「ため息をつくと幸せが逃げるぞ」
300部です!
特になにもないです! ごめんなさい。
挑発しすぎた。その言葉に女性の目が鋭くなる。
「何を挑発した?」
「挑発っていうか、爆弾落としてきたから小石投げて空中で爆発させただけ」
勇気ある行動、を通り越して呆れるしかない。
「で、今その戦闘機が倍の数引き連れて飛んできている。ここにつくのも時間の問題だな」
「戦闘機………オルグラの物か」
「オルグラ?」
「オルグラ帝国だ。戦闘機の横に鷲のマークがあっただろう」
「あった気がする」
「それだ。世界最強の戦闘機を作っている国だ」
中々かっこいい響きだ、等と馬鹿なことを考えていると一発リシャットの腹部に弾が命中した。
どこから飛んできたのかを予測すると、斜め前の茂みからだった。
「っ、小佐! 殺す必要はなかっただろう!」
「いいや、必要さ。そいつはどう見ても危険だ。今のうちに手を打っておくのが最適だ」
「だが………!」
勿論リシャットには傷ひとつついていない。その証拠にずっと平然とした顔で立っているのだが銃を打ったということに対しての議論が開かれたのでリシャットのことはそっちのけになっているという、当事者丸無視の痴話喧嘩が始まった。
「大佐。あんたの父親がこの町の出ってことは知ってる。だが、そいつは全く関係のない異常者だ。こんな日に出歩くなど、異常者としか言えん」
「それでも、殺す必要はない筈だ。敵だと思うのならせめて地下牢に閉じ込めるなど、色々と対応策はあった筈だ」
「それでも………」
面倒になってきたリシャットは目を隠すようにフードを被って花に水をやり始めた。本当に自由人である。しかも物音が全くしないのでだれも気づかないという異常事態である。
「見ろ、こんな無惨な………無惨な………は?」
「………ん?」
全員の視線が自分に集まっていることに気づいたリシャットが水遣りをしながら振り向いた。ピンピンしている。
「死体が動いている………」
「残念ながら生きてる。それぐらいじゃガードしなくても当たっても痛くないぞ」
銃を指差しながら欠伸をするリシャット。
血が流れていないどころか服の穴すらもない。
「俺を殺したいならマグマの中にでも突き落としてみたらどうだ。落とされるつもりもないし、落ちても死なない方法はいくらでもあるがな」
そういって水遣りを再開する。まさに異常。非常識という言葉が服を着て歩いているのがリシャットだ。
「どうして、生きている………」
「どうしてって、そんな玩具じゃ俺は殺せないってだけだ。なんなら気が済むまで打ち込んでみれば?」
「っ、死にたいのなら、やってやるよ!」
脳天に当たった。
「ヘッドショット………は?」
「だから痛くもない攻撃されても俺困るんだけど」
「い、今確実に当たった筈じゃ」
「当たったが? そもそも俺が避けないってことはそれほどの物じゃないからだ。そんな玩具15歳くらいの子供でも作れる」
やけに具体的なのはリシャット本人が初めて作ったのが15歳だったからだ。
滅茶苦茶態度が悪い。そしてリシャットがこの場を動かなかったのには理由がある。
「それに、遺灰に弾打ち込むな」
そう、リシャットは別に避けても良かったのだが、避ければ今花が咲いている墓に銃弾が打ち込まれることになる。
それは避けたかったのだ。
フードで隠れている目元が一気に鋭くなる。
「一体、何者だ………他国の工作員だな」
「勝手に言っとけ。俺は人を冒涜する行動が嫌いなだけだ」
何を言っても響かないとわかったリシャットは突き放すようにそう言った。その目は更に温度を失い、なんの感情も宿していないようにすら見える。
「緊急の連絡です! 西の方角から戦闘機が30機程接近している模様! 直ちに避難を」
「くそっ、やはり罠だったか!」
リシャットを睨み付けて悪態をつく。
「そう思うならそう思えば? 言っとくけどあんたら自分から接近してきたの忘れるなよ。俺のせいにしてるんじゃねえよ」
結構イラつきがピークに達しているようだ。それほど墓が大事らしい。
「頼む。地下牢に入ってくれ。誤解が解けたら助けると誓おう」
「無理だ。人を探しているといった筈だ。一刻を争うんでね。今は疲れてるから動けないけど」
バッサリと女性の意見すら一刀両断する。流石は天然記念物だ。
「そんなにあれが怖いのなら早く逃げたら? 俺はここを一旦守るけどな」
「何故そこまでして死体を守る」
「………誰も見てくれないからだ。死んだらそれまで。それまでは友だなんだ言ってたやつらが屍を踏んで真新しい死を生む。馬鹿馬鹿しくて仕方がない。だから俺はそれを弔うことが大切だと思う。それだけだ」
なにをいっているのか。そんな顔をしている女性に向かって、
「………死ぬのは寂しいからな。せめて、来世で幸せに生きてほしいから弔う。気休めでも、願いは届く」
実際に死んだことがあるからこそ、特にそう思えるのだ。
「早く逃げれば良い。もうあんた以外は避難したぞ」
「………ここで逃げては女が廃る。ここは本来私の故郷になるはずだった場所だ。見ず知らずの者に守られたくはない」
「そう」
リシャットの隣に腰を下ろした。遠くから戦闘機のエンジン音が低く聞こえる。
「…………名は」
「………リシャットだ」
「そうか。私はルノだ。一応ビザンクス公国の大佐をやっている」
「偉いんだな」
「偉くはないさ。小隊の隊長というだけさ」
リシャットが小さくため息をつくと、
「ため息をつくと幸せが逃げるぞ」
「あー、それお嬢様によく言われるな………私のぶんも幸せ逃げるからやめさないって」
「なんだ、召使なのか」
「とある家の執事だ」
「執事………似合わないな。そこまで横暴な使用人とは」
「それは俺も思う」
もう、戦闘機は目で見えるところまで接近していた。リシャットは立ち上がって服に着いた埃を払う。
ルノも立ち上がろうとしたので手を差し出すと、ルノはそれを掴んで首をかしげた。
「細い腕だな」
「筋肉が鍛えてもつかないんだよ。邪魔なところばかり脂肪が増える」
「脂肪…………?」
どこかはお察しである。リシャットからすれば邪魔なものでしかないようだ。
「動く度に揺れるし、潰しても限界がある上に普通に苦しい」
「……………胸か? まさか女なのか」
「女で悪かったな。好きで女に生まれた訳じゃない」
誰だって自分の性別は選べない。これは単なる愚痴だった。
リシャットが他人に愚痴を漏らすのは非常に珍しい。特に初対面ともなるとほぼ皆無と言えよう。
それだけルノを気にかけているということだ。
「私もだ。女に生まれながら女らしくない。それにどうしても男には勝てない」
「拳銃と大砲で戦っているようなものだからな。だが拳銃には拳銃なりの戦い方ってもんがある。ルノはそれを見つけられていないだけだ」
戦闘機から、爆弾が降ってくる。ルノは覚悟を決めていたものの、手が震えていた。
「ルノ。あんたの勇気は無駄じゃない」
たった一人ここに残った理由は、リシャットが後ろから部下を襲うかもしれないからだ。勿論リシャットにはすべて聞こえていた。
「部下想いのいい上司だな。あんたみたいな人がいるから腐った世界が機能する。俺は淀んだ空気が嫌いなんでね」
小石を数個、軽く投げる。軽く、ではあるがそれはとてつもないスピードで爆弾にぶつかって貫通し、その場で爆発させる。
「ルノみたいな人は残す必要があると思うんだけど」
誰かに確認するように、そう言ったのだった。




