『ご無沙汰しております!』
「とりあえずなんとかしてみる」と白亜がドラゴンをどこかに連れて行ってから一週間後、ルギリアとヴォルカは白亜の様子を見にきた。
「それで、大丈夫だったんかいな? ドラゴンやろ?」
「まぁ、ハクアが任せろって言ったし……」
白亜の居住区は、基本的にあまり一般人が入れない作りになっている。
そもそも町として大きなものを作ろうとは思っていなかったので、住人はそれほど多くはない。
住居を構えているのはファンクラブの中で居住権を獲得した者や、白亜直接の配下くらいしかいないのだ。
その他の外から来た人は基本的に宿で泊まることになる。
そのためハクアの街には居住区があるが、居住区というより宿街といった方が正しいかもしれない。
配下含めた白亜の家族は領主区と呼ばれる一区画に集まって暮らしているので、あまり居住区には赴かない。
町の様子を見に来るくらいだった。
だからこの辺りは普段静かなのだが。
「もっと高い高いしてー!」
『ちょっと待って……イテテ、鱗剥がさないで!』
「尻尾乗せろよー」
「「………」」
なぜか、子供達の中心にドラゴンがいる。
しかも、子供に遊ばれている。
こちらに気づいたドラゴンが、子供を背に乗せながらえっちらおっちら近付いてきた。
『ご無沙汰しております!』
「ああ。うん……」
何がどうしてこうなっているのか。
近付くと溶けるほどの高温の膜をもっていたドラゴンの影も形もない。
半ば公園の滑り台と化している。
「ああ、二人とも……いらっしゃい……来るなら、連絡してくれればよかったのに」
どこからともなく白亜がきた。まさに神出鬼没である。
実際、今さっきまでこの街の中心にある噴水近くで子供にせがまれてチェロを弾いていたのだが、二人の足音が聞こえたのでここまでやって来たのである。
もう身体能力が凄いとかのレベルじゃない。
「ぉう、ハクアちゃん……寝不足かいな?」
「寝不足……といえば寝不足……? 三日くらい寝てないけど……俺別に、寝なくてもいい体質だから……」
「普通に寝不足やんな、それ」
体力が化け物じみている、というか最早普通に化け物の白亜は睡眠の必要はない。
だが、人間だった頃の感覚が染み付いているせいで、寝なくてもいいのに眠くなる。習慣とは恐ろしいものである。
いつも以上に目が死んでいる。
「それで、これはどういう状況なんだ?」
「ん? ……ああ、ドラゴンを警備役ってことで雇ったんだよ」
警備役。
白亜のイメージ的には交番のお巡りさん的存在を目指したかったのだが、残念ながらドラゴンはデカすぎた。
もちろん、自然界ではこのドラゴンは災害級の魔物だ。白亜というこの世で最も危険な生物の近くに住んでいるとはいえ、周りの連中はすぐには受け入れられない。
ということで、怖いもの知らずの子供達をターゲットにしてお巡りさん計画を実行。
おとぎ話によく登場する『ドラゴン』という種族のおかげか、子供達は案外すんなりと受け入れた。
ドラゴンも雇ってもらいたい一心で子供達を安心させるという役目を果たした。その結果、なめられた。
「子供達は、あのドラゴンがお気に入りでな……面白いことに、手下だと認識されているみたいだ」
「「………」」
人間の子供より低い立場のドラゴンとは、これいかに。
まぁ、白亜の配下は基本的に全員その状況を経験しているわけだが。
遊ばれているドラゴンだが、ちょっと楽しそうだ。子供達もキャッキャキャッキャとはしゃいでいる。
「でも、雇うとなれば色々面倒なんとちゃうか?」
「ああ、面倒だよ……でも国王様に頼んだからなんとかなるだろ」
「国王様に直談判しに行ったのか」
『直接話したのはほとんど私ですけどね』
シアンが少しだけ自慢げに話す。
白亜は人の心の動きに疎い。そのために外交問題に発展しそうな事柄になると、面子を気にする貴族の相手なんかはできない。
そういうのに長けているのが、シアンとジュードなのだ。
ジュードは育った環境で、子供の頃から外交関係のあれこれは仕込まれている。
だが、ジュードは白亜みたいに分裂できるわけではない(本気で挑めばできるかも)ので、貴族との場などはシアンが対応することもある。
白亜がかなり礼儀に疎いので、直接となると親しい関係にある国王くらいしか会えないが。
顔さえ見せなければ会話はシアンが対応できるので通信機越し対応ならできる。残念ながら顔を見られると目つきやらなんやらの問題でやる気がなさそうに見えるので顔をあわせることはできない。
それで過去に一回問題になったので。
『今回の場合管理は私たちで請け負うのですが、もし何かあった時は国の責任が問われる場合がありますので』
もしドラゴンが逃げ出して他国に被害が出た場合、白亜が罰を受けるだけでは話は終わらないだろう。
『そのことは、ドラゴン本人の意思がしっかりしていることを理由に許可をいただきました。少しだけ不安ではあるので一ヶ月とりあえず働いていただき、その後正式に採用するかは検討するつもりです』
「「あ、そう……」」
もう二人とも展開の早さについていけず、相槌を打つくらいしかできなかった。
結論から言うと「ドラゴンを警備のバイトで雇っている」というのが最もこの状況に似合っている言葉ではないだろうか。




