表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無気力超能力者の転生即興曲  作者: 龍木 光
英雄の生まれかわり
303/547

「国の為に、か……」

 リシャットから離れてちょっとだけ伊東sideをと。


 読み飛ばしてくださっても大丈夫です、多分。


 多分、ね。

「うっ、なんやこれ⁉」


 起き上がって口に入っていた砂を吐き出す。


「確か………変なのに吸い込まれて………夢やないんやな」


 手にあるウエストポーチが現実だと訴えてくる。絶対に離すなと言われたそれを腰につけ、ファスナーを開けてみる。


 なかに入っていたのは紙の束だった。


「これは……リスト?」


 ご丁寧に冊子になっている所がリシャットらしい。


 中を開けて読んでみると、使い方まで懇切丁寧に書かれていた。まるで渡すことを前提に作られたみたいである。


「これ、一体どれだけ入っとるんや……?」


 食料欄には惣菜パンをはじめとした主食類や漬け物などのツマミになりそうなものまであり、飲み物も水や緑茶、果てにはワインなんかも入っている。


 飲めないのにいれているとは。


 防災グッズやキャンプ用品など今凄い役立ちそうなものからよくわからない禍禍しいカードなどの何に使うかもわからないものまで。一体何百種類あるんだと突っ込みたくなるほどにとてつもない量が入っていた。


