「俺はいつまで経っても大人にはなれない」
「落ちこぼれが近付くなよ! 馬鹿が移るだろ!」
「この前のテストもギリギリだったらしいしな」
ニヤニヤと嫌悪感を感じる憎たらしい笑みを浮かべる所謂『いじめっこ』はまだうまく扱えない気弾を作って前につき出す。
「どーだ! こんなにデッカイのお前に作れるか⁉」
かなり荒い気弾だが、拳二つ分ほどある。当たれば火傷はするだろう。
「悔しかったらお前も作ってみろよ、ホラッ‼」
鈍い音をたてて左腕の付近で爆発、顔をしかめるのを見て更に気を良くしたらしい。
「じゃあ、もう一回やって―――」
「おい、先生来るぞ‼」
「なっ⁉ 逃げるぞ‼」
バタバタと去っていく子供達を座り込んだまま見送り、
「お前のそれは癖なのか?」
物陰に目を向けて大袈裟にため息をつく。
「もうそろそろアカンやろ。怪我人出るわ」
「俺という怪我人は出ているが逆に今は俺だけに集中している。ならこっちの方がいいだろう」
ネックスプリングでその場から飛び起きてコキコキと首をならすリシャット。口の端から血が垂れた。
「ちょ、血ぃ出てんで⁉」
「あ? ああ、そうだな。さっき口の中切ったからな」
「もう、ほんまに先生に言わんか? このまま苛めが止まらへんかったら」
「いいんだよこれで。さっさと行くぞ」
体に浄化と回復をかけ、証拠を全て隠滅してから格技場に向かうリシャットに伊東が納得行かない顔で、
「せやけど………お前さん、それでええんか?」
「………なにがだ」
「このままじゃ、学校来てる意味ないで?」
「なんだ、お前にとって学校は遊ぶ場所なのか」
「せや。昔はそう思わへんかったけど、年くって気付いたわ」
リシャットの方が精神年齢的には年上なのだ。それに気づけないはずはない、と思ったのかそう言う伊東。
リシャットは口を一回閉ざし、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「………確かに、俺はお前より生きた年数は上だ。だが………全部そんなことを気付く前に死んでいる。だから、学校のありがたみがよくわからない」
リシャットの生きた年数は70年近いが、そのたった70年の間に3回も死を経験している。
やっと学校という枠組みから出られたと思った矢先にすぐ死んで生まれ変わってを繰り返しているのだ。
大人がよく言う「子供の頃に戻りたいな」という言葉の意味がいまだに理解できないのだ。
「俺はいつまで経っても大人にはなれない」
どれだけ大人びていようが周りの目は厳しいものだ。事情を知っている人ならまだしも、知らない人からしたらませてる子供なのだ。
本当の意味で大人扱いされたことなど、70年も経っているのに数えるほどしかない。
その事をただ淡々と連絡事項のように述べ、口を閉ざした。
「………やっぱりネックは気弾だな」
扇子をパチリと閉じながらそう言うリシャット。扇子を使っている理由は、壊れやすいから。
普通に考えたら意味がわからないのだが、リシャットの攻撃はたとえ突っついただけでも下手したら脱臼させるほどの威力が出る。
寧ろ優しく取り扱える物でないと訓練を受けている方が大ケガをしてしまうだろう。
とはいってもその扇子もメイドインリシャット。気力や魔力が通りやすいように加工してあり、使いようによっては相当な武器になるという魔改造がしてある。
勿論それを伝えると皆不安がるのでどこにでも売ってあるやつをちょっと使いやすいようにしてるだけ、という半分本当で半分嘘の事実を伝えてある。
リシャットはその扇子の先端に気弾を一つ作る。だが、それは普通のものとは違う点があった。
「色が普通のより青い……?」
「見てろ」
ヒュン、とある場所にそれを飛ばす。もし気弾で火傷をしたとき、冷やすために水を溜めてあるバケツの中に入っていった。
「え?」
「なにも起こらない………?」
「いや、なかを見てみろ」
リシャットに言われた通り、バケツを持ち上げてみてみる。
「ん?」
「凍ってる………」
