「多分、敵意はないです」
450話目だと今さっき気がつきました。いつも読んでくださってありがとうございます!
シアンからサザに関しての、ある程度解析された情報が提示される。
「……大地の核……この世界特有の特殊能力か」
この世界にも特殊能力を持った存在がいるらしいということは事前調査で知っていた。
だが、一国に数人、下手したら十数人は特殊能力を持っている人が所属しているリグラートとは違い、この世界ではさらに希少価値が高い。
なぜなら同じ能力を持った人は同じ時代には存在しない仕組みになっているのだ。
しかも、能力によっては代替わりしないままになったものもある。
リグラートでも伝説級とされている能力はあるが、授かりやすい能力というのもある。
ちなみに白亜の『万物の呼吸』は御伽噺に登場する能力扱いなので、かなり珍しいものだ。魔眼も能力に入るが、遠視だけの魔眼だったりはそんなに珍しいものでもない。
話が逸れたが、問題はこの世界の能力だ。かなり珍しいものであることも確かなのだが、恩恵のレベルが違うというのも聞いている。
リグラートの特殊能力者と似たものだとは考えない方がいいかもしれない。
事実、白亜の魔法を避けたのだ。異常な発動速度と正確性を誇る白亜の魔法をさらっと回避したのだから、その強さは尋常ではない。
白亜自身がそこまで本気ではなかったことも理由の一つではあるのだが、今白亜が使おうとした魔法はジュードが何とか避けられるかどうか、というレベルのものである。
ジュードもかなり強いことは言うまでもないが、ジュードは白亜の癖を知り尽くしている。
そのジュードがギリギリ回避できるくらいのものは、普通の人間からしたら十分すぎるほどに初見殺しの技なのだ。
「魔法はやめるか……仕方ない、アンノウン」
遠距離から攻撃してもおそらく避けられる。多少ガルに手の内を見せてしまうことにはなるが、そこはもう仕方ないと割り切ってしまうことにした。
白亜は上着の内側に縫い付けて隠していたアンノウンを取り出して両手に一本ずつ構える。
アンノウンは本来四本を組み合わせて使うものだが、今回はとりあえず二本を懐にしまったままにしておく。
長さとしては一本は短刀より少し長い程度だが、今回先端から出すのは刃ではなく鎖だ。
まず右手のアンノウンから気力で作った鎖を出してサザの尾を絡め取り、力を込めて引っ張る。
白亜の馬鹿力に敵うはずもなく、サザの体が軽々と宙を舞う。
浮かび上がったサザに向けて左手の鎖を首に向かわせると、サザが空を蹴ってそれを回避し右の鎖からも脱出する。
「何もないところを蹴った……あれが『空を走る』ってことか。シアン」
『空気を固めて蹴ったのでも、空間を出現させて蹴ったのでもないですね。この世界特有の技術かもしれません』
白亜もサザと似たことはできるが、魔法を使うという一工程はどうしても挟む必要がある。
だが、サザは魔法を使った気配がなかった。そのため、白亜の取れる方法以外の方法で空を走ることができるのだという事実がわかった。
「君、その棒ずっと服に隠してたの? ……肩凝らない?」
そして横には部外者が一名。もしもの時は自分の身は守ってくれるらしいので、彼が怪我をしているかを気にすることなく戦いに集中できるのは嬉しいが、もっと緊張感を持って欲しいとは思う。
「グルルルルゥ……」
サザは白亜から一旦距離を置いてこちらを警戒している。
こいつはヤバイと本能的に理解し始めているらしい。とても賢い判断である。
再び鎖を構えるが、サザは低く唸ったままその場を動かない。
白亜もあまり襲いかかることはしたくないので、その場を動かない。
謎の膠着状態が続く。
「「………」」
にらみ合いがたっぷり数十秒続いたと思ったら、サザがゆっくりと足を踏み出した。
今すぐ飛びかかってきそうな感じはしなかったので白亜も警戒はそのままにゆっくり歩き出した。
ある程度近付くと、サザがその場で座り込んだ。目はまっすぐと白亜を見ている。
「だ、大丈夫か……?」
ガルは少し離れたところから、白亜に小さく声をかけた。
「多分、敵意はないです」
白亜は頷いてアンノウンを服の内側にしまい、その場に腰を下ろした。
一人と一匹が暫く座ったままお互いを観察していた。
白亜はサザのことを純粋に生き物としてどんな生物なのかを知るために。サザは白亜の正体を推し量るために。
異様な睨めっこはその後5分続いた。




