「自分の身くらいは守るさ」
「それで、サザとはどんな生物なんですか?」
「人が数人乗れるほどの大きさの獣だ。尾が特徴的で、自身の体長ほどもあるそれが4本生えている。翼はないが空を走ることが可能で、人を襲うこともある獰猛さを持っている。ある程度知能があるそうで魔法も使えるとか聞くな」
空を飛ぶ、ではなく走ることができるらしい。
翼があるわけではないのなら、何か特別な方法で空を移動できるのかもしれない。
「そうですか。ちなみにどれくらいの人が襲われてるんです?」
「一年に一人のペースだな」
思ったより少ないと見るべきだろうか。人がそもそもあまり近付かないのだから、それで少ないだけなのかもしれないが。
「獰猛とは言っても、サザもなるべくこちらを避ける傾向にある。下手に刺激しなければ基本的にはあまり害はない。ただ、家畜は襲われてしまう事が多いが」
「家畜は主に何が狙われているんです?」
「牛が多いな。その場で貪り喰われているケースが多い」
白亜は何度かゆっくり瞬きをして、怪訝そうな表情を浮かべた。
「家畜……? その場でってことは、人が来てもどうにかできる自信がある……? それなら何故避ける……」
ブツブツと独り言を喋ってから軽く首を振った。
「いや、今はそれじゃないか。それよりも……」
白亜が顔を上げて人差し指を立てて前方に向けた。
「ガルさん。今から恐らくサザがきます。戦えるのなら構えてください。無理ならそこの岩の窪みに隠れてください」
「今から? わかるのか」
「音がしますから。それで、戦ってくださるんですか?」
「自分の身くらいは守るさ」
腰の剣を構えるガルは、白亜から見てもあまり隙がない。
自分の身くらいは守るとは言っているが、サザと張り合うことは不可能ではないだろう。
ただ、何故か剣はボロボロで、先端が折れて無くなってしまっている。剣の三分の一が破損してしまっている状態だ。
「そうですか。……その剣は?」
「ああ、ちょっと無理をさせすぎて壊してしまってね。しばらくはこれで我慢だ」
白亜は一瞬迷って、自分の持っている剣を鞘ごと差し出した。
どうせまた使えば壊してしまう。それならばとガルに手渡すことにした。
「どうぞ使ってください。折れてませんし、買ったばかりですから刃毀れもありませんよ」
「でも君の武器がなくなるだろう?」
「私はそれこそ魔法でもなんでもありますから。使ってください」
遠慮していたガルだが、やはり折れた剣を使い続けるのは怖かったのだろう。数秒悩んだが、最終的には白亜から剣を受け取った。
「わかった。借りることにする」
「ええ、どうぞ。……来ます」
白亜が念の為と竜眠香を焚いてみたが、あまり効果がなかったのか目の前にサザらしき獣が現れた。
長い尾が4本、鋭い鉤爪の足、ピンと伸びた耳に尖った鼻先。言い表すのなら、尻尾が4本ある狼、だろうか。
黒い体毛は逆立っており、明らかにこちらを威嚇している。
「これがサザですか?」
「ああ。そのはずだ」
とりあえず気が立っているみたいなので距離をとったまま様子を見ていると、グルルと低く唸ったサザが前足を踏み出した。
直後、なんとなく嫌な予感がした白亜がその場を飛び退くと足元が深い穴に変化した。
古典的な落とし穴を作る魔法だが、白亜は落とし穴の有用性をよく知っている。敵の意表を突けるし、魔力も少なく済む、コスパのいい戦法なのだ。
「落とし穴を作るなんて、センスがいいですね。それではお返しします」
即座に白亜も魔法を使ってサザの足元に穴を開ける。だが、直前で勘付かれて避けられた。
今回の白亜の受けた依頼は討伐ではない。
あまり殺しはしたくないので、なるべく殺傷性が高すぎないものを選んでサザを追い詰めていくつもりだったが、サザの勘が白亜並みに鋭いのでそれも中々難しいかもしれない。
(シアン、どうだ?)
『解析中です。ただ、こちらが魔法を使った時、それに気付く速度が異常でした。魔力の流れに敏感なのかもしれませんね』
魔力の流れを先読みされてしまうと、魔法を当てることは相当難しくなる。
魔法使いにとっては魔力の先読みは未来を見られていることに等しい。何をどうしようとしているのか、一から十まで全てバレてしまう。
それも、今回のサザの場合は身体能力が非常に高い。
大抵の攻撃は回避されてしまうだろう。面倒なのはガルがいることだ。
ガルがいなければこそっと神力を使って倒したりできるのに、あからさまに変な事ができなくなってしまっている。
懐に入り込んでぶん殴れば全部解決なのだが、加減をミスして殺してしまいそうなので動くに動けない。
「中々難しいかもな……」
思っていたよりサザが弱そうだったので、どうでもいいところで難易度が跳ね上がっているのだった。
別に殺してしまってもいいのだが、なんとなく殺したくない。とはいえ白亜の場合、殺す殺さないの加減が最も苦手なのである。




