「では連携の大切さを体で覚えてもらおう」
今週の月曜日。体育の授業で。
再び腰をやってしまいましたぁ! 痛い!
更新が遅れるかもしれません。座ってるの痛いんです……。
気長に待っていただけると嬉しいです……。
「では連携の大切さを体で覚えてもらおう」
拒否権も無いらしい。直ぐに校庭に連れていかれた。
リシャットはいつのまにかもうひとつ段ボールを抱えていて、それを開けると白い拳銃のようなものが無造作に入れられていた。
「ああ、本物じゃないから安心しろ。ただの玩具だ」
それを一人一人に配る。
「そいつの中にはペイント弾が入っている。人に向けて撃っても安全だし、目や口に入ってしまっても問題ない。主成分は葡萄だからな。寧ろ美味いと思うぞ」
なに作ってるんだよ、と突っ込みたくなる。
「今から行うのは簡単なゲームだ。そうだな、鬼ごっこというやつだ。全員で俺に指一本でも触れることができれば君らの勝ちだ。ペイント弾、及び気力の使用も今だけなら許可する。小石なんかを投げても良い。俺に一瞬でも触れたらそれで合格だ」
リシャットは左手をまっすぐに突きだして近くの子供の眼前に掌を向ける。すると突然立っていられない程の強烈な風が吹いた。
「俺は隠れないし君たちが追い付けないほどのスピードを出すつもりもない。が、この手の範囲、射程は二メートルで風を出す。その代わりそれ以外の事はしない。君らは俺の手を警戒しながら触ることだけを目標にすれば良い」
「両手でずっと風吹かれたら近付けないよ」
「風を出す時間は一秒、一回使ったら十秒のクールタイムでどうだ。それと右手は使わない。なんなら置いておこうか」
がこっと腕が外れた。一部の生徒から悲鳴が上がる。
リシャットはそれを気にもせずに校庭の端にそれを置いて平然と首を回す。
「この前の件で腕はなくなった。あれは機械だ」
さらっと告げるリシャットに誰も言葉を発することができない。
「俺の動く範囲は、そうだな。このレーンの中だけにする。君達は外から狙っても中に入ってきても構わん。そのペイント弾は廊下の端から端までくらいの射程がある。もう一度いうが中には五発入っている。撃ち終わったらそれまで、後は直接近付くか気弾を当てるかすれば良い。制限時間はこの時間一杯までだ。では、始め」
各々不安そうな顔をしながら、手に持っている物を構えたりポケットにいれたりしながらリシャットに向かって走りだした。
「えっ⁉」
「気弾を作るのが遅すぎる。不意打ちならもっと隠れてやれ」
バチン、と小さな風船が破裂するような音が辺りに響き気弾がかき消される。これをされたのは何人目だろうか。
「全然間に合わない………」
スピードが追い付かない訳ではない。寧ろリシャットの動くスピードはかなり手加減しているので生徒達の方が早いくらいだ。
それでもまるでどこから来るのかわかっていて動いているかのように、一切の無駄がない。
一斉に石を投げたりしてみても数個は紙一重で避けられ、確実に当たる範囲のものは風で吹き飛ばされる。
奇っ怪な動きは無い。片足を軽く下げるだけで攻撃を完全に避けきってしまうのだ。
既にペイント弾を使い果たしてしまった生徒も多い。
リシャットは殴りかかってきた男子の足を止めながら一歩引き、飛んでくる物をなるべくギリギリで避けるようにする。
『もう少し大袈裟に動いてもいいのでは?』
(いや、疲れているときに戦うことになっても良いようにできるだけ疲れない動きかたを身に付ける必要がある。伊東のようなことは二度とごめんだ。偶々地球の環境に近い所に飛ばされていたからなんとかなったけど、これから先何が起こるかわからない内は用心するに越したことはないだろう)
空気を切る音がした。
「左斜め後ろ、狙いは良いが気配でバレバレだ」
完全に死角から攻撃されてもそれを見もせずに涼しい顔で避ける。これはリシャットの訓練でもあるのだ。
一時間後、案の定というか、予想通りというか。リシャットに攻撃を当てられる生徒は皆無だった。
