「え? あ、はい。爆発する数分前に」
「それで、お話とは?」
「今回の爆発事故の話です」
話を進ませながら警察だと名乗った男達を観察する。
(半分以上気力持ちか……確実にバレてるな、これは)
観察を終えて話に集中する。
「………率直に、簡潔に話していただいても構いませんよ。私はそれほど理解力に優れているとは言えないので」
「それはないでしょ⁉」
「お嬢様は少しお静かにお願いします」
突っ込まれたが鮮やかに回避するリシャット。
「では、聞きますが。貴方は気力持ちですか?」
「…………さぁ、どうでしょうか?」
「それは、どういう意味で?」
「貴方達は見て判断出来ませんか?」
その言葉を理解できていない様子の男達に小さくため息を吐く。
「ふぅ………まさかここまでとは」
「は?」
「気力持ちかどうかくらい、見てわかりませんか?」
「何を言ってるんだ? そんなことができるのは相当力を持っている人じゃないと無理だろう」
そうだそうだ、と周りが同意しているところをみると本気で言っているらしい。
「これは………鍛え直さないと死者が出るな…………」
誰にも聞こえない声量で頭を抱えるように呟く。
目や耳のみに身体強化をかけるのは基本中の基本だ。リシャットなど回復していない今は集中しないと見えないが普段から強化をかけ続けている状態なのでいつでも見ることができる。
「………あー、もう………。そうですよ。気力持ちですよ」
その言葉に美織と大地がぎょっとする。
「「そうだったの⁉」」
「……寧ろなんで気づかないんだろう、くらいには思ってました」
「「ええええ」」
欄丸は大分前から知っているので何が? といったような顔である。
「どうやったらあんなことができる?」
「………どれだけ練習しても貴方達には無理ですよ?」
「なんでそれを言い切れる?」
「簡単な話です。私と貴方達には意思の重みが違う。それだけです」
わざと分かりにくい言葉を使って言うリシャットに美織が、
「どういうこと?」
「…………あれは、寿命を使ってやっている。ってだけです」
その言葉に周囲が一気にざわつき始める。
「寿命をって………」
「だから言ったでしょう? 重みが違うと。貴方達は自分の命を本気で賭けてまでやろうと思いますか?」
そんな馬鹿な、と一笑したい所だがやった本人が一週間も寝込んでいたのでそうとも言い切れない。しかもあの時欄丸がライレンに教わった適切な処置をしなければ死んでいたかもしれない。
「君の目的はなんだ」
「…………目的?」
小さく口のなかで呟き、呆れたような笑っているような口調で、
「私が死ぬか、やつらが消えるか。とでも申せば宜しいでしょうか?」
目が一瞬、赤く光ったように見えた。
「「「……………っ!」」」
全員、言葉が詰まったように声を出せなかった。ただただ沈黙の時間が続く。
それを破ったのは意外にも欄丸だった。
「何故、そんなことを今言うのだ」
「………この状況から逃げ出せないと思ったから。これが下手にバレたら俺の居場所は無くなるだろうけど、あの時それは覚悟したから」
透き通るような青い目をまっすぐに向けて射抜くような声でそう言う。ロシア語なので誰も理解はしていない。
「貴様はそれでいいのか」
「さぁな。ヨシフさん達のところから去ったのも良い判断とは言えなかったかもしれないし、それは今更だと思うが?」
「ハッキリしろ。言葉にしないとわからない」
「なんで言葉にする必要がある? ………お前と俺は結局は他人なんだぞ?」
喉の奥から絞り出すような声でそういったリシャット。無理をしているのが伝わってくるような言葉だった。
実際、欄丸のことを他人だとは思っていない。手のかかる弟のように思っている。だからこそ、自分の事に巻き込ませたくなったから突き放すような言い方になってしまったのだ。
普段天然で言ってはいけない時に正直に言ってしまうリシャットも素直にそう言えない時があるのだ。
「我は貴様についていくことを決めたのだ。貴様が何をしようとしているのか位は知る権利があると思うが」
「………成る程な」
少し目を閉じて考えを纏めるリシャット。これはいつもの癖なので欄丸もなにも言わずリシャットが目を開けるまで待つ。
「……………いいだろう。俺のことを話す。こっちにこい」
クイクイ、と手を動かして欄丸を真横に立たせる。
「額を向けろ。………少し痛いかもしれないが」
