『警報音、なってますが』
美織と欄丸がひとまず正座地獄から解放された1時間後、仕事を早めに切り上げた大地が帰ってきた。
当然と言うべきか、門の前で質問攻めにあいかけていた。
だが、今回の状況把握ができていないのは大地なので、今日のところはと取材陣を追い返した。
このまま取材を永遠に延期できたら楽なのに、と素直に思う。
「ただいま、リシャット君。疲れているところ悪いんだけど、諸々の説明を頼めるかな?」
「はい。お嬢様と欄丸も呼んで参ります」
大地を玄関で出迎えた白亜は、美織と欄丸を呼んでリビングに集合させる。
滅多に怒らない白亜が怒ったのが怖かったのか、未だ美織は半べそをかいている。
欄丸もチラチラと白亜の表情を窺っていて、まだ二人が怒られたことを知らない大地でも何かがあったのだろうという事はすぐにわかった。
「それでは、簡単にご説明をさせていただきます。電話でお伝えした通りのことですが、改めて」
白亜はわかりやすく簡潔に今の状況を伝えた。
空き巣に入られたこと。美織と欄丸が白亜の言いつけを破って戦ったこと。空き巣がその際に小屋に火をつけたこと。小屋が全焼したが、いつもそこに住んでいる猫たちは無事なこと。
そして、
「それとゴタゴタの中で対応が少々遅れ旦那様のPCが大破してしまっていたので、データが残っているかがわかりません」
「「……!」」
白亜のその言葉に、美織と欄丸が驚いて顔をあげる。
PCが壊れた件は空き巣が侵入してくる前の話なのに、空き巣が入ってきたことにより壊れたと白亜が誤魔化している。
嘘は言っていないが、限りなく嘘に近い言い回しだ。
白亜が珍しく嘘をついて二人を庇っている。
「そうか……そんなことが。二人とも、リシャット君の言いつけを守らずに戦った事はいけない事だったけど、無事で本当に良かったよ」
それは本当にそうである。
多少過剰に訓練されたとはいえ、白亜が二人に教えているのは護身術だ。欄丸は少々過激なのも教わっているが、自分から向かって行くようには教えていない。
それをちゃんと使うべき時に使えているという点では評価すべきだろう。
白亜としては逃げることを最優先にして欲しかったが。
「ああ、それで、データの復旧ができるかわからないんだったね」
「はい。こちらを起動していただいてもよろしいですか?」
白亜が持ってきたパソコンは、傷ひとつない新品同様のものだった。
「……え、これ買い直したのかな?」
「いいえ。手仕事で直しました」
いくつか完全になくなってしまった部品などもあったので、自分で加工して補充したりはしたが。
内部の部品で白亜が手を入れていないところはほとんどないだろう。
「完璧に直ってる……」
美織が唖然としている中、大地がパソコンを起動させてみる。
パスワードを入力すると、問題なくデスクトップにたどり着けた。
「これ本当に壊れたのかい?」
「はい。それはもう、バッキバキに」
美織と欄丸がそっと目をそらした。
その後も確認を続けていると、いくつかのファイルの中身のデータロストが発覚した。
だがそれでも残っているものもあり、なんとか使えそうである。
「何がロストしたのかもよくわからないから阪口君に聞いておくよ」
「お願いします」
結局、大地ですら何が壊れて何が残っているのかもあまり把握できていない感じだったので、阪口に全て丸投げすることに決めた。
空き巣が入り込んだという事情を話せば手伝ってくれるだろう。
その後、欄丸に手伝わせながら夕食を作っていると、欄丸がボソリと聞いてきた。
「どうして、空き巣のせいにした?」
「……阪口様に最終的にお力を借りるだろうと思っていたからな。遊んでいたら壊してしまいました、と言うよりいいと思ってな。それに今回の件、現場にいなかった俺にも非がある。思わぬところで訓練の成果もわかったし、俺が怒ったからこれ以上怒られる必要はないだろうと判断しただけだ」
天然記念物で誰がどこで怒られていようが興味のない白亜が、珍しいことをした。
その事実に驚いているのは、白亜自身もそうだった。
「なんでそう思ったかは、わからない」
「……そうか」
これ以上聞くこともない、と欄丸もそれ以上は何も言わなかった。
深夜2時頃。部屋で一人、エレニカに出された魔力を絞って魔法を使う宿題をやっている最中に白亜の持っている通信機が細かく震える。
急いで中断し、通信機をとる。連絡を取ってきているのはヒカリだ。
「俺だ。どうした?」
『新型の魔獣が出ました。座標送ります』
ヒカリから送られてきた情報をもとに、認識阻害の魔法をかけてすぐに二階から飛び出す。
「監視は?」
『つけてます』
二言三言話す間に、白亜は目的地に到着していた。
かなり離れた場所だが、うっすらと空間の裂け目が見える。
「あった。行ってくる」
『お気をつけて』
そのままそこに飛び込むと、目の前が壁だった。
「⁉︎」
急に止まれず、壁にぶつかって壁が粉砕する。
当然だが、大抵のものは白亜より脆いので度々こう言うことが起こる。
シアンが若干呆れた口ぶりで話しかけてくる。
『警報音、なってますが』
「止まらないからこのまま進むしかない」
意図せずド派手に侵入を果たした白亜は、とりあえず警報音鳴り響く中適当に進んでみる。
地形を知覚する探索などを含め、魔法がうまく発動しない。
だがシアンと会話できている以上、魔力を完全にカットする類の場所ということではないらしい。
おそらく使おうと思えば魔法は発動するだろう。使いづらいというだけで。
懐中時計から村雨を取り出して腰に挿し、右手を添えておく。
これでいつどこから襲い掛かられても斬り伏せることができる。なんなら襲い掛かられる寸前に気付いて斬る事が出来る。
白亜はコンビニに買い物に行く時と変わらない気軽さで敵の本部に殴り込みにいく。
事実、コンビニ行くのと敵のアジト潰すのとでは白亜にとってそう大した違いではないのだろう。用事を済ませるということにおいては同じなのだから。
ブラブラと歩いていると、それっぽい場所へ到着した。
扉は一段と大きく、大型トラックが数台横並びに入れそうだ。
「ここか?」
『おそらく。どうしますか? とりあえず配電盤---(ザシュッ!)』
白亜は扉を村雨で両断した。
支えを失った扉がゆっくりと倒れ、地響きを上げる。
「何か言った?」
『いいえ何も』
最近白亜が脳筋になってきた気がする、と密かにシアンが考えた。