ガチガチに凍っていた。触ってみるとかなり冷たく、周りから冷気が漏れているようにさえ感じる。
「これは気弾の応用。俺はバリエーションって呼んでるが、色々種類がある。火、氷、電気とか。攻撃力のないものだったら光、治癒とか」
「魔法みたいやな」
「んー、魔力消費はないが、そんなものだと考えてくれればいい。因みに俺のこれは土と氷、電気を合わせて作ってる」
手の中にクリスタルの小刀が出現した。
「それ、私たちも出来る?」
「無理だと思う。やってもいいけど多分寿命削られるよ」
「あ、ケッコウデース…………」
さらっとかなり大変な事を告げたリシャットは小刀を握り潰して壊し、
「気弾の練習、しようか」
「「「はーい………」」」
何度見ても、勿体無いとしか思えない光景である。売ったらいくらになるんだろうとか考えるだけ虚しくなってくる。
「もっと纏めて。雑すぎ」
「これ以上どうやって方向変えずに纏めるんですか」
「気合いだ」
「気合い⁉」
大分雑なリシャットの言葉だが、教えるのが面倒くさくなったわけではない。実際に気力は心の持ちようで性質は常に変化する。
どうしたいと強く願えば、体が勝手にそれを実行してくれる。
「気合いでどうにかなるもんなんですか」
「なるんじゃないか? 俺も昔はそうやってたし」
「へぇ………」
「それに一から教えるのも面倒だし………」
「今なんて言いました⁉」
面倒という気持ちも少なからずあったようである。
しれっとした表情で扇子を扇ぐリシャット。撤回する気もないようだ。
「もういいですよ。やりますよ、もう………」
「ふぁいとー」
「絶対に応援してませんよね⁉」
滅茶苦茶適当なリシャットにツッコミをいれつつ、各々が気弾を少しずつ、自分なりにアレンジしていく。
リシャットはそれを見て、
「もう少し体力の比率を上げてみろ。ああ、そうだ。そのままキープな」
「キツいんやけど………」
「だろうな。………撃ってみろ、威力は上がってるはずだ」
言われた通り、的に向かって気弾を撃ち出す。派手な音を立てながら的が粉々になって宙を舞う。
「「「………………」」」
後ろを向いて気弾作りに励んでいた人まで、全員が的の方を見て固まった。
「まぁ、及第点かな」
「なんか物凄い飛んでったんやけど」
「そりゃあな。体力と精神力が主に使われている気力は、その比率を弄ってやればいくらでも応用が可能だ。今のやつには貫通より破壊をメインにした比率を使ってみたんだ」
リシャットは両手に一つずつ、見た目は全く同じの気弾を生成する。
「右手のが貫通型、左手のが破壊型だ。どうなるか見てろ」
両手を同時に突き出し、ほぼ同じスピード、同じタイミングで気弾が撃ち出される。
すると、左手の方の気弾は的を粉微塵にまで粉砕しており、右手の方の気弾はど真ん中がぽっかりと開いた的を作り出すことになった。
「こういうことだな。貫通型は周囲に一切影響を出さないし、射程範囲も広い。その代わり、攻撃力は少し破壊型より落ちるし連射でもしない限り多対一の戦闘には向かないな」
最早サラサラした木屑になっている的の方を見て、
「破壊型はあんな風に物を内側と外側から壊すことが出来る上、周囲への威力も割りとある。射程範囲は広くはないし仲間がいたら使いどころが難しい気弾だが、広範囲に攻撃できる点では使いやすいな」
リシャットの場合、専ら破壊型を使っている。フレンドリファイアを気にしなくていいというか、仲間がいないので遠慮なくぶっぱなせるのだ。
「最低でも今週中にはこのふたつを作れるようになってもらうからそのつもりでな」
「「「え゛」」」
今週ってあと何時間だっけ、と考え始める教師達。最早時間数で考えているのは何時間寝られるか計算しているからである。
【不憫ですね………】
『流石に少し同情してしまいました』
(? なんか言ったか?)
『いえ、なにも』
【なにも】
この二人が黙ってしまうのでリシャットもこのハイペース訓練の過酷さに気付けないのである。
リシャットからしてみれば、普通の練習量なので。




