「死んでもなんとかする。安心しろ」
大量のコンビニの袋をガサガサと言わせながら金髪青目の異様なまでに顔が整った子供が歩いていくのはかなり目立っていた。
道路沿いに歩いてくのは面倒だったので公園を突っ切っているのだが、それが余計に人の目を集めてしまっている。
本人はどこ吹く風で欠伸などをしながらのんびり歩いているのだが、そんな何気無い行動一つとっても隙がない足運びだ。
【買いすぎでは?】
(かもな。まぁ、直ぐ無くなりそうだけど)
『あの早さで消費されていては直ぐに切れますよね………』
コンビニ袋に入っているのは大量のスポーツドリンクである。勿論こんな大量にリシャットが飲むはずもない。まず一本でギブアップするだろう。
あり得ないほどに食が細いリシャットである。飲み物でさえ腹に入らない。
左手に5袋、右手に1袋持ち、悠々と休日の公園のど真ん中を突っ切るリシャットは汗一つかいていない首を回して目を細める。
「今凄い転移が使いたいと思ってしまった………」
『こんな場所でですか⁉』
「いや、だから思っただけだって」
注目の的、では済まないだろう。真昼間の公園で幽霊騒ぎがおきること請け合いだ。
というか、既に注目の的である。
リシャットは音もなく体育館に侵入する。
「おい。買ってき――――」
「「「ぎやぁあああああ⁉」」」
「俺だっての」
飛び上がるほど驚く大人達に呆れた目を向けるリシャット。
「あ、ああ……リシャットさんか………よかった」
「良かったって……お前ら緊張しすぎだろ」
「いや、だって」
「ただの試験だ。気楽に行け」
「それに生き死に関わってますよね⁉」
「否定はしない」
「「「………………」」」
明らかに沈んでいる空気の中、天然記念物が能天気にその沈んだ空気の理由を話す。
「別に亜人戦闘機と戦ったところで死にゃしないだろう。危なかったら止めるし」
「死ぬんです! 普通は死ぬんです! 分かりますか、この気持ち⁉」
「両親殺されてるからわからんでもないが、力があるやつがビビってどうする」
さらっと前半に自身のトラウマを突っ込んで自虐的な発言をしたリシャットだが、その雰囲気は気負っているようには見えなかった。
「死んでもなんとかする。安心しろ」
「「「全然安心できないっ!」」」
あっけらかんとそう告げるリシャットに全員が抗議の声を上げたが、リシャットがそれに気付く筈もない。
全員二年間でそれは熟知している。リシャットに同情作戦は通用しないと。寧ろ下手に同情を誘おうとするとそれ以上の重々しい過去を静かに打ち明けられるのでメンタルが削られる。
よって、全員がリシャットの過去を知っていた。
経験を積んだ人で、自分よりも年上だとは理解しているのだが見た目が10才の子供である。その子供が暗い話を真顔で淡々と話すのだ。
しかも無駄なまでに顔が整ってしまっているので人形と話しているようで余計に怖い。
それが自嘲的な笑みをたまに見せたりするので恐怖倍増である。下手なお化け屋敷など歯牙にかけない恐ろしさだ。
「無理やぁ………めっちゃ怖いんやけど………」
『頑張れ』
「励ましとんのか、それは」
『どうだろうな…………ん、来たぞ。後方に三機。一型が一機と三型が二機』
「了解や」
大袈裟にため息をはいて全員に向かって声をだす。
「後方から一型が一機と三型が二機やそうやで。気弾の準備もしといてや」
関西弁なのでいまいち緊迫感が伝わらないが、全員の表情は引き締まり、持つ武器にはじっとりと汗がついてしまっている。
皆物陰に隠れてアイコンタクトで了承の意を示し、目を見開いて奥歯を噛みしめ、敵が見えるところまで引き付ける。
「今やっ」
魔獣が目に入った瞬間、清水と伊東ペアが斬りかかる。武器は以前使った両刃槍と短剣、盾になる籠手である。
完全に油断していた魔獣は体勢の整わないまま相対することとなった。だが、そこで崩されるほど甘くない。
籠手を一瞬でカイトシールドに変化させた清水が前に出て、出てきた爪を受け流す。すると降り下ろしたばかりの腕の付け根が丸く貫通した。
「ギシャアアアア!」
絶叫する魔獣の傍からバックステップで離れながら清水と伊東がハイタッチを交わす。カイトシールドで気を逸らさせ、降り下ろした直後の隙に貫通型の気弾を伊東が撃ったのだ。
元々は破壊型の気弾を使う予定だったのだが、思ったよりも魔獣の動きが早く、清水を巻き込む危険性があったからである。
貫通型は一ヶ所にしか効果はないが、今回の場合だと腕一本は潰せたので結果オーライだ。
「よっ」
二人はそのまま体を反転させ、道の脇に逸れる。その瞬間に一型の眉間に破壊型の気弾が撃ち込まれた。
リシャットが叩き込むように教えた気弾である。ただの威力など、許すはずがない。
その気弾は周りの三型を巻き込みながら爆発、一型を壊しきり、三型一機を戦闘不能に追い込んだ。
「まだまだ!」
もう一機が元気だと見や否や清水達の後ろに控えていた日比野と八乙女が同時に斬りかかる。
「キシャアアア!」
両腕でガッチリとその攻撃を止めようとした亜人戦闘機。だが、その武器に直接触るのは不味かった。
豆腐でも斬るかのようにスパン、と抵抗なく両前足が切り落とされる。
「「すっげえええええ!」」
切った本人が一番驚いていたが。
「油断は禁物やで!」
「ちょっと惜しかったね」
自分の持っている武器に気をとられていた二人の前に清水と伊東が立ち塞がる。カイトシールドを展開しているところを見ると攻撃を仕掛けられていたらしい。
「すまん‼」
「反省は後や、とりあえず倒すで」
そう言われて四人はリシャットに教えられた通りの動きをする。
からだの軸を確りと持ち、体重移動でどれだけの攻撃を仕掛けられるか、攻撃を受けたとき、どこに避けるのか。
一人の人に教えてもらっているからこそ、全員の動きがシンクロする。
一撃離脱を主として教えていたリシャット。それは、多人数で同時に戦うときのためだった。わざわざ一人で戦うために一撃離脱をする意味はそうない。
一人一人はそうたいしたことはない。だが、一人、二人、三人と数を増やすことでその攻撃力は飛躍的に伸びていく。
「せーのっ!」
傷だらけになった魔獣を蹴飛ばしてひっくり返す。身体強化がかけられている今だからこそ出来る芸当だが、普段の筋力でやったら寧ろ足の方がへし折れる。
天地が逆さまになったように見えているであろう魔獣に渾身の一撃を叩き込んだ。
伊東の槍が深々と突き刺さり、その下のアスファルトを貫通したところで戦闘が終わった。
結果は、伊東率いる教師達の圧勝だった。
「「「ぃよっしゃぁああああ!」」」
リシャットの張った防音結界の中でのみ、その歓喜の声は響き渡った。




