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「思っていたより、長かった……」

 白亜の交渉材料は定期的な食料の調達方法だった。


 正直、可能であるならばここを通る人間側に定期的に食料を届けてもらう、という『白亜の手を使わない』方法を取りたかったのだが、それだとサザに信用されない可能性もある上に人間側が裏切りでもすればその後の関係の修復は不可能になってしまう。


 どうしたって神の力が加わってしまう白亜の力はなるべく使いたくなかったのだが、この際仕方がない。


 人間に解析されないこの谷の中なら安心だ。


『ふむ……悪くない』

「大体この木を五十本ほど育てようと思う。あまり急激に環境を変えてしまうと他の動植物に影響が出そうだが、そこそこの収穫は見込めるだろうし、それ以上増やしたいのなら種を取って毎年埋めていけばいい。この種なら特に手を加えなくても埋めるだけで育つはずだ」

『……いいだろう。ただし、こちらが襲われた場合は遠慮なくこの取り決めを破棄するが、構わないな?』

「それは勿論。そもそもそちらのメリットが圧倒的に少ない約束だ。文句はない」


 サザに向かって手を出すと、サザは尾を出して握手に応じた。


 それを横で見ていたガルが苦笑する。


「話し合いで解決するって、聞いたことないよ……」

「これからそうしていけば良いのでは? 話せば通じますよ」

「いや、難易度が高そうだ」


 白亜はサラッと「話せばわかる」みたいなことを言っているが、普通ならあり得ない選択肢である。


 まずその前にパクッといかれて終わりである。


 とりあえず相手を押さえつけて冷静にさせてから話し合いなど、余程の余裕がないと不可能だ。


「どこに果物を植えたいか、希望はあるか?」

『ではもう少し住処に近い方がいい。この辺りは他の生物も多い』

「わかった。どの辺りだ?」

『案内する。乗れ』


 サザがその場に伏せた。白亜は即座にその背に跨る。


 あまりにも自然に乗ったので、ガルが一瞬ぽかんと口を開けてそれを見ていたが、サザがガルを見て、


『お前は行かないのか? 付き人』


 と声をかけたので恐る恐るその背に乗った。付き人認定されていることに関してはもう何も言うつもりもないらしい。


 白亜がサザに合図を送ると、サザが駆け始める。まるで空気の抵抗を感じさせない速度で、どんどんスピードが増していく。


 思ったより揺れが少ない。サザが配慮してくれているのだろう。


(ダイより乗り心地良い)

『雑ですからね』

『そなたら好き放題言っているな……彼が不憫だ』


 最初の召喚獣であるダイは度々白亜をその背に乗せているが、正直あまり乗り心地は良くない。めちゃくちゃ揺れて視界がブレる。


 そもそも背に乗せて運ぶつもりもなかったダイは『背に誰かが乗っている』という状況すら初めてなのだ。


 白亜の知り合いの中では相当な年長者ではあるものの、中身はかなり子供っぽいのでそんなところまで気を使えるほど大人な考え方をしていない。


『ここに桃を頼む』

「何本だ?」

『五本欲しい』


 サザに指示される通りに果物の木を植え、その後いくつか種を取ってから袋にしまってサザの首にかけた。


「埋めれば生えるけど、今は種のまま取っておいて。一気に植えてしまうと生態系崩れるかもしれないし、ここらのエネルギーを吸い上げかねない。数ヶ月後か一年後くらいに植えてくれ」


 サザは頷いてから『そうだ』と声をあげた。


『口約束で終わらせる気はない。しっかり契約を果たすため、これも手伝おう』


 右前足でガリ、と地面をひっかくと数秒後には遥か頭上、地上付近に石でできた橋がかかっていた。


 白亜も驚くほどの迅速性である。


 見た感じでは強度もしっかりありそうだ。


『見事だな。一瞬であれを作ることができるとは』

『そうですね。私でもなかなか大変そうです』


 脳内で繰り広げられている会話を聞き流しつつ、サザに向き合う白亜。隣には揺れの少ないサザの背で酔ったガルがぐったりと座り込んでいた。


「思っていたより、長かった……」


 ここから白亜とガルの出会った場所までは歩きで約八時間はかかる。


 戻るのも一苦労しそうだ。

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