「は? ギャッ―――⁉」
バチッと一瞬スパークが起き、痛みに欄丸が悶絶する。
「どうだ」
「何をする⁉」
「言葉、解ってるか?」
「? どういうことだ」
「今日本語で話してるんだけど、伝わってるか?」
「…………!」
こくこく、と額を押さえながら頷く欄丸。
「さっき何をしたの」
「それは恐らくもうすぐ解ります」
美織に聞かれたがさらっと流すリシャット。
「さて、欄丸も一時的に日本語を解釈できるようになったわけですし…………私のことをお話ししましょうか」
もうこの際全部話してやる、と白亜だった頃の話とそこから二度目の人生だということを告げた。シュリアの話は必要なさそうだったのでカットした。
いろんなところを大雑把に端折りまくって大分短くした話だったが、三回分の人生体験である。物凄い時間がかかった。
「………自分は以前揮卿台白亜だったと………そう言うんですか?」
「ええ。そうですが」
さも当然だとでもいうような雰囲気だ。勿論神とかそういう話が面倒そうな事は言っていない。
精々が魔法がある世界にいた、といった具合である。端折り過ぎのような気もするが伸ばすとキリがなくなるので。
「でも、リシャット前に揮卿台白亜と縁があるって」
「縁ですよ? 自分だったってだけで」
「なんか納得いかない………。あ、だから揮卿台白亜のこと嫌いって」
「そういうことです。私は………自分が好きになれませんので」
若干目を伏せながら小さくため息を吐く。
「これで私の隠していることは大体は話しましたが?」
「大体って」
「三回分の人生ですよ? 端折ってないととんでもなく時間かかりますけど」
「ああ、そういうこと……」
気をとりなおして、改めて気力持ちの一人が口を開く。
「…………では、リシャットさん。貴方には二つの選択肢があります。能力を消して普通の生活に戻るか、魔獣の対策を手伝ってもらうか。この場合、原則として学校に入ってもらうことになります」
これも、予想できていた言葉だったので返答は用意していないわけではない。が、
「…………正直に言いますと、絶対に前者は選べません」
「能力が惜しいからですか?」
「いえ。この力、長年使いすぎて消すと多分私も死にます」
「「「⁉」」」
今回瓦礫を止めたときに倒れたのが良い例である。リシャットは無意識に気力を生命維持に使っているので消した途端大惨事だろう。
「それに………消す方法、私には適応されない作りになってますので」
「なんでそんなこと知ってるんですか」
「? その仕組み作ったの私ですし」
そういやこいつ白亜だったな。と全員が一瞬忘れかけていた。転生だとか魔法だとかで完全に頭から抜け落ちていた。
「となると我々に協力してもらうしかないんですが」
「それは………仕事に影響のない範囲ならば構いません。今でもたまにやってることですし」
「え? いつ?」
「夜中ですが? 大体……2時~4時前くらいに」
「え?」
美織がポカンと口を開けたままリシャットを見る。
「じゃあ……あの魔獣を人知れず倒してく人って」
「………私ですよ」
「………………」
「本当にごめんなさい………あそこまでお嬢様が嬉しそうに話されているのを見ると………言い出せなく………」
もう、美織に言葉は届いていない。まさしく放心状態の美織に申し訳なさそうに頭を下げるリシャット。多分聞こえていない。
「……旦那様。このようなことになってしまい、本当に申し訳ありません。あれしきの爆発を事前に食い止めることができなかった私の未熟さが原因でこんなことに………」
「あれしきの爆発って………? ? あれ? リシャット君、爆弾があるって気付いてたの?」
「え? あ、はい。爆発する数分前に」
割りとあっさりそう告げるリシャット。
「じゃあなんでそれを周囲に言わなかったの?」
「言ってどうにかなるものでもないと思いましたし、寧ろ周囲を混乱させるだけか私が狂ったとしか思われないだろうと」
色々考えた上でああなったのである。
「事前に食い止める方法はあったの?」
「はい。ですがどれも残っている力が足りませんでした。異空間に飛ばすとか時間を遡らせるとか上空に瞬間移動させるとか。隠密性に長けた魔法ほど力を使いますので」
そこまで考えていたのか、と全員の口が開いたまま閉じなくなっていた。
しかもこの光景、なんと本日8度目である。




