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無気力超能力者の転生即興曲  作者: 龍木 光
英雄の生まれかわり
336/547

「勿論満場一致です」

「っていうか来るの明日って言ってたじゃないですか」

「そのつもりだったんだが……今の保護者に『とりあえず挨拶はしてこい』と言われてな」


 意外と律儀な保護者(ヨシフ)である。


「えっと、お師匠様? どういうことです?」

「中で話すよ……。師匠もどうぞ」


 ラメルを中に引き入れてリビングの椅子に座らせるジュード。


 それに続いてなかに入ると、


『あ、ハクアだー! お帰りー』

「少し魔力が増えたな、チコ」

『えっへん!』


 胸を張るジュードの精霊のチコ。


 そんなチコに向かって人差指を差し出してその先端から金色の光がほんの少し広がる。


『すっごい! 暖かい!』


 パタパタと飛び回るチコはその光にもっと当たろうとどんどん近付いてくる。


 それを見たジュードは、


「なにやってるんです?」

「どうも聞いた話によると神力がある場所には魔力や精霊が集まりやすいんだそうだ。精霊が集まってる場所は神域に雰囲気が似ていることが多い」


 指を下ろす白亜にもっともっととチコが抗議する。


 白亜はまた今度な、と言いながら音を一切たてずに椅子に座った。


「なんか……無音移動レベルアップしてますよね」

「……? 無意識だから……」


 これを無意識でやれるようになるまで一体どれ程時間がかかるだろうか。


 白亜の不思議な色の目がまっすぐラメルに向けられる。


 魔眼は発動していないが、その触れば切れそうなほどの鋭さを持った目に捉えられた者は大抵少しはビビってしまうものである。


「ジュードも弟子をとるようになったのか」

「成り行きで、ですけどね。弟子というより親代わりです」

「ほう」


 ラメルはなんとなく居心地が悪そうに肩をすくめ、口を開く。


「お師匠様のお師匠様って……亡くなってる筈じゃ」

「死にましたよ」

「えっ、じゃあアラタは」

「生まれ直すことは誰だって可能ですからね。その時に記憶を持っているかいないか、それだけです」


 私は前者ですが、といい、紅茶を口に含んだ。


 色々と非常識な人なんだよ、と苦笑しながらジュードが付け足す。


「いつまでこっちに?」

「とりあえず週二だそうだ。流石に向こうの仕事も全部放り出していくわけにはいかないからな」


 教師としての仕事はほぼ無くなったと言っていい。何しろそれを使って戦う相手が全滅したのだから。


 だが、気力持ちが生まれるシステムを弄ったが今持っている人はそのままなのでその使い方を間違えないようにというのは教えなければならないが。


「それともうひとつ少し面倒なことになってな……」

「面倒、ですか」

「これだ」


 ピッと後ろを指すとそこから黒い服の男が急に現れる。ジュードが少し目を見開き、ラメルが叫んだ。


 流石はジュードこんなことが起こっても動じない。というより反応が白亜に似てきている気もする。


「こいつは悪魔のライレンだ。残念ながら付きまとわれている」

【付きまとわれてって酷くないですか】

『マスターの仰っていることに文句でも?』

【突然出てきますねシアンさん……】


 羽を生やした明らかに胡散臭い雰囲気を漂わせているライレンにラメルはドン引きである。


 ジュードは、まぁ師匠ですしそんなこともありますよね、と思っていた。どうやら適応力が振り切っている様子である。


「それにしてもこの街の変わりようには驚いたよ。俺がいたときはまだ作ってる途中だったからなんとも言えないけど」

「いい町でしょう? それと、この町の名前聞きました?」

「? 聞いてないと思うぞ」


 にやぁっと頬をつり上げて笑うジュード。悪戯を考えている子供のような表情である。


 白亜からしてみれば嫌な予感しかしない。


「ハクアです」

「は?」

