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『荒れるでしょうね……』

 どうしたらこの自由人をなんとかできるのだろうか。


 手元に縛り付けておきたいと思ったのは一度や二度ではない。今このときもそう考えている。


「………師匠……」

「……ん?」


 この人にちょっとイラッときたのはこれで何度目だろう。


 ジュードは軽く頬がひきつるのを感じつつため息をついた。


「なんで師匠ってこんなに自分勝手なんですか」


 なぜそれを本人に言うのだろうか。


 白亜は大抵なにを言われようがびくともしないから、ノーダメージである。説教しても響かない人に説教しなければならないジュードが可哀相なだけだ。


「嫌なら俺一人でいい」

「それは流石にできませんよ。またどっかに拐われるかもしれないじゃないですか」

「別に好きで誘拐されてる訳じゃないんだけど……」


 そう少し反論してみたものの、確かにその通りなので強くは言えない。


 誘拐未遂も含めればかなりの回数に及ぶ。


 レイゴットの時など、逃げ出すのは不可能なほど戦力差が開いていた場合はどうしようもなかったが大抵の敵なら数秒で片付けることができる白亜である。


 体調で大きく戦闘力が上下するのが不味いだけなのだが。


「そもそも、なんで遺跡に行く必要あるんです? 師匠ならもう学ぶことって殆どないんじゃないですか」

「そうでもない。古代魔法だってまだまだ修得できてないものもある筈だ。シュリアの時の記憶では俺の使えるものなんて10分の1くらいのものでしかない」


 ルギリアやシュリアの生きていた時代は、魔法文明全盛期だったと言っても過言ではない。


 今が衰退している、とは言わない。


 今の魔法はいろいろと研究が重ねられた結果無駄なものが排除された効率優先型のものだ。極限まで省かれているぶん昔よりは威力は落ちるが使い勝手は圧倒的に勝る。


 昔は魔力のゴリ押しで済ませることが多かったために理論もそれほどハッキリとは確立しておらず、火種程度の炎を産み出すのが異常なほど難しかったりする。その代わり種類が豊富で、あらゆることを一人で行える魔法が多い。転移がいい例だ。


「それに……その、自分で言うのもなんだが……シュリアだった頃の俺は……なんというか、ぶっ飛んだ天才だったんだ」

「…………?」


 ………今と何が違うのだろうか。


「ある程度の魔法は見ただけで使えたんだが、恐ろしいほどの感覚派で……理論を殆ど把握してない」

「あー、そういうことですか……師匠ってどっちかと言えば理論派ですもんね」


 ちなみにジュードは意外と感覚派だったりする。


 白亜との模擬戦を幾度となく繰り返してきたジュードの感覚なので相当精度がいい。


 どんな状況の時どう動くか。それを直感で決めるのがジュード流だ。勿論時間があればじっくり考えるが。


 感覚派と理論派。トラブルへの瞬時の対応は前者の方が優れるし、失敗が少ないのは後者だ。


 白亜は珍しいことに二つある人格が別々の性格らしい。


「解析したらいいんじゃないですか? シアンさん出来ないんです?」

「その、俺がシュリアを正面に持ってくるときは考え方もシュリアになるから解析できないんだよ。シアンも同じだ」

『試しくらいしてますよ』


 シュリアの記憶を体に反映させると、白亜としての記憶はちゃんとあるものの別人に入れ替わったように思考段階が大きく変化する。


 白亜だと1から10まで1つずつ組み立てて魔法を放つがシュリアの場合全部すっ飛ばして10である。


 紛うことなき天才である。理論を欠片も理解していないのでなんで魔法が発動するのかもわかっていないのが不味いが。


 シアンは能力だ。白亜の目や耳、その他全てを共有している全く別の個体に近い。だが、共有してしまっているということはつまり、シアンもシュリアがどうやって魔法を使っているのか理解できなくなる。


 考え方も一緒になってしまうため、白亜がシュリアと交代してその魔法をシアンが解析するということができなかった。


 まぁ、一言で言えば『シュリアは多分ちょっとバカ』なのである。


「だから知り得る魔法は確りと調べてみたいんだ。……だめか?」

「…………」


 なんでもそつなくこなせる白亜は、なんでも出来る分何かしたくてたまらない性格だ。


 未発見の遺跡。どんな研究資料があるのだろうか。それを調べたくないはずがない。


 見つけた資料を依頼主に提出するとしても、その過程で見てしまった分には問題ない。


 白亜は一回見たものを完全に記憶することが出来るので一目見る行為は『遺跡を解読する』ことにイコールで結び付く。


 要は遺跡を解読しにいきたいだけである。


「………しょうがないですね」


 ここでこう言ってしまうのも、ジュードが白亜に甘い証拠なのかもしれない。


 人間性にも、個人的にも惚れているのだから、仕方ないのかもしれないが。








 白亜の部屋にある紙束から何枚か紙を引き抜いてちゃんと魔法陣が合っているか確認するキキョウ。


 この魔法陣は『状態異常無効』の魔法陣である。


 無効と言っても万能ではなく、ある一定の効果のみを一定時間完全に打ち消せる魔法だ。


 ある一定の効果というのは、発動直前に決めることが出来る。


 今回の場合は水中行動異常への完全耐性だ。これが発動されている間は溺死することはない。ただし、効果は一日で切れるので初日はとりあえずさらっと見てくるだけにした。


 普通、こういう探索には何日もかけるものなので問題ない。


 もしも誰かがはぐれた時のために予備も必要なのだが、この魔法陣、相当高難易度のものなので枚数はあまり用意していない。


 一人三枚。つまり三日の探索。これが限界だった。それに、人数も絞る必要がある。


『荒れるでしょうね……』


 久しぶりの依頼。それに同行したいと願い出てくるのは一体何人だろうか。

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