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「駄々こねてないで出てこい」

 白亜たちが帰って二日後。賢人をはじめとした白亜が来た日にいたメンバーが招集された。


「問題は、これですね……」


 白亜が置いていった対コンピュータウィルスのウィルス。いまだに扱いに迷っていて白亜が置いていったパソコンのまま放置されている。


 だが、白亜の作ったプログラムである。確実に安全性はある。


 ただ、やり方がちょっとエグいだけで。


「えっと、ウィルスに反応して侵入経路を暴いて相手のコンピュータに侵入、情報を抜きとり転送した上でコンピュータを起動不能にまで追い込む、んでしたっけ」

「えげつない……」


 逃げ場をここまで封じてくるウィルスなど相当たちが悪い。やり口が白亜そのものなのでなんとも言えないが。


「使います? これ……」

「使って、なんかヤバイところからデータ転送されてきたりしたらそれこそヤバイですよね……」


 多分、というかほぼ確実にないだろうが誤作動を起こさない保証はない。


 白亜とシアンがそんなことをやらかすとも到底思えない……まぁ、やらかしている姿が全く思い浮かばないが、ものがものなので念を入れておくにこしたことはない。


 白亜本人は別に削除してもいいと言っていたので使わなければならないこともないのだが。


「白亜さんが作ったもの消すのも多分かなり勿体ないですよね……」

「「「確かに……」」」


 白亜はいろんな物を作って渡しているが、何せ作っているのは一人なので物の数はそれほど多くない。


 だから白亜が作ったものというのは結構貴重だったりする。


 シアンの完璧な計算と白亜の経験から作られた物は他のどんなものよりも使いやすく誤作動もない。


「使いたいところではあるけれど」

「普通に違法なんですよね……」


 少なくとも今現在この世界では普通に犯罪なのである。所持しているだけでも違法だ。


 どうするかものすごく迷うところだ。


 絶対に使った方が便利ではあるが、警察がそれをやっていいものなのだろうか。いや普通にダメだが。


 結局話し合いの結果、使ってしまおうという話になった。


 ウィルスが入り込んで来なければ発動しないし、なにかあってからでは遅いからである。


 ………入り込まれないのを祈るばかりだ。








 その頃家に帰った白亜達は。


「ぅう……もうやだ……なにもしたくない……」

「師匠……」


 定期的に訪れる【なにもしたくない】欲求にかられる白亜をジュードが説得しようとしていた。


 常に働いている白亜。休んでほしいと周りが常々思っていたのだが、なにか心境の変化があったのか、逆に嫌になると梃子でも動かなくなる日が稀に来るようになった。


 精神が無理矢理休ませようとしているのか、どうも突然「なにもしたくない」と言って動かなくなる時がある。


 本当になにもしなくなるのでちょっと困ったことになる。


 ベッドから降りるのさえ嫌がり、食事を採るのさえ嫌がり、かといってなにかするわけでもなく。


 ただひたすら寝転がっている。


 謎の休息日だ。


 普段なにもしない時間を嫌うのにこの日だけはなにもしたがらない。何故なのかは白亜にもわからないらしい。


 しかも突然来る。


 なんでも朝起きたときに「あ、今日なにもしたくねぇ」と唐突に思うらしい。なんかの精神病じゃないのか。


「師匠。せめて食事は採ってください」

「別に食べなくても死なないし……」

「そういう問題じゃないです」


 人間じゃなくなった白亜が食事を採る必要は本来ない。ほぼ嗜好品の類いだ。だが、シアンの言うところによると白亜は生きているだけで体力の消耗が結構激しいらしく、少しずつ栄養を採っていかないといざという時に動けないらしい。


 だからいまだに煙管を携帯しているのだが。


 今この時間は煙管も面倒くさくて使わない。自作した細目のそれは机の上に転がっている。


 物も自分の部屋だからとあまり整理せず、棚や机の上には書類だったりペンだったりが散乱している。


 このごちゃごちゃ具合でどこになにがあるのか理解しているのだから恐ろしい。


「白亜。……またか」


 部屋を覗きに来たダイがため息をつく。


 白亜のなにもしたくない日がたまにあるのは皆知っている。


 どれだけ魅力的なことがあろうとその日は動こうとしてくれない。だが今日は残念ながら無理なのだ。


 今日は無理矢理にでも動いてもらわなければならない。


「さっさと起きろ」

「嫌だ……」

「駄々こねてないで出てこい」


 ベッドから引っ張り出されて死人みたいにぐったりと力を抜く白亜。余程ここから出たくないらしい。左手は確り布団を握りしめている。


「ほら、師匠」

「やだぁ……」


 ダイが白亜を担ぎ、米俵みたいに運搬する。


 普段ならここまでして白亜を連れ出したりはしない。寧ろちゃんと休んでくださいと言うレベルだ。


 だが、今日はちょっと予定があるのである。


「久しぶりの指名依頼なんですから、リーダーが行かなくてどうするんですか」

「もういいよ……ジュードがリーダーやればいいよ……」

「よくないですよ」


 もうなにもかも面倒になってきているらしい。


 ……これはちょっと不味い。白亜のモチベーションがめちゃくちゃ下がっている。なにもしたくない日に無理に外に出すとこうなるらしい。


 どうみたってリーダーに見えない。


 かといってここから白亜のやる気を出させる方法をジュードは知らない。というか多分誰も知らない。


「師匠。挨拶なんですからもっとシャキッとしてください」

「ああ、うん……そう、だな」


 絶対する気ない。


 いつになくボーッとしている。こんな調子で大丈夫なのだろうか。やはり白亜はあのまま部屋で放置していた方が良かったのかもしれない。


 だが、礼儀としてリーダーが出ないというのは少し宜しくない。なにかとてつもない事情があるとかならまだしも理由が【なにもしたくない】からと言われたら普通に相手は怒るだろう。


 どれだけ強くても白亜達は雇われる側だ。雇う側のご機嫌とりは必要である。そしてそれは後々の評価に繋がることもある。


 やはり出ないわけにも行かない。


「師匠。終わったら寝ていいですから」

「むぅ……」


 寝てるのか起きてるのか微妙な返事を返す。本当に依頼主に怒られるのではないかと心配し始めたジュードとダイだった。

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