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無気力超能力者の転生即興曲  作者: 龍木 光
英雄の生まれかわり
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「ジャッジ開始だ」

 面倒だとでも言いたげな半目がしっかりと開いている。いつもそれならいいのに、と誰でも思うだろう。


「リシャット………その後ろの方々は」

「ここで亡くなった人たち。一時的に戻ってきてもらったんだ」


 何を言っている? 全員がそう思った。


 だが、リシャットはそれを感じとるほどの協調性は持っていないのだ。


「丁度一人、一人ずつ。彼らについて貰って貴方達を殺すか生かすか決めようと思う。彼らの大半はただの村人。生き残りたくば彼らに命乞いしてみろ」


 スッとリシャットが手を広げると、後ろにいた三十人がざっと移動して丁度敵の目の前に来るように広がった。


「ジャッジ開始だ」


 パチン、とリシャットが指をならすと一人の女性が目の前の操縦士に向かって、


「夫はなぜ死んだの? なぜ帰ってこないの?」


 怒りと悲しみの籠った目でそう訴える。操縦士は鼻でそれを笑い、


「弱いから負けるんだ。我々の国につかないからそうなる。それが当然だ」


 反射的に答えたのか、じっくり考えて出た言葉かは判らないが、そう言った。すると女性の顔から一切の表情が失われる。


「そう。なら貴方も死んでもらうしかないわね」

「おい、ちょっと待て、ぐぁあああああ⁉」


 女性がどこからか取り出した包丁に心臓を貫かれ、叫びながら動かなくなった。それ見た操縦士が数人発狂したように命乞いを始める。


「頼む、俺は、俺だけは殺さないでくれ‼」

「だけ? それは無理だな。そう言った我々を殺したのはお前らだ!」


 また、一人。


「やめてくれ、頼む、なんでもする!」

「じゃあバイバイ」


 また、一人。


 次々と動かなくなる操縦士達を見たルノがリシャットに掴みかかった。


「リシャット‼ 貴様、人の心はないのか‼」

「……そんなものない。俺はなにも残ってないからな……」

「親に教えられなかったのか⁉ 人の命は弄ぶものではない!」

「そうだな。普通なら教わるんだろうな」


 ルノは、初めてリシャットの本当の目を見た。強膜が黒く、右と左で別の色の光を放つ絶対零度の輝きを。


 触れたものを凍らせ、壊す、そんな鋭さを湛えた目には一切の感情も宿ってはいない。


「全てを棄てて復讐に走った大馬鹿者だからな。誰の言葉も聞きゃしない。きっと親がいたら苦労してるんだろうな」

「親がいないのか………?」

「6つの頃、目の前で殺された」


 なんと答えたらいいのかわからず、ルノが小さく目を逸らす。


 バタリと音がした。見れば操縦士全員がその場に倒れていた。


「っ、殺した………全員をか」

「ハッ、誰がこんな殺す価値もないやつらを殺すんだよ。手を血で濡らして帰るわけにはいかないんでね」


 その言葉にルノが足元の男を確認してみると気絶しているだけだった。どうやら全員気絶しているだけのようである。


「………」


 リシャットは興味のない目で操縦士達を見て、鼻で嗤った。


「…………ばーか」


 誰に言ったのだろう。彼らに言ったのかルノに言ったのか。若しくは自分に言ったのだろうか。


 呟くようにそう言ってから踵を返し、もう二度とその地を踏むことはなかった。









「あー、眠い」

『お疲れ様です』

「ん。シアンもありがと」


 リシャットはベッドに倒れこみ、小さくため息を吐きながら近くにある本棚から一冊の本を取り出す。


 表紙には何の絵も書かれていない。その上に印刷されている金色の文字は文字とは言えないような形をしていた。


 開いてみても中は白紙でどのページも黄ばんでいる。


「これ、本当になんなんだろ………」

『鑑定が遮断されますので詳細は不明です』


 数年前、潰しにいった魔獣のアジトにあったものだ。なにかに使えるかと思って持ってきたのだが、特になにも起こらない。


 それにどうやらインクを弾いてしまうらしく、いくら文字を書いてもインクだけが浮かんでしまい、書くことができない。


 地味に不気味だった。


「なんかどっかで見たことあるような気がするんだよな、これ……どこだったっけ」


 何十年も生きていると忘れっぽくなるので困る。


 ふと時計を見上げるともうすぐ夕食の時間だった。


「さて、そろそろ作るか……確かポトフってリクエストがあったな」

『材料は揃っていますのですぐに作りましょう。野菜スープよりクリームシチューの方にしましょう』

「そうだな。じゃあ早速」


 パタンと本を閉じて本棚の中に再びしまった。本は静かにそこに収まっていた。


 急いで作り始めると欄丸がやって来た。


「手伝うことあるか」

「それ洗っておいてくれ」


 言われた通りに使い終わった食器を綺麗に洗う欄丸。すると突然手を止めて、


「ミュルが………」

「ん?」

「泣いていたぞ。リシャットが心配だと」

「………そっか」


 猫にまで心配をかけていたらしい。本人……本猫は現在、にゃん溜り(猫の集会)に倉庫の猫たちと一緒に行っている。


「どこまでも危ないやつだと言っていた」

「それは確かに否定出来ないな」


 危なっかしいのは否定できない。病気みたいなもので、治るとも思えない。


「お嬢もそう言っていた」

「そうか………」


 皆言っていたんだろうな、とリシャットは考える。


 こういうのは一人言い出したら皆それに同調するのだ。


「わかっているのなら治せ」

「難しいな。俺だって好きでズタボロになってる訳じゃないし」


 腕をなくしたのは自分の意思だが、ああするしかなかったのが実際のところだ。


「………話は変わるが。学校はいいのか」

「………いい。そもそも俺が行ける雰囲気じゃない。伊東を見つけるのが最優先、学校は優先順位が低い」

「そうなのか」

「そういうもんだよ」


 リシャットにとっては、という但し書きがつくが。


 もし美織が学校を休んだらリシャットは担いででも美織を学校に行かせるだろう。よほどのことがあれば別だが。


 それとなく、差別である。

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