「わかった……某に任せよ」
ドラゴンは不憫なほど怯えている。
白亜から極力身を隠したいのか、そっと岩陰に隠れてこちらの様子を伺っている。
「どうするんだ、あれ」
向かってくるのなら、危険な魔物として駆除対象なのは間違いないのだが。少なくとも白亜には抵抗しないだろう。
人という存在がトラウマになってそうだ。
「……人に手を出さないのなら、放置でも最悪いいんだが。ただ、相手はドラゴンだし……」
そこまで呟いてから、何かに気づいて顔を上げる。
「いや、約束させれば殺さなくてもいいかな」
「簡単に言ってるけど、どうやって約束させるんだ? まず言葉が通じないだろう」
「ダイを呼べば多分会話出来るんじゃないか?」
ということで強制召喚である。
「ぉお、久方ぶりの召喚……暑い」
久々の召喚獣らしい登場であるはずなのに、環境がひどい。
ただの人間や弱い召喚獣ならばこの暑さにやられてしまうだろうが、その点ダイは体が強いので適任かもしれない。
便利屋の如く適当に扱われる神獣、それがダイである。というか、白亜の召喚獣になった時点で雑に扱われるのは確定ではある。
「あのドラゴンに人間を襲わないよう説得してくれるか?」
「う、うむ。場所を変えてはダメか?」
「時間かかるだろ」
「わかった……某に任せよ」
任せよ、とか言いつつも暑いものは暑い。
若干嫌がりつつも岩陰のドラゴンに近づいていった。
「ハクア、流石にちょっと可哀想に見えてきたぞ……」
「何がだ」
「いや、なんでもない……」
白亜本人が『悪いことをしている』自覚がないので治せない。ルギリアも諦めた。
数分後。
「話はつけてきたぞ。条件があると言ってきたが」
「条件?」
「白亜の庇護下に入りたいそうだ」
「「なんで?」」
これは白亜だけでなく、ルギリアにとっても驚きの発言だった。
あれだけビビっているのだ。もう二度と近付かないで欲しい、とかの願いだと思ったのだが。むしろ積極的に関係を持とうとしてきた。
「それは本人に直接聞いた方がいいだろう」
ダイがドラゴンに目配せをすると、ドラゴンがおずおずと出てきた。
ビクビクしつつも白亜とルギリアの前に進み、ペタンと伏せて羽と尻尾を上げる。
これはドラゴン流の服従の証だ。伏せることで襲いかかる意思がないことを示し、武器にも使える尻尾と逃走を可能にする羽を伸ばすことで逃げることも不意打ちすることもないと見せつける。
そしてドラゴンがその状態のまま、
『ごめんなさい……許してください……』
「喋った⁉︎」
「念話か」
ドラゴンが話しかけてきたことに純粋に驚くルギリアと、冷静に分析する白亜。白亜がここまで冷静なのは、身近に念話を使う召喚獣が多くいるからであり、ルギリアの反応が普通だ。
『ほんの出来心で歯向かって……本当に申し訳ありません』
「謝罪はもういい。詳しい話を聞かせろ」
ドラゴンが必死に頭を下げているのにこの対応。やはり白亜は白亜だった。
『そ、その、僕はもっとあっちの山に住んでいたんですが、山が噴火で吹き飛んでしまって……住む場所がなくて、ここに。もともとドラゴンは居たんですが、強引に入り込みました……。自分でいうのも何ですけど、僕そこそこ強いので』
確かに、相手が白亜でなければ倒される心配はほぼないと思っていいだろう。
攻撃はそれほど強くなくても、相手の武器や魔法をほぼ無効化できるのだから。
『でももう、流石にここに居られなくて、だ、だから、その、僕を雇っていただければ……と』
行き場のないドラゴン。安住の地がない以上、果てしなく強い白亜に庇護してもらえればと考えたみたいだ。
このまま放っていくことも選択肢の一つだが、そのうちギルドから派遣された冒険者がこのドラゴンを殺しに来るだろう。一般の冒険者のレベルではこのドラゴンには確実に敵わないだろうが、世の中に絶対はない。
最強の白亜が早死にするように。偶然が重なって両親が殺されてしまったように。
「……いいよ」
『ほ、本当ですか!』
ありがとうございます、となんども頭を下げ直すドラゴン。それを見てルギリアが白亜にこっそりと話しかける。
「いいのか、そんな約束して」
「……確かに俺の立場も、危うくなるかもしれない。でもほっとけないよ」
行き場のない悲しみを、白亜は誰よりもわかっている。
揮卿台 白亜だった頃に家が焼かれたのを知った日、白亜はどうしたらいいのか本気でわからなくなった。
帰る場所が、残していたものが全てなくなった。その事実に打ちのめされ、暫く再起不能に陥った。
死のうとも思ったがギリギリのところであの看護師に助けられたのを、今もはっきり覚えている。
だからなのか、似た境遇のこのドラゴンを放っておけるほど薄情にはなれなかった。
「普通に災害級の魔物だ。エリウラで匿うにしてもいずれバレるぞ」
「わかってる」
白亜がエリウラの森を開拓して作ったハクアの街。開拓したのは一部だけで、あとはほとんど手つかずの自然がありのまま残っている。
地形や環境を利用した天然の障壁を盾に、街は白亜の魔法や道具で完璧に隠し、案内なしでは辿り着けない特殊な構造になっている。
そのため隠せる場所は結構あるのだが、生きるには食事も必要だ。
なんとかして匿うにしてもそのうちボロが出そうである。
「……いっそ、シンボルになってもらうか」
「え?」