「今日はこれで終わりだ。光太郎さん、八重さん、菜々美さんは後で俺のところに来てくれ。格技場にいる」
そう言ってさっさと校内へ戻っていった。
十数分後、三人が格技場に行くと。
「そこ、遅い」
「無茶言わないでください………よ!」
「まだ切り払いが甘い。もっと踏み込め」
目隠ししたリシャットが教師二人を相手取って戦っていた。攻撃を義手で逸らしたりもしているがほぼ避けきっている。
教師二人もかなりのレベルではあるのだ。それこそ魔獣を一人で相手取れるくらいには強い。
それでもリシャットは容赦しない。強くなれるなら高みを目指すべき、と言って休む暇すら与えない。
「ん」
「わっ⁉」
脚を顎に向かって蹴りあげられた時、それを避けようとして仰け反り体勢を崩した。リシャットは服を引っ張って後ろに転ばせて眼前に拳を突きつける。
「どうだ」
「まいりました………はぁ、はぁ、はぁ」
息を整える二人は格技場に入ってきた三人を見つけて、
「リシャットさん⁉ 子供達入ってきちゃってますよ⁉」
「知っている。俺が呼んだ」
せめて連絡か報告しろと思う。
「単刀直入に言おう。君達には直接的な戦闘法を学んで貰おうと思う」
「「「え⁉」」」
目隠しをとってそれで髪を結ぶリシャット。白銀の髪が蛍光灯の光を反射してキラキラと輝く。
「うちらが⁉」
「そうだ」
「男子で良いじゃん」
「君達には素質があると思ったからだ。わざわざ今日渡したペイント弾を銃の形にしたのはそれを見たかったから。君達なら本物もいつかは扱えるようになるかと思ってな」
この三人はあまり運動が得意な方ではない。なのでお叱りを食らうと思っていた。
予想外に誉められて寧ろ不安になっている。
「菜々美さんは人の間を縫って狙って打つことができていたし、光太郎さん、八重さんの二人は走りながらも照準は定まっていた。各々活躍できる場もあるだろう」
リシャットは鞄の中から今日使ったペイント弾が大量に入っているケースを取り出して三人に渡した。
「これをひたすら打ち込んでみるといい。的は何でも良いが、なるべく確実に当てることを目標にしろ。最初は近くて良い。徐々に距離を伸ばし、動いているものも当てられるようになればいい。因みにそのペイント弾は今日使ったものに少し細工がしてあって打ち込んだ直後は見えるが時間がたつと水になっていくようにしてある。安心して打ち込め。悪用はするなよ」
呼び出して悪かったな、と一言付け足し、先程の教師二人にまた目を向ける。
「休憩は終わり。もう一回だ」
「「ええええええ」」
「なんだ、文句あるのか」
「文句は無いですけど、疲れますよ。リシャットさんみたいにほぼ無限に体力ある訳じゃないですし」
「はぁ………仕方無い。じゃあ後10分だけだ」
そう聞いて即座に寝転がって体力回復に努める。
リシャットはポケットからメモ帳を取り出してそれを確認する。
「何が書いてあるの?」
「………別に面白いことじゃない。ただの買い物メモだ」
「あ、買い物………っていうかリシャットってどこに住んでるの?」
「電車とバスで一時間と少しくらいだ。走った方が早いんだが、なるべく公共交通機関を使えと釘を刺されてな」
本気で走ったら一秒もかからないのが怖いところである。
「一人暮らし?」
「いや、5人だ。後猫が大量に住み着いている」
「ペット?」
「いや、直接飼っているのは一匹だ。後は野良。何匹いるか数えたことはない」
「餌あげてるの?」
「なくてもなんとかなりそうではあるがな………旦那様に言われたらやらざるを終えん」
「…………旦那様?」
「俺の本業は警備と執事だ。とある家の家事をする代わりに住まわせてもらっている」
改めて考えてみるとなぜこんなことになっているのだろう。そもそも教師が執事をやって良いのかは甚だ疑問である。
「執事⁉」
「学校に来る前から働いている。俺がよく学校を休んでいたのはそっちの業務があったからだ」




