「できる。当時の文明なら」
「それじゃあ、全員魔導具の準備を」
遺跡への準備には丸二日使った。白亜の体調の回復に一日、持ち物の準備に一日使ったためである。
転移魔法というチートがあるからこそゆったりと準備できた。
驚くべきはその迅速なメンバー招集と、予定を急いで組み直したキキョウとシアンである。
普通、こんな速度では大陸の端にある島にはたどり着けない。
色々と人数を絞ったりした結果、遺跡に向かうのは白亜、ジュード、ダイ、キキョウ、チコ、後学のためにラメルの六人である。シアンを含めれば七人だ。
ラメルは戦力にはならないが、遺跡の調査は学ぶことも多い。ついてきて損はないだろう。ラメルの保護のため今回はジュードはラメルに付きっきりになる。
だから探索のやり方は白亜が魔物や罠を探知し、キキョウが水流を操作して極力戦闘を避け、やむを得ない場合はダイが素手でなんとかする。
水中にある遺跡なので白亜の魔晶属性魔法も使えるのだが、下手に効果力の攻撃で遺跡を破壊してしまっては元も子もない。
魔晶属性は自然物であれば大抵は操れる強い魔法だが、その分無差別なものが多い。こういう細かい作業には向かないし、白亜自身の身体能力もずば抜けている為ダイが戦う役目なのだ。
ジュードとチコは弟子であるラメルの警護である。
ちなみに、ラメルの同席を勧めたのは意外にも白亜だった。『見るものない訳じゃないと思うから見てみたら?』という実に適当な誘い文句ではあるが、ラメルはジュードが行くならとついてきた。
白亜の作ったブレスレット型の魔導具に魔力を流すと、空気の膜がうっすらと展開された。
「これは12時間で効果が切れるからその前に一旦陸に上がること。もしはぐれたりしても12時間たったら外にでないと新しく空気の膜が張れないからな。時間気にせずに使ったりすると溺死するから気を付けろ」
嫌な死に方である。
キキョウが海流で通り道を作り、その中を進むので意外とそれなりの速度で進めている。
とはいえこの空気の膜は呼吸を可能にするだけでなく水圧から守るものでもあるので、それなりに動きづらい所もある。
「は、白亜! 前に進まん!」
「頑張れ」
下手に対流のぶつかる場所に入り込むとこうやって抜け出せなくなる。全力で泳いでいるのに全く前に進んでいないダイを放置し目的地に到着した。
「これは……かなり古いな」
『第二世代頃でしょうか』
魔法文明は時代によって世代分けされる。シュナが生きていたのは第五世代で、今は第二十三世代目だ。
魔法文明の全盛期は第五、第六世代辺りであるのでこの遺跡はまだ魔法という学問の確立がされて間もない頃である。
「とりあえず入ってみよう。敵意の視線はとりあえずない」
白亜の最大のアドバンテージは耳と目の良さだ。
目と耳がいい、というとわりと普通に聞こえてしまうが、白亜の場合特殊能力に五感が直結している。
魔眼と万物の呼吸という二種類の力は、単純に視力や聴力を強化するだけではなく、敵を眼力だけで威圧したりどんな生き物の声でも聞き取る事もできる。
だが、今回の場合は慣れない水中という環境で、音の通りが圧倒的に違う。耳はあまり役に立たない。
魔眼の方も、能力の殆どが戦いに使うものなので探索にはそれほど役立たないかもしれない。
それでも白亜が探知役なのは単純に勘が鋭いからなのだ。それも、悪い勘ならほぼ百パーセント当たるという便利なようで迷惑な感覚の持ち主のためである。
「入ってみる。手で合図を送ったら着いてきてくれ」
スッと水没している遺跡のなかに入っていった白亜。数秒で中から来いというジェスチャーをされているのが見えた。
「どうですか?」
「かなり古い上にこの辺りは水の流れが早い。かなり削れてしまっているから資料としてはあまり役に立たないかもな。もう少し海底だったりすれば少しはマシだったかもしれないが」
ダイの魔法で辺りを照らしつつ奥へ奥へと入っていく。どうやらこの遺跡、図書館のようなものだったらしい。
書物は流されたのかどこにもないが、本棚らしきものは大量に備え付けられている。
「まぁ、だとしてもなんか少し小さすぎる気がするな」
「師匠、これって小さいんですか?」
「いや、施設のでかさじゃなくて、外側から見た遺跡の大きさと中の大きさ、違う気がする。部屋一個一個が小さすぎると思うんだが……」
そこまで言って、首をかしげる白亜。ぶつぶつと何か呟いてから全員に話しかけた。
「近くの壁でもなんでもいいが、これくらいのタービンが付いている扇風機みたいなのないか? 探してほしいんだが」
これくらい、と言いながら手で大きさを示す。大体直径三十センチほどのものだ。
白亜が説明するところによると、換気扇を探したいらしい。
遺跡で換気扇探しとは中々ミスマッチな探し物だが、とりあえず全員で探し回ってみる。
探しはじめて二十分、ラメルが見つけた。
「あった! これ?」
「ああ、これだ。やっぱりここただの施設じゃなかった」
タービンの周囲をぐるぐると見て回り、頷く。
その声には確信のあるときの響きがあった。
「これ、船だ」
「「「船⁉」」」
こんな巨大な船、あるのだろうか?
白亜は軽く苦笑しつつタービンを指差す。
「この換気扇、船に取り付ける空気穴だ。壁の裏側だから分かりにくいが、この後ろにパイプが通っていて奥にある空気製造室の空気を送っている。タービンはその過程で動力を作ってるんだ」
「そんなことできるんですか?」
「できる。当時の文明なら」
第二世代は魔法が確立されて少し経った頃だ。
理論がしっかりしていないお陰でかなり危険な魔法も使用されていたらしい。
「これ、簡単な理論でかなり効率の悪い魔法運用されている。今の学者が見たら即答するよ。これ今すぐやめるべきだって」
効果がめちゃくちゃなのでいつ不具合が起こっても仕方ないと断言できる危うさなのだそうだ。
白亜も「よくこれで作動したな?」と不思議そうにしている。
「んじゃ、船の中を探していくか」
空気を送っている装置がこれなのだからあまり期待はしない。遺跡の調査なんて80%無駄なものしか出てこない。とは白亜の言である。
それでも遺跡の調査自体は好きなのだから、白亜の趣味って謎である。




