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「喋るのがそんなに珍しいんですか……?」

遅くなりました、学校始まってバタバタしています。

 敵意はないだろうとはわかったが、油断しすぎて襲い掛かられたら困る。


 気を抜かないままその場に座ってサザに声をかけた。


「何か理由があってここに来ているのなら教えてくれないか? こちらとしても殺し合いをしたいわけじゃない」


 サザが目を細めて長く息を吐いた。


『……どうやらお前には話が通じそうだな』

「喋った!?」

「喋るのがそんなに珍しいんですか……?」


 白亜の周りには喋る魔物が結構いるので感覚が麻痺しているだけである。


 リグラートでも言葉を話すことができる魔物は極少数だ。


 理解はできていても体が言葉を話すのに適さないので会話ができない、というパターンも多い。


 骨格から何から何まで違う生物との対話など、普通なら無理なのである。白亜はサラッと流してしまっているが、それは白亜の環境がおかしいだけだ。


 サザの場合は念話の類だろう。どんな方法でも会話できればそれでいい白亜は深く考えず、とりあえずサザに向き合ってアンノウンを地面においた。


「俺はこの近くの街から派遣されてきた者だ。お前の調査が目的で、可能であればお前を倒せとも言われているが、正直そっちに敵意がないのなら俺はこのままここから退くつもりだ」

『……何故、私を殺すという話になる?』

「人を襲うから、という事らしい」


 だが、白亜は少し不思議に思い始めていた。


 このサザという魔物、人を襲ったらどうなるかくらいの予想はできそうな知性がある。


 メリットとデメリットを天秤にかけて冷静に判断できるだけの頭はありそうだ。


 サザが人を襲うという行為、それは本当に【人を襲っている】のだろうか?


『襲うなどと……先に手を出してきたのはそちら(人側)だ。責任転嫁も甚だしい』

「やっぱり、そうか」


 サザはあっさりと自己防衛の為に戦ったと告げた。


「……ところで、定期的にこの辺りに来る理由を教えてくれないか? この付近にいたら人と接触する機会もあるだろう。聞いたところによると、数ヶ月に一度現れるくらいの頻度らしいが」

『ただの狩りだ。食事がなくなれば遠出してもおかしくあるまい』


 全くその通りである。人だって食べ物がなくなれば探しに出かけるだろう。


 深い理由も特になく、ただの食料調達だった。


「来なければならない理由はないのか?」

『今は特にはない。用事ができることもあるにはあるが』


 それは時と場合によるだろう。


 白亜が少し考え込んでいると、ガルが後ろから恐る恐る声を出した。


「……何を食べているのか聞いても良いだろうか?」

『何を、か。主に肉だが、木のみなども食べるぞ』


 意外と雑食だったらしい。それを聞いたガルが不思議そうな表情を浮かべた。


「家畜や植物の生気を吸う、というのは本当か?」

『なんだそれは? 私は実体のないものは食わん』


 ガルの言葉に、白亜も目を向けた。生気を吸う、なんてのは初めて聞いた。


 ガルは白亜の視線に気付いて軽く頷く。


「ここから少し西に行ったところでは原因不明の砂漠化が進んでいる。大型の魔物の仕業とされていたが」

『少なくとも私は違う』


 砂漠化の話は、実は白亜は知っていた。この世界に来たことに関連しているのである。


 この世界は崩壊のカウントダウンが始まっている。それを止める為に白亜の監視する勇者が送り込まれた……はずなのだが、たいして何もしていない。白亜の方が十倍働いている。


「頼みがある」

『頼みとは?』

「この場所は他国に移動する際にどうしても近付いてしまう立地にあるらしい。ここに橋でもかけたいんだそうだ」

『それで?』

「橋を作るから、これから橋に渡る人には手を出さないで欲しい。勿論、襲われたら反撃してもらっていいし、このあたりで狩をする時期が決まっているのならその期間は橋を通行止めにする」


 白亜が提案したのは相互不可侵。実はこの場所、隣国に渡る為には通る必要が出てくる位置にある。


 いつもサザが来ないかビクビクしながらそっと通っているのだそうだ。


 サザがこの付近に住んでいるのなら別の案も考えたのだが、狩りをする為に偶にくる程度ならば安全地帯を作っておけばいいかと思ったのである。


『つまり、橋を渡る者を攻撃するな、と?』

「そうだな。正確には【敵対心のない人】限定だが」

『私にとっての利点がないな』


 サザの言葉も当然だ。互いに利がない限り、取引は成立しない。


「さっき、木のみも食べるって言ったよな?」

『うむ。特に桃が好きだな』


 思ったより可愛い嗜好である。


 それを聞いた白亜は鞄を漁って、一粒の種を取り出した。


 壁に向かって投げつけ、ペシッと当たった瞬間に指を鳴らす。


 すると種から瞬く間に芽が出て成長し、数秒後には壁から真上に向かって生える大きな木になった。


 木には桃がなっている。


「これをこの谷にいくつか生やす。今は急速に育ててしまったからあまり美味しくはないが、時間が経ってここに馴染めばそこそこの味にはなる」


 桃を採って皮を剥いて食べてみるが、少し水っぽい。まずくはないがそれほど美味しくもない微妙な味になっている。


「食料の足しにはなるだろう。桃だけじゃなく他の果物も作ろう。これが取引の材料だとすれば、どうだ?」

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