 リストに書いてある番号を口にすると、ポーチ内にダウンジャケットが現れた。めちゃくちゃ便利である。


 それを着てみると、明らかに大きさがあわないかと思われたが、ピッタリの大きさに広がってくれる。


「魔法みたいやな」


 魔法だ。


「ここ、どこやろか……?」


 携帯を起動してみたが圏外だった。充電も勿体無いので電源を落とす。


 リシャットの持ち物の中にあった役立ちそうなグッズを身に付けながら適当に歩いてみる。


 適当に歩くのは危険かもしれないが、じわじわと寒さが増してきていたので早めに移動を開始したのだ。


 大怪我をしていたのは見えていたのですぐに迎えも来ないと判断したためでもある。


「リシャットさん、大丈夫やろか………」


 腕が無かったことは確認しているがそれ以外の外傷があったかは覚えていない。


 バナナで釘が打てそうな寒さの中、リシャット製の実質この世で最も実用性のある物の数々を身に付けている伊東は少し寒いかなくらいの気でしかない。


 まずは人を探さなければ、と歩きはじめる。


 リシャットの持ち物の中に羅針盤も入っていたのでそれを使ってとりあえず北に歩いてみる。


 ちなみにこの羅針盤、本当の意味で羅針盤の意味を成していない。


 この羅針盤は当然のごとくリシャットの魔法がかかっていて『使用者のいきたい場所を指し示す』というものだった。


 だから今、北に向かって歩いているわけではなく、人のいる場所に向かって最短距離で進めていることに気付かない伊東。本当に運がいい。


 これをお遊びで作ったリシャットもリシャットだが、今回はこれが良かった。


「煙や!」


 白い煙が見える。どうみても山火事などではなく民家から上がるものだ。


 やっと人にあえるとホッとする。少し進むと街道も見えた。街道とはいっても人の足で踏み固められた自然の道だが。


 しばらく進むと看板が見えた。だが、


「なんや、これ…………」


 ぐちゃぐちゃっと適当に書きなぐったようにしか見えない。恐らくこれは文字なのだろう。


 読めない。つまりそれは言葉も通じない可能性が高い。


 リシャットに異世界の話を聞いたことのある伊東はよく知っていた。言葉と文字がなぜか通じる、は創作物の世界なのだと。


 だが、伊東にはリシャットの文明力がついている。元々は美織のために作られた翻訳指輪があるのだ。


 もう本当に何でもありである。


「まさに至れり尽くせりやなぁ」


 青い宝石のついた指輪をつけながら、ため息とも呆れともとれる息を漏らす。


 そして、村っぽいところについた。なぜ村っぽいと言ったのか、それは………


「こりゃぁ、酷いな………まだ壊れたばっかやん」


 数日前くらいに滅んだと思われる村だったからだ。民家は全て倒壊し、石畳は場所によっては足がはまりそうなほど陥没している。


 壁が崩れている民家に入ってみると、スープらしきものが入った鍋があった。まだ腐っていないところをみるとこの状態になったのは本当に最近だろう。


 ここには人がいないか。そう思い村から出ようとすると、羅針盤がピタリと動きを止めた。


 揺れなければ羅針盤ではない、という言葉もあるくらいの物のはずなのにある一点だけを指し示したまま、動く気配がない。


「なんや………?」


 動きそうにない羅針盤を壊れたかと思い、振ったりしてみるが、針はピタリと静止している。


 リシャットの作った羅針盤だ。何かあるに違いない。そう思いながら羅針盤の通りに道を進んでみる。


 進んでみるとある倒壊した民家の中を指していたことがわかった。


「なんや、あるんか?」


 燃えて炭化している木を退かしてみると、


「人の手⁉」


 手が出てきた。触ってみると、暖かい。リシャットより少し小さいくらいの手なので子供だろう。


「大丈夫か⁉ 今助けるで、もうちょいの辛抱や‼」


 身体強化をリシャットから習っておいて良かったとこれほどまでに思ったことはない。


 特に苦労せずに助け出せた。


 だが、かなり衰弱している。幸いにして怪我は掠り傷が目立つくらいでそれほど大きなものはなさそうだったが、このままでは危ない。


 リシャットの鞄を漁ると、緑色の液体の入った試験管が出てきた。若干光っているところをみると物凄く怪しい。


「リシャットさん、何作ってんやろ………」


 恐ろしいものを見てしまったような、遠い目をする。


 だが、試験管に貼ってある紙には『傷、体力回復用ポーション』とデカデカと書かれている。


 まさか、これを飲むのか⁉ リストを見てみると、ポーションの使い方まで書かれていた。


「えっと、傷の場合は患部にかける。衰弱や体力回復には直接飲む………まじかいな」


 悩んでいる暇はなさそうだが、あからさまに危なそうなそれを子供に飲ませるのも気が引けた。


「ぅ、うう……」


 苦しそうな声を出す子供を前に、覚悟を決めて試験管からそれを飲ませる。


 すると、傷が徐々に薄くなり完全に見えなくなった。それと同時に苦しげな息遣いも徐々におさまり、少し痩せた子供くらいの印象になった。


「よかったぁ………それにしても効き目ヤバすぎやろ。流石はリシャットさんやわ。無断でつこうてまったけど」


 これぐらいなら許してもらえるだろうと思ったところで子供が目を覚ました。


「っ、ここは……?」

「お、ちゃんと言葉わかんのな。大丈夫か? 腹減っとらんか?」


 惣菜パンを差し出しながら聞くと、可愛い腹の虫が空腹を訴える。


「おーおー、これ食べて元気出しい。ほんま大変やったな」

「あ、ありがとう………」


 受け取った焼きそばパンをかじり、その美味しさに目を丸くする。


「こんなにちゃんとしたもの食べたの久しぶり………」

「そうなん? 一杯あるから遠慮せえへんと腹一杯食うてな」


 瞬く間に焼きそばパンとメロンパンとジャムパンを平らげた子供にも驚きだがそれだけ種類豊富なリシャットの鞄、一体どうなってるんだと問いたい。


「何があったか、教えてくれへん?」

「戦い、だから。国の為に村は死んだの」

「国の為に、か……」

「うん。ずっと昔からそうなんだって。だからこの国が勝つんだって」


 勝てるものならとっくの昔に勝てているだろう。伊東は戦争がない時代に生まれているからかあまり実感はないが、この子供のような子が沢山いるのは何となくわかる。


 きっと教育の一貫でこういうことも国のためだと教え込まれているのだろう。


「………そうかいな。お父さんとお母さんは?」

「死んだの。兄弟もいない」

「………じゃあ、人がいるとこに一緒にいこか?」

「うん」

「せや、名前は?」

「まだ、無いの」

「ない?」

「大人じゃないから」


 そう言えばリシャットのいた異世界とやらも最初は名前がないって言ってたな、と思いだし。


「じゃあ今あだ名決めよか。なにがええ?」

「おじさん決めて」

「お、おじ………まぁ、ええか。じゃあ……エンってどや? 炎とも書くんやけど」

「わかった」


 一体どこから来た名前なのか。実はリストの一番上に載っていた火炎放射器が頭から離れてくれなかったからである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