『星ですか?』
ドラゴンが街に住み着いてからそこそこ時間が経った。
大人より先に子供達に受け入れられたからか、かなり馴染んできている。
件のドラゴンの様子を見に行くと、キキョウと何やら談笑していた。
近付くとキキョウが白亜に気付いた。
「ハクア様。いかがされましたか?」
「いや、様子を見に来たんだ。一応俺の監視下にあるって条件で雇ってることになってるからな」
大事な約束事をさらっとサボるのは流石である。
普通ドラゴンをこんな風に放し飼いにするなど不可能なのだ。それを白亜の戦闘力諸々を条件に加えた上で今回の雇用形態が許されているはずなのだが。
まず第一に監視してない。
常に監視するという約束だったのだが、面倒だからという理由でほぼ放置である。
最初は子供に何かあるとまずいと思ったので暫くは横にくっついて生活していたが、暇だし面倒なので二日で放置した。こんなところをリグラートの貴族連中にでも見られたら大目玉を喰らうのは確実だ。
いくら本人に暴れる気はないとはいえ、破壊の権化と呼ばれる生物だ。
そんなのをさらっと放し飼いにして何も思わない白亜も白亜だが、ドラゴンに順応できる町民も町民だ。
まぁ、住んでいるのはほとんど身内なのである程度許されているところはあるが。
『はい! 元気にやらせていただいてます!』
そしてこのドラゴン、やたらと子供好きなのだ。性格的に温厚で親しみやすいところがあるので人間だったら何の軋轢もなしにこの街に溶け込めるだろう。
「そうか。……そういやお前なんて名前だっけ」
『名前、ですか? あるにはありますが、人間の声では発音できませんよ』
「あー、そういやそうだったな」
ドラゴンと人間では声帯の造りがまるで違う。
普通の会話なら念話で行えるので喉を使うことはないのだが、ドラゴンが発音するドラゴンの名前は念話では再現できない。
思念としては伝わるが、確実に何言ってるのかわからない。
「俺たちの喉で発音出来るように訳せるか?」
名前そのものに意味があるなら訳せるのだが。ダイみたいに語感でつけられた名前なら訳し難いが、白亜みたいに物の名前を引用しているならその言葉に当てはめることができる。
その代わり発音が元のものとはかなり変わってしまうかもしれないが。
『訳す、ですか……名前の意味をそのまま人間の言葉で表すなら、僕は【星】ですね』
『星ですか?』
『正確にいうと、夏の空の最も高いところにある星の名前です』
「夏の夜空で最も高い位置にある星……多分オルヴァか、夜明けだとクロードだな」
即座に頭の中で星の位置を確認し、当てはまると思われる星の名前を出す。
ちなみに両方とも見つけた人の名前が付いている。この世界でも星に名前をつけることを好きな人が多い。
『どっちでしょうね……』
「見たらわかるか?」
『あ、はい。覚えてるので』
その言葉を聞いた瞬間に、白亜は魔法を発動させていた。
幻を見せる古代魔法。その本質は他者を惑わし、欺くことではない。
自分の見せたいものを見せる、実はそんな情報伝達用魔法だったのだ。白亜みたいに相手が本物だと誤って認識してしまうほどの精度のものをさらっと使える人は中々いない。
だからこそ、自分の見てきたものを誰かに効率よく伝えるための手段として使われたのだ。
とはいえ幻はイメージだけで作れてしまうので改竄が頻発したために廃れてしまったのだが。
だが、魔法を使う本人が他者を惑わすつもりがなければ、その魔法は真実を映し出す。
『すごい……』
「これは、一体……」
キキョウも効果範囲に入っていたので、魔法にかかったキキョウはキョロキョロと辺りを見回す。
それもそのはず、辺り一面草原に変化していたからだ。
足元では焚き火が暖かな光を漏らし、時折薪がパキンと爆ぜる。
頭上では透き通った濃い藍色の空に星空が広がり、大きめの半月が草原を照らしている。
「どうだ? 周辺の景色を上書きする魔法だ。幻だから近くの物には触れることもできないが、雰囲気だけは味わえるだろう?」
言われて、キキョウは焚き火のために積んである薪を掴もうとしたが、すり抜けて掴めなかった。
「それで、お前の名前の星はあれであってるか?」
白亜が指差す方には、一際白く輝きを放つ星があった。
その星は丁度真上にある。
『はい、あれです……! こんな美しい星空、初めて見ました』
「偽物だけどな。……こんなのでよかったらまた見せてやるよ」
『本当ですか! 楽しみにしてますね』
嬉しそうに笑うドラゴン……オルヴァ。
滅多に言わないであろうセリフを白亜が吐いてしまったのも、この人懐こさが原因なのだろうか。




