「……本題は、そこに繋がってくる」
担がれたまま応接室の前に着いた。流石にこの状態で入るのは失礼すぎるのでダイは白亜を下ろす。
一応自分の足で立ちはするが、どこかクタッとしている。
普段の若干ピリピリした感じとは真逆の雰囲気に、余計に心配に思えてくる。
「師匠、失礼のないようにお願いしますよ」
「んぁ……ぅん」
やばい。いつになくやる気がない。初めて会った頃は「なんでこの人こんなに疲れた顔してるんだろう」とは思っていたが、今はその比じゃない。
最早「こいつ大丈夫か?」レベルである。
「くれぐれも、お願いしますよ」
「わかってるって……」
こういう日に限って仕事が来るのだから、嫌なものである。
ジュードが数度ノックをし、先に入ってから白亜を挟んでダイと共に入室する。
極力白亜が見える面積を減らしたい一心である。
この二人、入室前に全く会話していなくてもそれくらいのことは無言でわかりあえる関係になっていた。
目線で「白亜をギリギリまで隠すぞ」くらいのコミュニケーションがとれる。ここまでコミュ力高い二人がいればもう白亜の出番ないのではないだろうか。
「失礼いたします。副リーダーのジュード・フェル・リグラートです。そしてリーダーのハクア・テル・リドアル・ノヴァとその従魔のダイです。本日はご足労いただきありがとうございます」
白亜に喋らせない完璧な自己紹介。しかも白亜は声を出さずとも会釈をするだけでいいくらいの挨拶。流石である。
ダイが白亜をふらつかせないよう後ろでカバーしつつジュードが前を遮ってなるべくジュードに目がいくよう仕向ける。
だが、ジュードもダイも相当整ってはいるが白亜は異常だ。無言真顔で佇んでいれば人形そのものなので基本誰だってそこに目が行く。
黒に近い銀髪はたまにいるが白銀ともなると滅多に居ないし、ましてや両目魔眼である。たとえ数百人の人混みに放り出されても上から見れば一発で見つけられる。
背が低いので埋もれればわからないが。
「それで、改めて依頼主様のお名前と依頼内容をお教えください」
「オービアのマリオンだ。騎士団長をやっている。今回頼みたいのは遺跡の調査だ」
オービアはこの国から見て北にある小さな国だ。領土は島ひとつで、島自体はそれなりに大きいのだが島の性質上それほど大きな国にはなれない。
その理由が遺跡だ。
たったひとつの島に数十、数百もの遺跡が見つかっておりそれの保存のために町が広げられないために国が大きくならないのだ。
学者からすれば垂涎ものの資料がわんさかあり、白亜も何度も訪れている。
また景観の美しさから観光地としても有名だ。
冬には雪がつもり、夏は涼しい……というか夏でも雪が降ることから『永遠の雪原孤島』と呼ばれている。
遺跡、という言葉に反応した白亜が口を開く。
「遺跡……。どの、でしょうか?」
「新しく発見されたものだ。ただ、入り口から罠が張ってあって普通の探索チームでは手も足もでない。最高の冒険者と名高い君たちに頼めばあるいは、と思ったまでだ」
確かに、白亜達に頼めば遺跡の探索はできるだろう。
すべてを完璧にこなす白亜は勿論、探索に適した水魔法を得意にするリンとキキョウ、何かあったときに対処できる高火力の戦闘員であるジュード、ダイ、ルナ。
白亜は趣味で遺跡に赴くので探索者としての腕もある。
だが、何故ここに仕事が回ってきたのか。
「……どうして、私たちなんですか?」
「その質問の意味は先に説明したと思うが」
「いえ、完璧にこなせる探索者を探している、ということならわかっています。……ですが、20ランク冒険者チームに頼むこと、でしょうか?」
冒険者にも役割りというか、得意とする依頼が異なる。
白亜達は戦闘を得意とするパーティだが、他にも護衛に徹するパーティもいれば掃除を生業とするパーティもいる。
勿論そのなかにはダンジョンや遺跡の探索を得意とするパーティもいるのだ。彼らのほとんどは優秀なシーフを一人、多いところでは数人雇って未開のダンジョンを踏破することを目的にして冒険者をやっている。
白亜達はよくも悪くも殲滅を目的とした戦い方を得意にするために狭い場所での連携はとれないわけではないがあまり好き好んではやらない。
探索の手際なら、その手の優秀なパーティの方がいいはずだ。
わざわざ白亜達、それも最高ランクパーティというとんでもなく値の張るところに申し込んでいくる意味がよくわからない。
別にそんなぼったくろうとも思っていないのだが、冒険者には冒険者のルールがある。
依頼を受ける際の最低価格は決められているのだ。高ランクの冒険者が安い値で請け負うとなれば、何度も申し込んでくれるお得意様がいない若手や低ランク冒険者が給料を失う。
冒険者の仕事は依頼というものがあって初めて仕事として成立する。それがなくなってしまえば給料なしなのだ。
金には困っていないので最低価格で受けはするが、一般家庭が数か月暮らしていける分の依頼料なのは確かだ。
「……本題は、そこに繋がってくる」
「……つまり?」
「新しく見つかった遺跡は海中、それもとんでもなく強い魔物がうようよしているときた。一匹一匹のギルド推定ランクは18だそうだ」
「「18⁉」」
白亜がやらかさないかハラハラしていたジュードとダイが同時に口を開いたまま固まる。
18といえば、下手すれば町ひとつくらい壊滅させられるレベルの戦闘力である。それがうようよしているとなると、確かに最高ランクパーティ以外には頼めない。
それに海中という場所も不味い。炎系統の魔法は威力が圧倒的に落ちるし電気系統はこっちもやられる。動きもかなり制限されるのは間違いないだろう。
「ランク18がうようよしてる遺跡の探索、しかも海中の、ですか」
白亜の姿勢がちょっとよくなった。
その瞬間二人は悟る。「「あ、これもうなに言ってもダメだ」」と……
「……悪くない」
ほんの少し目を細めた白亜。二人ならこの顔が何を意味するかよくわかっていた。
つまり、かなり嬉しそうだ、ということを。




