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「話は全員既に伝令から聞いていますね?」

 白亜の為なら、なんだってやってみせる。


 そのための労力も金も惜しまない。そんな正直言って頭がおかしい軍団がハクアファンクラブの特徴なのである。


 白亜が娯楽の町を作るという話は瞬く間に会員に知れ渡り、彼女らの伝令係が即座に各地に散らばる会員に伝えるために走り回った。


 彼女らの結束力は半端なものではない。元々白亜の事を話し合い、守ることを目的として存在している組織である。


 大切な情報は全員で共有するのだ。


 そして一週間後、幹部達とリーダーのサヒュイが集まって会議が開かれた。


 情報の伝達や交通手段が多い現代日本でも不可能な速度である。この中の半分くらいの人は他国から来ているのだから。しかも国の重要な役職に就いているものも少なくはない。


「集まってくれてありがとう。それでは今回の話し合いを始めたいと思います」


 司会役のファンクラブ創設初期からいる副会長のジルがボードに文字を書いていく。


「話は全員既に伝令から聞いていますね?」


 全員が同時に頷く。


「では一度情報を整理しましょう」


 慣れた手つきでボードに地図を描いていく。そしてとある場所を赤のペンでぐるっと囲った。


「ここ、エリウラの森の中心辺りに町を作るそうで現在先住民の小人と交渉しているようです。そしてハクア様はこう仰って下さいました。『ここには人が住めるようにしたいんだけど、来れる人は歓迎するよ』と!」


 白亜の言葉は伝令から伝えられていない。今のところ幹部達のみが知りうる情報なのだ。


 白亜からしてみれば『作ったはいいけど人が来なかったらさすがに寂しいよね』みたいな感じでそうさらっと言ったのだがこの人達からすれば自分の国が滅びると言われる以上の衝撃を受けていた。


 白亜の作った場所にしかも同じ町に住める。それがどれだけ価値のあることなのだろうか。


 あらゆるところから悲鳴にも似た喚声が上がる。というより、ただの悲鳴だった。


「静かに! 話はここからです」


 パンパンと手を叩くと一斉に静かになった。今先ほどまでギャーギャー騒いでいた人達だとは思えない。


「ここに、誰が住まわせていただくのか。それが今回の議題です」


 そう、それなのだ。各国の重鎮達が勢揃いしているのでまさか仕事を放り出して行くわけにもいかない。


 今現在この会議のために仕事を放り出してはいるが。


「確かに、我々にも立場というものがございますものね」


 一人が同意する。別に仕事なんて白亜のためなら辞めてもいいと思っている者しかこの場にはいないが、今回は緊急事態というわけでもなく、単に自分達の欲求を満たしたいだけである。


 白亜のことで今回のように突然抜け出しても『まぁ、いつも頑張っているからいいよ』と言われることを期待して彼女らは相当優秀に働いている。


 つまり、国からすれば抜けられると困る人材なのだ。


 根の腐った性格の老害でしかない大臣より万倍役に立つ人材なのだ。


 でなければこんな風に抜け出せることなどできない。


 彼女らがここまで優秀なのは白亜のためなのだ。


 ファンクラブ会員が優秀→ファンクラブ全体の株が上がる→白亜の耳に届く→白亜に褒められる→もっと頑張る=白亜の評判が上がる


 という連鎖が今のところ起こっているのだ。


 ハクアファンクラブの会員達は皆優秀であるからその人達が信仰している白亜という人間の価値が上がるのだ。


 結果、白亜に対する苛めが減る。


 正確には、ギルドなどの組織のトップとしては優秀な人材を残したいがために『嫉妬に駆られた上司が白亜を苛めるからここを辞めます』などと言われてはその嫉妬に駆られた上司を切り捨てるしかない。


 そして白亜の敵が減るのだ。万々歳である。


「その、住める人数というのは?」

「まだ決まっていないと仰っていました。が、多かったらその分増やすと」

「「「おおっ!」」」


 白亜の性格を知っているこの人達からすれば本当の意味で移住し放題だということを確信する。


 普通に考えたら場所や予算の関係で人数を制限するものだが、白亜はその辺りは大抵力業でなんとかできるのだ。


 今回も何とかしてくれると考えても良いだろう。


「勿論、普通の援助でもいいのですが……やはりここは直接お手伝いしたいですね」


 援助することは既に決定事項である。


「ひとつお聞きしたいのですが、その町に我が商会の支店を建てるというのは、不可能なのでしょうか?」

「いえ、それも問題ないと仰っていました」


 国の重鎮達が羨ましいとでもいうように今発言した商会の娘に目を向けた。


 その目に気づいた彼女はどや顔をして見せる。


「く、悔しいですわ……!」


 ハクアファンクラブには身分差別などない。幹部とただの会員では天と地の差ではあるが、どこかの国の王女にただの商会の娘がこんな風に接することも許されている。


 彼女らからすれば白亜を愛でる者は誰しも平等であるのだ。


 逆に自分の社会的地位が高いからと身分の低い幹部に楯突けばとんでもない騒ぎになる。


 白亜の耳に入る前にと即行で除名し、文句を言うようだったら物理的に黙らせて全会員に知らせ、敵対行為を促す。


 勿論促すだけなのでこっそり手を貸すのも問題はなく、もしバレてもなんのお咎めもない。


 だが、彼女らはハクアファンクラブの幹部、つまり自分からの白亜との接触を許されている者への侮辱は軽蔑の対象である。


 白亜が人種や身分差別を嫌う性格なので全員それを尊重する。


 幹部になる者はハクア愛が強いのでそんなことは絶対にしない。幹部だからといってただの会員を侮辱などしないのだ。


 幹部を侮辱するのは白亜の考えを否定することに繋り、他の会員からの軽蔑にイコールで結ばれるのだ。


「娯楽の町なら食べ物も必要ですわね」

「宿屋と……掃除はどうなるのでしょうか?」

「あの森を使うのなら物資の補給ルートの確認もですね」


 自分が何をすべきなのか、それをわかっている幹部達。


 白亜との接点を出来るだけ多くしたいと皆必死である。


 彼女らの会議は翌日まで続いた。

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