「不安になる返事はしないでくれ」
白亜とルギリアは周りの環境を見つつ、ジリジリと後退する。
このままでは確実にそのうちにこちらの手が尽きる。情報が欠如している今では下手に距離を取りすぎるのも危険かとは思うが、もしかなり強力な遠距離攻撃ができるのならもっと早くからしてくるはずだ。
もしかしたら出し惜しみをしているだけなのかもしれないが、魔法なら白亜が防げる。
近づきすぎて溶かされるより数倍マシな判断だろう。
「どうする?」
「ルギと居るときはあんまり戻りたくなかったんだけど……ちょっと私じゃ判断ができないから」
「ああ。気にすんな」
「わかった」
白亜は軽く息を吸い込み、目を閉じる。
次に目を開けたときは気怠げな表情の元の白亜に戻っていた。
「……なんか、家族の団欒邪魔したみたいで悪い……」
「いや、別にハクアが気にすることじゃない」
シュリアとしてではなく、ハクアとして事の対処に当たるらしい。
シュリアもハクアも白亜なのだが、シュリアとしての記憶はハクアになっているときは基本的にほとんど隠れたままなので思い出そうとしなければ何も覚えていないに等しい。
雰囲気からして完全に他人に近いので、ハクア自身もルギリアも距離を測りかねている。
そのため、二人が揃った時はどちらも気兼ねなく接することのできるシュリアの人格を出している。
仕事関係の話になるとハクアとルギリアで接することも多いが、世間話とかは基本的にシュリアの担当だったのでハクアはどう接したらいいのか微妙に迷っている。
「……まぁ、さっさとやって終わらせばいいか」
どうしたらいいのかわからなくなったハクアは早々に終わらせることを選択する。
シュリアの人格でいた時の記憶はないわけではないので相手の特性もなんとなくわかっている。
「シアン。あれは一体?」
『確証は持てませんが、おそらくロックドラゴンの新種か上位種でしょう』
シアンのその言葉にルギリアが首を捻る。
「火炎系統のドラゴンじゃないのか?」
『少し魔力形態が異なります。火炎系統の可能性もないわけではないですが、どちらかといえば大地系統です』
ドラゴンにも得意とする魔法の属性や環境がある。
体の周りに高温の膜を持っているのだからてっきり火炎系統かと思っていた。
シアンの解析はただ見ただけであらゆるものを看破する。これで情報不足を補える。
大地の魔法を得意とする種なら、対処も変わってくるものだ。下手に思い込みで突っ込んでこっちが落とし穴に落ちでもすれば笑いものである。
「ということは、体の周りを覆う膜は熱風だな。マグマの龍か……水かければ固まるか? ……いやそれ以前に蒸発するか。俺は水属性に適性がないから、水がある場所じゃないとその手の技は使えないし」
考え込むと独り言が止まらない白亜である。
そうこうしている間にジリジリと距離を詰められている。
「お、おいハクア。大丈夫なんだよな?」
「さぁ……」
「不安になる返事はしないでくれ」
近接戦闘が熱風で不可能だとすると、もう頼れるのは白亜しかいない。
目を瞑って考え込んでしまっている白亜に向かってドラゴンが突進した。
背が小さく、弱そうだからとりあえず狙ったのかもしれないが運が悪かった。
「……今考えてるからちょっと退け」
突っ込んできたのにイラっときたのか、無詠唱で地面を隆起させてドラゴンを吹っ飛ばす。下から地面に突き上げられたドラゴンは数メートル打ち上げられた後、背中から墜落した。
「…………」
もう、白亜に全部任せた方が早くすむ気がしてきた。というか、ルギリアは要らなかったのかもしれない。
感覚ではなく全て計算によって導き出された最適解をなぞりつつ戦う白亜にはイレギュラーが滅多に通じない。白亜自身がイレギュラーだからだ。
大抵のものは力技でなんとかできる白亜がとてつもない慎重派であることがその要因だろう。
確かにハクアは突拍子もない出来事にすぐ順応できない。予測で動くタイプのハクアはそれが外れると意外と結構動揺する。
だが、それは相手の策や力量が自分の同等以上の時の場合のみである。
もし何か予定外のことが起こっても、ハクアなら大抵のことは対応できてしまうのだ。
今回のドラゴンもそのパターンだろう。
見たことのない特殊なドラゴン。高温の膜で守り、素早い動きで敵に迫る。
普通なら絶望する敵だが、白亜の場合どうとでもできるのだ。
「なんで魔法が通じんの?」
さっき魔力が散らされるとか言ってたじゃん、とルギリアが目で訴えると、
「ああ、それは直接かければ。けど、何か経由するなら別だし、あのドラゴンが歩いている場所が綺麗に残っていることを考えると、あの膜は任意でしか使えない。もしくは真下には適応されないかの二択が最も可能性が高い」
そうだ。よくよく考えたら、全身あの膜で覆われているのなら地面がどんどん溶けていって足場がなくなっていくはずだ。それなのに地面は熱されている様子もなければ、溶け出してもいない。
つまり、膜の効果範囲に少なくとも足裏は含まれていないことになる。
ハクアはそれを利用してドラゴンを吹っ飛ばしたのだ。




