(一人増えてる……)
ガルが乗り物酔いで倒れる寸前のところで漸く到着した。流石にサザの巨体が街の近くにいきなり現れたら大騒ぎになるので数キロ離れたところから歩く事になる。
白亜の魔法により人化したリシューは物珍しそうに辺りを観察している。完全に観光客だ。
ガルの足がふらついて中々進めないので、仕方なくリシューが背に背負う形で街に入る事になった。
「とりあえず雇い主に報告に行く。リシューのこともそこで話そう」
「雇い主か。どんなニンゲンだ? 強いか?」
「人間の括りでいうなら、そこそこ強いんじゃないか?」
雇い主に対してかなり失礼な発言である。
白亜の場合大抵の生物が自分より弱いので、客観的に見て正確に伝えようとするとなんとなく上から目線の発言になってしまうのは仕方ないのかもしれないが。
嫌味は一切なく、ただ現状を伝えているだけなのだが、如何せん気遣いができないのでズケズケ言ってしまう。
「ここだ。誰かに話しかけられても反応しないでくれ」
「了解した」
リシューがここで暴れたら色々困る。話しに来たのに早速好き勝手やってしまっては、信用がなくなる。
一応周りに気を張りつつ、扉を開けて中に入ると予想外の人物がそこにいた。
「あ! お前……りしゅ……りしゃ……? なんて名前だっけ?」
「……リシャットです」
「ああ、そうだ。そんな感じの名前のやつ」
監視対象の前田だった。
後ろには女性が四人いる。うち二人は日本人だが、もう二人はこっちの世界の人だ。
(一人増えてる……)
『この方想像以上に……』
『ヤバイなこいつ……』
つい昨日までは女性は三人だったはずなのに、気がつけば一人増えている。
白亜も気づかない早業でメンバーを獲得していく前田は、白亜より圧倒的に高いコミュニケーションスキルを持っているのだろう。ジュードといい勝負かもしれない。
「お前もこれから仕事か?」
「いえ、今終えたところです。これから報告に向かうところで……」
話の途中で白亜が何かに気づいてカウンターの奥へ目線を向ける。
数秒後、そこからエヴォックが出てきた。
「ああ、リシャット君。依頼の報告かな」
「はい。少しお話ししたいことがあるのですが」
「それなら応接室へ。……それと、彼とは知り合い?」
白亜の隣に立っている前田を示してエヴォックが訊いてきた。
なんと答えたらいいのか一瞬迷った白亜だったが、すぐにシアンが台本を作って白亜に読み上げさせる。
「多少面識のある程度です。人となりに関してはあまりよく存じ上げません」
「そうか。君が業務連絡以外で話しているのを見るのは珍しいから、親しい仲なのかと思ったけど」
「親しいというほどでは。顔と名前が一致する程度……いや、それ以下の関係です」
前田は白亜の名前を覚えていなかったので、それ以下と言って問題はないだろう。
それに関して前田が苦笑しつつ、
「結構冷たいな、リシュット。同郷じゃないか」
「リシャットです。私の名前を間違えている時点で他人にも等しい間柄といっても問題ないでしょう?」
同郷なのかも怪しいところだ。そもそも白亜は一応生まれがロシアなので、同郷という言葉が正しいのかもよくわからない。
「リシャット、そろそろガルがまた吐きそうだ」
「あ……悪い」
横からリシューに話しかけられて当初の目的を思い出す。
「エヴォックさん、そろそろ」
「そうだね。立ち話もなんだし、応接室へ行こうか。君達もかい?」
エヴォックはなぜか前田にもそう声をかけた。白亜が話をしていたので今回の件に関わりがあるとでも思ったのだろう。
「いや、彼らは関係ない……」
「あ、いいですか? じゃあ俺たちも」
「なんで……?」
なぜか付いてくると言い出した。
実はこれ、珍しい事でもない。エヴォックがこのギルドのトップである事は、ここに所属している人なら大抵知っている。
最初の顔合わせというものがあるからだ。白亜の場合、最初期からエヴォックが白亜の担当になっていたのでそんなものなかったが。
そういった事情もあって、トップであるエヴォックとの繋がりは誰だって欲しいと思うのだ。
しかも白亜はかなり気軽にエヴォックに話しかけているところから、そこそこ交流があるとわかる。白亜とのパイプを持っておいて損はないと考える人が大半だろう。
この前田のポジション、狙っている人は一人や二人ではない事を白亜は知らない。
なぜだろうか、全く関係のない前田が、白亜とエヴォック、そしてリシューとの話し合いを見物することになったのである。




