「知ったところで、もうどうにもならない」
遅くなりました! コロナに罹ってたとかじゃないです。ちょっと軽く手を怪我してタイピングできなかっただけです。もうほとんど治りました。
壁を粉砕して侵入し、扉を両断して進み、おそらく生産拠点かと思われる場所に着いた。
こんな感じの施設、割と最近自動車工場の見学で見たなぁ、などという感想を抱きつつ適度に破壊していく。
白亜としても亜人戦闘機にいい思い出は全く無いので若干の爽快感を覚えつつ機器を蹴り飛ばしていく。
村雨で斬ってしまえば多分そんなに時間はかからないだろうが、恨みからか直接のキックである。
魔法や気力などで遠距離攻撃でもすれば多分1分かからずにこの施設を木っ端微塵にできるだろうが、半分無意識に蹴り壊していた。
「………」
無言で破壊すること数分。警備用なのか、何機か魔獣が入ってきた。
白亜を取り囲みジリジリと近寄ってくる。
その光景に白亜は軽く眉を顰め、数度視線を巡らせた直後、地面が爆発する。
一言も発することもなく、視線を向けただけで魔法を使った。ほとんど動きのない攻撃に反応できた魔獣はおらず、一機も残さず灰燼に帰す。
この魔法はエレニカの修行の成果だ。
魔力をコントロールすることに重きを置いた修行内容は、白亜をさらに化け物にしていっているらしい。
ただでさえとんでもない魔力量なのに、それを操る方法を覚えた白亜は無詠唱の魔法ですら強く意識せずとも使うことができる。
それも、周囲への被害をほとんどゼロの状態で。
今の魔法も、魔獣の立っていた場所の床が少し焦げているくらいの被害で済んでいる。
金属の塊である亜人戦闘機を燃やし尽くすとなれば、火力を増すためにその周囲1メートルくらいは床ごと爆散してしまうのが普通だが、白亜の場合まだ床はしっかり残っている。
実際、以前なら白亜もここまで被害を抑えることができず、溶けたアスファルトなどを無理に魔法で修復していた。
だが、今の操作能力があるのならアスファルトの上で魔獣を木っ端微塵にしても後処理は必要ないくらいのものに収めることができる。
エレニカなら、焦げすらもないのだろうが。
「とりあえず、主要な部品作ってそうなところ全部壊したと思うけど……」
ぐるりと周囲を見回すと、あらゆる場所から煙と警告音が鳴っている。
大量に警備用と思われるロボットや魔獣が次々入り込んできているが、白亜がほんの少し睨んだだけで全て消滅していく。
歩きながら殲滅していくと、妙に厳重な扉を発見した。
あまり大きなものではなく、普通の人間サイズの物だ。そのため本来の管理者用の出入り口であることは、なんとなく想像がついた。
今は無人の暴走工場と化しているが、以前は人が制御していたらしいと白亜は聞いている。
扉を開けようとしたが鍵がかかっていたため、分厚く硬い扉を村雨で斬って侵入。
もう鍵を開けるという考え方すら忘れてしまっているらしい。とりあえず壊せば進めるだろうスタイルである。
「ここは……資料室か?」
『解析します』
とりあえず目についた本や書類を纏めたファイルの背を触っていく。
中身を開かなくてもシアンが解析してくれるので本当に楽だ。
全部触り終えたところで、机の上に残っている物に目がついた。
「写真……?」
集合写真だった。手に取って見てみると、かなり色褪せていて所々染みができている。
裏面には日付と【試作機の完成に祝して】と言葉が添えられていた。
十数人の男女が並んでいる写真の中央には、白亜が見慣れた物よりかなり大きく不恰好な亜人戦闘機があった。
『解析、終了しました。ほとんどが亜人戦闘機の製作に関するもので、その内の半分は救命救急のための実験データでした』
「……そうか」
白亜は最初そうだとは信じられなかったが、元々亜人戦闘機は調査のためでも戦うためでもなく、医療用のロボットだった。正確には、山奥などの人があまり入り込めない危険な場所に誰よりも早く人を救いに行く為のものだった。
初めてそれを知った時、虚しい怒りが込み上げてきたものだ。
人を助ける為のものが、両親を殺したのだから。
『それと、この奥の棚。上から二段目の三番目の本を引き抜いてください』
シアンに言われるまま緑色の装丁の本を抜くと、奥に数個のボタンが見えた。
『今から言う順に押してください。左から二番目、右端。右から三番目、左から四番目』
押していくと、カチッと軽い音がして本棚が少し前に動いた。
「隠し扉、わかりやすいな」
『隠してあるとはいえ、別にそんなに隠す必要のあるものではない様子ですし。盗みに入られた時に見つからなければいい、くらいの物ですね』
この部屋にあった資料に入り方が載ってるんですから、とシアンは付け足しながら白亜に入るように勧める。
中には先ほどの写真の亜人戦闘機が一機、静かに中央に置かれていた。
みるからにボロボロで、修復もされていないのか外殻の一部が剥がれ落ちたまま放置されている。
近付いても特に何もない。本当にただ置いてあるだけの部屋だった。
「シアン、ここは?」
『第一号試作機の保管場所です。強度実験に耐えきれず、壊れてしまったらしいですね』
後ろに回り込むと、機体の中央付近に何やら書き込まれていることに気がつく。
足回りの関節部分に【もう誰も苦しまない世界を作るために】と書かれていた。恐らくこの機体が壊れたあとに製作者の一人がこっそり書いた物だろう。
なぜ亜人戦闘機は『戦闘機』と呼ばれるほどのものになってしまったのか。白亜は詳しくは知らない。
この世界への怒りが消えたわけではない。多少手は貸すかもしれないが、もし崩壊するのなら止めようとは思わない。
両親を殺したこの世界を、心底憎み恨んでいる。
話を聞こうとすれば聞ける。真実を知りたいなら知ることができる。
どうして日本にやってきたのか。どうして亜人戦闘機は存在するのか。どうして害を為すのか。
知ることはできる。だが、白亜は知りたいとは思わない。
この世界の住民は、白亜が戦った『存在の逸脱した者』によって人生を狂わされたと言う話は聞いた。だが、同情できなかった。同情より、怒りが先にくる。
「知ったところで、もうどうにもならない」
知ったところで、両親は帰ってこないのだから。
「さて、壊したし……処理したいけどできない」
『エレニカ様にお願いするしかないかと』
破壊し尽くしたのはいいものの、ここでこのまま放置してもまた復旧してしまうだけだ。
時間はかかるだろうが、壊されたのは全て機械なので直そうと思えば直せてしまう。
そのために最悪空間ごと消す必要があるのだが、流石に白亜でも世界一個消滅させるのは難しい。
頑張ればできないこともないかもしれないが、下手にやって他の世界でも巻き込んでしまえば大変なことになる。
と言うことで。
「俺に用事ってどうしたの?」
エレニカを(電話で)召喚。
事の経緯を(シアンが)ざっくり解説した。
「そっかぁ。壊しちゃっていいの?」
「はい。綺麗に工場消し飛ばしていただければ」
「それくらいならお安い御用だよ」
エレニカは少し悲しそうな顔をして右手をかざす。じわじわと地面から蒼白い炎が静かに噴き上がり、辺り一帯をどんどん燃やしていく。
「これでもう少ししたら空間ごと消えてることになるよ。俺たちもここから早く出ようか」
「……はい」
エレニカが開いた空間から日本に戻る。最後に振り返った時には、視界に入るものすべてが蒼く燃えていた。