「娯楽の町、ハクア。それがここの名前になりました」

「……チェンジで」

「無理ですよそんなのー」


 ここぞとばかりに白亜を弄って遊ぶジュード。


 白亜は気づかなかった(シアンは気付いた)のだが長い間連絡も一切せず、そのくせ突然帰ってきた白亜にちょっとした仕返しがしたかったのだ。


 その気持ちはよく判るのでシアンも黙っているのである。


「……なんで俺なんだよ」

「勿論満場一致です」

「票数の話してないから」


 確かに、この町は白亜が作ると決めたのだ。


 町を作る際、手伝ってもらった人は全員白亜繋がりで集まった人たちなので当然と言えば当然である。


【いいじゃないですか、娯楽の町ハクア】

「ややこしいだろ」

『チコもそれがいいって言ったもん』


 しかもどうやらハクアという名前が最初に出てきてもう全員それでいいと言ったらしくそれ以外の候補が一切でなかったらしい。


 そんな適当でいいのか。


 その時、カランカラン、とベルがなる。


「あ、ラメル。出てきてくれる?」

「はい」


 白亜は入り口前の足音でそれが誰だとわかり、一瞬ため息をついた。その人はドタドタとかなり大袈裟に音をたてながらリビングに突入し、


「ハクア君! 10年ぶりだね!」

「面倒なやつがきた……」

「その塩対応も懐かしくていいよ」


 全身真っ黒な魔王、レイゴットだ。


 白亜はライレンに軽く目を向けて、


「悪魔と魔族で適当に話しとけよ」

【え、なんですかその無茶ぶり?】


 ライレンに丸投げした。この研究狂を黙らせるにはそれ以上の生贄(悪魔)で適当に相手させていればいい。


 飽きるまではライレンが白亜の代わりに研究されてくれるだろう。ライレンからしたらたまったものではないが。


「お? おお? この人は?」

「悪魔のライレンだ」

「悪魔、悪魔か! いやー、ちょっと気になる‼ 凄く‼ とっても‼」


 当然のように餌に食いついてくれたようだ。


【ちょっと、リシャットさん⁉】

「頑張れ」


 知らん顔で紅茶を飲む白亜。押し付けていてなかなか酷いことを言う。


 ライレンがレイゴットに質問攻めにされているのをBGMにしながら白亜はジュードとここ数年のことを話し合った。


 ジュードはこの町のこと、友人や最近の情勢を。


 白亜は少し我が儘なお嬢様の家の話に、何でも屋の保護者のこと、それとヒカリ達白亜の一番最初の部下の話を。


 夜が更けて星が町を照らしても、その家の明かりが消えることはなかった。


 そして白亜は何十年も浮かべたことのない笑顔をその顔に浮かべて、即興でギターを弾きながら歌い出す。


 自分の人生を振り返りながら、悪くはなかったなと、そう思いながら。


 無気力な自分が今まで歩いてきた足跡を、音にのせて紡ぎ出す。


 夜の闇に深く透き通る声がゆっくりと溶けていった。

 これで本作『無気力超能力者の転生即興曲』は完結となります!


 最初は200話くらいで終わらせようかなー、なんて思って書き始めたものですが読者の皆様の励ましに舞い上がって気付けば336部目ということになっておりまして作者が一番驚いています。


 一年と数ヵ月この作品を書かせていただきましたがとても楽しかったです。アクセス数も100万を越えて、沢山の方に読んでいただいているんだなと実感し、嬉しく思います。


 今まで感想をくださった皆様、ブックマークをしてくださった皆様、評価してくださった皆様! 長い間拙作にお付き合い頂きどうもありがとうございました!


 それともうひとつ。本編完結はしましたが何かしら番外編は書こうかなと思っています。


 もし、「○○のその後が知りたい」だとか「○○の過去が知りたい」だとか、そういったリクエストがあればどうぞ感想の方で教えてください。


 リクエストが無ければ適当に私が思い浮かんだものを投稿します。


 ではまた次の投稿日に‼

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