「魔法ってのはこういうものだ」
あからさまにリシャットの表情が渋いものになる。
「………断る」
「どうせバレてるんですからいいじゃないですか」
「それとこれとは話が違うだろう。嫌だ」
「いつもやってることの延長線上でしょう」
「延長戦だろうが延長線だろうがやりたくはない。それに俺の言うことを素直に聞くとは思えん」
書類を突き返しながら目を細める。
「とにかく、その話は受けることはできない。実技教師に教えるのとは訳が違――――」
「だからお願いしたいんですよ! 警察の方からも許可はいただいてます」
「それを俺が聞かなければならない義理はない」
あくまでも自分はやりたくないというスタイルを貫くつもりのようである。
岡村はため息をつきながら机の引き出しを開け、中から封筒を取り出した。
「これを承認してあげたのは誰でしたかな?」
「………そういうのを卑怯と言うんじゃないのか」
「はい。ですがこれぐらいしないと聞いてくださらないでしょう?」
「そんな浅はかな手に乗ると思ったか?」
「思いません。ですからこっちもです」
ポケットから鍵を引き抜き、リシャットに見せつける。それを見た瞬間、リシャットの目付きが変わった。
冷たい輝きが苦々しいものへと。
「………」
「どうします?」
「………どうなっても知らんぞ」
「ありがとうございます」
目を逸らしながら盛大にため息をつくリシャットに、華の咲いたような笑みを向けた。
午後、実技の時間の筈が何故か教室待機になった。
一体なんなのか、と全員が目を見合わせると教室の扉が勢いよく開かれる。何事かと全員が目を向けると、扉を器用に足で開けた人が入ってきた。
手には段ボールを持っており、長い銀髪を1つに纏めている。男性か女性か分かりにくい、よく通る声がその喉から放たれた。
「全員、座れ」
あからさまに不機嫌な様子のリシャット・アルノルド(大人バージョン)だった。
その様子に全員が驚愕の目を向けるが、あまりにも急だったためか驚きすぎると声もでなくなるのか。誰も声を出さなかった。
リシャットが入ってきた扉から校長である岡村が入ってきて、右手でリシャットを示す。
「はい、皆さん。今日からここの実技を担当してもらいます、リシャット・アルノルド先生です」
「「「…………へ⁉」」」
なんで? という言葉しか浮かんでこない。
「………そんな顔をするな。俺だって嫌だったのに」
しかもその先生がこれである。やる気がないにも程がある表情だ。
「校長先生! なんで、あの、その」
「よくぞ聞いてくれました。リシャットさんはもう知っているでしょうがあの揮卿台白亜です。誰よりも気力を使えるということで先生としては最高の人材かと」
やけにニコニコしているのでなんだか恐怖が沸いてくる気がする。後ろのリシャットの目付きも頗る悪いので余計にだろう。
「さ、お願いしますよ。先生」
「………すぐに教えること教えてやめてやる」
実に態度の悪い先生だ。リシャットは段ボールを机の上に置いて、少しため息を吐いてから、
「……今、言われた通り、ここの実技教師をすることになった。面倒だから言葉遣いもこれでいかせてもらう。俺が担当するのは座学と気力、個々にあわせた格闘技だ。質問、異論は?」
聞きたいことだらけで寧ろなにも出てこない。
「いないな。じゃあまずここ数ヵ月見ていて見つかった課題点は『連携のとれなささ』だ」
しかも突然授業に入るらしい。
「知っていると思うが魔獣の腕力は人間の数倍から数十倍はある。それをどうカバーするかが一番の課題であり、それの解決策として上がるのが連携だ。今の警察や学校での指導、若しくは戦闘体系は5人1グループでわかれ、前衛二人、中衛一人、後衛二人で分けられることが多い」
早口ではあるが声が聞き取りやすいので意外にすんなりと頭の中に入ってくる。
「そして今やっている授業は前衛と後衛だ。中衛は最悪無くてもいけるから、それで今はいい。問題は君達の気力の使い方だ」
リシャットの目がほんの少し細くなる。
「君達は気力を魔法のような力だと勘違いしている節がある。魔法と気力は全くの別物だ。使ってる力も違う上、放出のしかたが異なる」
「ちょ、ちょっと待って‼」
「なんだ」
「魔法なんてあるの⁉」
「ある」
さらっと言ってのけるリシャットに全員が唖然とする。
「魔法ってのはこういうものだ」
コンコン、と段ボールをつつき、指で弾くような動作をする。するとひとりでにその蓋が開いて、中に入っていた箱が各々の机の上にとんでいった。
もう、なにも言えない。
「俺は色々あって気力も魔法も使えるが、君達には気力のみだ。だからできることは限られる。っと、話が逸れたな。俺が言いたいのは気力には種類はほぼないということだ。種類を作る方法はあるが君達には無理だろう」
「なんで」
「……直接命を削る方法だからだ。知らないだろうが君達にはストッパーがかかっている。正確に言うと俺がストッパーをかけたというのが正しいが」
コキコキと首を回しながら空になった段ボールを畳み始める。
「人間は本当の意味で全力は出せない。どれほど頑張っても7割が限度だと言われている。気力を本当の意味で使いこなそうと思ったら残りの三割を解放する必要がある。使い続ければ死に直結するほどのものだから君達には使って欲しくない」
パチン、と指をならすと先程机の上に置かれた箱が開かれる。中に入っていたのは一本の万年筆だった。
半透明のクリスタルで作られたそれを手に取ってみると恐ろしいほど手に馴染む。
「それは俺が作ったペンだ。手の大きさやペンの動かしかたの癖なんかを見て作ってあるから重さや形が全員違う。自分の名前が入っているか確認してくれ」
横にはご丁寧に金色のローマ字で名前が掘られていた。
「こいつはただのペンじゃない。気力に反応してインクが出る仕組みになっているからインクの補充も必要ない。それと、気力の使い方を学べるようにわざと回路を複雑にしてあるから」
にや、と不敵な笑みを浮かべる。
「それ使って授業受け続ければ気づかないうちに気力の扱いが上手くなってるはずだ。まぁ、その分最初はきついけどな」
なんと、授業以外の時間でも扱くつもりのようである。




