「さぁ、運命の判決を下そうか」
「っ⁉」
「んー、上空は風が強いな………もう少しスピードを上げてみてもいいかもしれん………」
小石を片手で弄びながら空を見上げるリシャット。
ルノは目を見開いて、
「今、一体………」
「石投げただけ。また来るぞ」
再び石を投げるリシャット。その石は今度は一気に加速し、爆弾を貫通。後方の戦闘機の側面を抉った。
「あ、今度は強すぎた………いかん、腕がなまってるな」
吹き抜ける爆風をものともせずに小石をコロコロと手の中で転がす。ルノは風の強さに耐えきれず、体を伏せていた。
「ルノ」
「な、なんだ」
「どうしたい?」
「何をだ」
「あれ、全部落とす? 壊す? それとも消す? まぁ、追い払うって手もあるけどそれはそれで面倒なんだよな………」
消す、の意味が一瞬わからずに唖然とした。選択肢の八割がどれ選んでも同じ運命である。
「私は敵国だろうが殺したいとは思わん………だが国に連れていったら間違いなく殺される。やつらも敗走すれば死が確定する。最強の戦闘機の敗北は世間には知られてはいけないと思うだろうからな」
「どっちにしろ死ぬって訳か」
リシャットは再び石を投げながら少し考え込むような仕草をし、
「じゃあとりあえず生け捕ってみる。無理そうだったら落とすけどそれでいいか」
「出来るなら良いのだが………相手は戦闘機だぞ」
「別にあれぐらいどうってことないさ。じゃあ行ってくる」
「行ってくるって―――」
どういうことだ、と聞こうとした瞬間にリシャットが飛び上がる。ただ、ジャンプをしただけ。なのにとてつもない飛距離だ。
割れた石畳が踏み込みの力強さを物語っている。
「よっ………と」
「ギャアアア⁉」
コックピットの上に乗ったら操縦士が絶叫した。うるさいのでとりあえず軽く電流を流して気絶させておく。
「まず一人」
落ちかけている戦闘機を魔法で無理矢理制御しながら次の所へ飛び移る。
その瞬間、操縦士が持っている銃でリシャットを撃った。延長線上にあった硝子が割れて破片が飛び散る。
直撃していたが傷ひとつないリシャットを見てその異常性に恐れ、失禁して気絶した。
「なんにもやってないのに気絶した………ま、いいや」
こんな調子で次々と操縦士を捕らえ、担いで地上に戻る。
人の上に人が積み重なっているのに崩れるような気配はない。一番したの人が押し潰されている様子もない。よく見ればわかるのだが、全員ほんの少し浮いている。
一人ずつ浮かしているだけなのだ。
「はい、とってきた」
「……………」
まさに死屍累々。そんな様子の相手をみて、ルノはこの人に敵対してはいけないと深く心に刻み込んだ。
「リシャット………本当に何者だ」
「さぁ? そんなことより縛っておくか?」
「それもそうだな」
リシャットがどこからともなく取り出した紐についてはもう何も言うまい。
「頼む。ひとつで良い。誤魔化さずに答えてくれ」
「………」
「リシャットは、敵か味方か」
「どっちでもないと思う。ルノは死なせたくないけど、それだけだ。ルノが死にたいって言ったら止めないし、俺を殺すって言うんなら俺は普通に帰るだけ」
「帰る場所はあるのか」
「ある。一応は。ルノは一生掛かってもこれないような場所にな」
魔法がない世界に異世界の話をしても無駄だと思っているリシャットは冗談混じりの口調でそう言った。
「なら、今すぐ帰れ。君はどこからどうみても異質だ」
「帰りたくても帰れないんだなぁ、これが」
小さく笑いながら操縦士を縛り上げていく。たまに締め付けすぎて、ぐえっ! とか聞こえるが、全く気にしていない様子だ。
「万全の体力がないとキツいんだよ。今すぐ帰れないこともないけど途中で事故になりそうだし」
縛り終え、右肩を庇うように左手で持ってその場に座って休むリシャット。ルノはその隣に座り、リシャットの右肩を見る。
「怪我か?」
「ほら」
ガシャンと金属と硬いものがぶつかる音がした。下を見ると腕が地面に落ちている。
「俺が作った義手。試作品だし、使いなれてないからつけてるだけで疲れるんだけどね」
「腕がなくなったのは最近か?」
「元々不自由ではあった。とある事故………事件で腕一本落とさなきゃならなくなってね。自分で切り落とした」
ルノは恐る恐るリシャットの肩を触る。
「痛く………ないのか?」
「痛くないっていったら嘘になる。けど俺はこんな痛みより優先することが山ほどある。だから何とかしてでも生き延びようと必死なんだ」
義手をつけ直しながら後ろに目をやり、
「いつまででも寝た振りってのはよくないと思うぞ」
「………気づいていたか」
「呼吸で判る」
ルノが驚いて声がした方を見ると、一人意識を取り戻している操縦士がいた。
かなり目付きが悪い。
「一体我々に何をした」
「スタンガンって判る?」
「あんな子供の玩具でか」
「それと似たようなものだ。速さにさえ自信があれば誰だって出来る」
リシャットは腕を組んで相手をまっすぐに見つめる。戦闘前にはとっていたのに、いつのまにかフードをまた被っていた。
お陰でこっちも目付きが相当悪い。
「早く殺せ。屈辱だ」
「それを決めるのは俺じゃない。生憎と殺しは嫌いなんでね」
まさに水と油。話が全く噛み合いそうにない。
「リシャット。どうするつもりだ」
「ルノが決めればいい。俺は捕まえただけだ」
「………逃がしたい。が、どうにも………」
リシャットがルノの言葉を聞いてなにかを思い出したように声を出した。
「あ。じゃあここの人達に決めてもらうってのはどうだ」
「ここの人たち………?」
「ここで亡くなった人達。彼らに聞いてみればいいだろう」
思い立ったが吉日、とでも言わんばかりに早速立ち上がってなにかしら口のなかで唱え始めるリシャット。
かなり高速なので何を言っているのか判りづらいが、言葉の端々に死者という単語が出てきているのはルノにも聞き取れた。
こんなことをしているうちに捕まえていた人たちは皆起きたようで寝ている振りをしながらロープを必死で解こうと、若しくは引き千切ろうとしている。
だが、それはリシャットのロープで、尚且つ結んだのはリシャットである。なんの細工もしていないはずがない。
とりあえず頑丈なのだ。ガッチガチに結ばれている。
「―――呼び起こせ。死者の踊り子」
魔法が発動し、花が咲いている墓の上の空気が歪んだ。
数秒後には老人から子供まで、年齢も性別もバラバラな人達、計30名がそこにいた。
「さぁ、運命の判決を下そうか」
それよりも何よりも怖いのは、リシャットの妙なまでに生き生きとした表情である。




