『……でかい狼と誤魔化せんか?』
一つだけでは不便なので、白亜とサザはその後も橋をいくつか建設し、地上での行き来もできるようにした。
「ありがとう。これである程度面倒ごとは減らせると思う」
『そうであってくれれば嬉しい。それで、これから帰るのか?』
「そのつもりだ。サザとの契約も果たすためには色々準備があるだろうし」
普通、その準備を終わらせてから交渉すべきなのに。とガルは密かに思ったが、言えなかった。
白亜はこれから起こる面倒ごとはエヴォックに丸投げするつもりである。清々しいまでの他力本願だ。
そもそも白亜は今回調査を依頼されただけなのだが、契約までしてしまっている。ありとあらゆる過程をすっ飛ばしているので、ゴタゴタが巻き起こるのはどうしようもない。
買おうかどうか迷っていた高額なものを「どんなものか見てきてほしい」と頼んだら即金で買ってきてしまった、というのに似ているかもしれない。事態はもっと深刻だが。
しかも今回は外交問題に関わる。
さらっと「あ、契約したんでよろしく」で済む話ではないだろう。
それを白亜は事後処理や各所への根回し、その他諸々全てをエヴォックに投げるつもりなのである。鬼畜だ。
『では、乗せて行ってやろう。契約が履行されるという確信が持てるまで付き合ってもらうぞ』
「それはいいけど、その姿で人前に出たら大騒ぎで済まないと思うが」
『……でかい狼と誤魔化せんか?』
「えー……無理だと思う」
その辺で偶然遭遇した狼なんです、という説明で納得できる人は多分いない。
しかもたとえ狼でも街には入れない気がする。
「……ちょっと、やってみるか……」
ぼそり、と白亜が呟いてサザに触れる。サザは数秒不思議なものを見る目で白亜を見ていたが、そのさらに数秒後、視界が急に低くなったことに気がつく。
白亜を見下ろしている体制から、見上げている体制になったのだ。
「?」
目線を下にすると、人のものと全く遜色のない手足が見える。
「???」
白亜はどこからか取り出した服を被せ、サザをまじまじと観察する。
「うーん……まぁ、いいか。不自然ではないだろう。でもやっぱり短時間では目の色とかまではどうにもならないか」
「ちょっ、いま何したの!?」
「何って、それは……ぁ。あれです、生命の神秘みたいなやつです多分」
「絶対適当言ってるよね?」
ガルが見ていることを完全に忘れて普通に魔法を使ってしまった。普段の癖である。
欄丸の件で人化の魔法は手慣れている。定着させるために一晩置いたりする必要は無くなったため、使うことに関して抵抗が無くなっている。
サザは慣れない服を引っ張り、体を確認しながら、
「体を……変えたのか?」
「ああ、あんまり長くは持たないけど。これなら街にも入れるだろうし、契約が完成するのを見届けられるだろう?」
「ふむ、面白いな、お前」
と少し笑った。なんの同意もなしに急に魔法を使ったことに関しては特に気にしていないらしい。
それにしても、とガルが割って入って、
「サザって、メスだったんだ」
ポツリと呟く。大分失礼な発言であることには気づいていないらしい。
「気付いていなかったんですか?」
気付いてて当然、みたいな言い回しだが、白亜は別にそんな意図はない。ただ単に「知らんかったの?」という確認である。
ガルはそんな白亜の様子に苦笑を浮かべつつ、
「あれだけ勇ましい感じだったら、そりゃね」
普通ならそういう感想である。白亜がおかしいのだ。
「それで、この姿だと乗せていけないが」
「あ、一旦戻す。街に近付いてきたら人になってもらうけど、それでいいか?」
「ああ。それと……サザというのは人がつけた種族名だ。個体名は別にある」
「それは失礼した。聞いてもいいか?」
白亜が一旦魔法を解除すると、また巨大な尾の長い狼になり、器用にその尻尾を使って白亜とガルを背に乗せた。
『リシューだ』
「そうか。頼む、リシュー。とりあえず地上に出てもらっていいか?」
『わかった』
ふわりと崖を蹴って登り、地上へと出た。谷底はほとんど光が届いていなかったため、久々に太陽を浴びた気分だ。
「ガルさんはとりあえずここで契約終了ですけど、これからどうするんです?」
「どうやら目的地は同じみたいだし、便乗しちゃおうかな。サザ……リシューの背に乗れるなんて珍しい体験、せっかくだから楽しみたいし」
さっきまでかなり酔っていた気がするのだが、もうそこはいいだろう。
吐きさえしなければいい。
「わかりました。ではとりあえず街まで行きましょう。リシュー、太陽の方向に進んでくれ」
『任せろ』
結論から言うと、ガルの吐き気により3度ほど休憩をとった。リシューの背で吐くという大惨事はギリギリ免れた。




