この場にいる人の中で、ガルだけがエヴォックがこれから抱え込むであろう様々な面倒臭い問題に対して理解できていた。
だが、あまり巻き込まれたくなかったため、それは口に出さなかった。
無邪気に酷いことをしてしまった白亜と前田、リシューがそれに気づくことはなかった。




