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「よし。決めた」

 短めです。

 ドラゴンが不憫すぎるほど鮮やかに空中に打ち上げられる。


「思ったより重いな……近接戦を得意とするロックドラゴンだからか」


 ドラゴンにも色々と種類がある。その中でも遠距離戦……ブレスや魔法を得意とするドラゴンや、爪や牙を武器として戦うドラゴン、水中戦が得意なドラゴンすら存在する。


 意外とこの世にはドラゴンが多数暮らしているのだ。ただ、どの個体も基本的にあまり燃費が良くない上に子供ができにくいので絶対数はそんなに多くない。


 子供のうちに死んでしまうドラゴンは実は結構多いのだ。


『なかなか硬いですね』

「もう少し魔力量上げるか?」


 そうこうしているうちに、白亜は地面を隆起させて既に五度ほどドラゴンを宙に跳ね上げた。


 だが、それでも決定打にはならないだろう。このまま何度も繰り返していればそのうちドラゴンも力尽きるだろうが、それはそれで時間がかかりそうだ。


 さっさと終わらしたい白亜としては、もっとさっくり終わらせたい。


「単純に足の裏が硬いのかな……」

『でしたら、串刺しにしますか?』

「いや、それだと先端の強度が下がって折れやすくなるからもう少し工夫しないとダメかもな」


 普通に会話が怖い。しかもこの会話はドラゴンを実際に跳ね飛ばしながらしているのだ。


 実験動物としてしかドラゴンを見ていない気がする。


 どうやったら確実に一瞬で絶命させられるか、という実に恐ろしい会話を平然と行なっている。


 そして数秒後、白亜が小さく頷いた。


「よし。決めた」

「どうするんだ?」

「殴り殺す」

「………」


 一番手っ取り早く、一番物騒で、一番ありえないだろうと思われていた選択肢である。


 魔法で何とかするとかではなくただ単純に素手でぶん殴る。


 びっくりするほど普通である。だが、武器すら溶かす高温の膜を纏ったドラゴンに素手で挑もうなどという猛者がまさかいるとは思わなかったが。


「殴り殺せるのか、あれ」

「多分。魔法で地面を操作するより、俺が殴った方が早いし楽だ」


 言うが早いが早速懐中時計からガントレットを取り出し、目にも留まらぬ速さで装着した。


 速着替えや声真似もそうだが、白亜は結構謎な特技が多い。


 手を動かして動作に問題がないことを確かめてから大きく踏み込む。


 地面を抉りながらドラゴンの元まで一気に肉迫し、先ほどと同じ魔法を発動させてドラゴンを空中に放り投げてから大きく振りかぶった右手をドラゴンの腹部に突き刺す。


 あまりの重量と鱗の硬さに白亜が一瞬顔を顰めたが、ドラゴンといえど神には敵わない。


 踏ん張った足が地面に大きく刺さり、ドラゴンを殴った際の衝撃で地震にも似た振動が広がる。


「……すげぇ」


 ルギリアが呟いた。


 この光景を見て白亜に逆らおうと思う人間などいるはずがないと確信できる、まさに『人間離れした』パワー。


 それはただの拳一発でさえ明らかにわかる圧倒的な力だ。


「硬い、が鱗は散らせた」


 パラパラと砕けた鱗を拾い、白亜がドラゴンを睨みつける。


 ドラゴンは殴られた瞬間に白目を剥いて気絶したが、タフさからか数秒後に復活し、何としてでもあの化け物から逃げださねばという本能が表に出た。


 これまで脅威になり得なかった人間という種族、それが軽々と自分を放り投げぶん殴ってきたのだ。


 そんなことができる人間がこの世にいることが驚きだったのだ。


 まぁ、白亜は人間ではないのだが、このドラゴンにはその区別はつかなかった。


「グルルルル……」


 後ずさりをすると、白亜もその分前に出てくる。ドラゴンが本格的に恐怖に怯え始めた。


 狭い部屋で追い詰められた小動物の反応に近いかもしれない。


 その場から動けずにカタカタと震え始めたのだ。


「な、なんか急におとなしくなったな」

『ええ。本能的に敵わないと悟っているのでしょう』

「本能的に逆らえないって、シアンは俺を何だと思ってるんだ……」


 どうやら白亜は生態系の頂点付近にいるのはまず間違い無いらしい。

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