「目的がないのに来ていると?」
「ねぇ、リシャット」
「はい」
「魔法見せて‼」
「今ですか」
この状況で? と全員が思ったが、実際に見てみたい気持ちもあるので美織の言葉を肯定するように皆頷く。
「そうですね…………被害をもたらさない物だと………」
少し目を閉じてから高速で詠唱を開始する。ただ、この世界の言葉ではない為に誰もその言葉を理解はできない。
パチン、とリシャットが指をならすと全員の体がふわりと浮き上がった。
「「「おおっ⁉」」」
「この辺りの空間を無重力にしました。水とかが浮くと危険なので人限定で」
なんとも言えぬ感覚に全員が驚いていると、これでいいか、といったようにリシャットが魔法を解除する。ドスン、と尻から落下するハメになった人もちらほらいた。
「こんな感じですね。魔力さえあれば今のやつを広範囲でかけることも可能ですが、今やると枯渇するので」
コキコキ、と首をならしつつそう言うリシャット。
「というか、私の言うこと信じるんですね? 戯れ言だと一笑されても仕方ないと思っていたのですが」
「相変わらず難しい言葉使うね………いや、なんとなく君のこと子供だとは思ってないしこんな風に魔法? も見せてもらったしね」
リシャットの呟きに大地が苦笑いをしながら答える。
「そうですか」
納得できるような言い方だったのでリシャットもそれ以上は追求しなかった。
「えっと………リシャットさん。貴方はどうするつもりですか?」
「どうって………拒否権は無いのでしょう? 私は今話したことや力のことを他言しないというのと旦那様やお嬢様の生活の妨げになるようなことがないのなら構いません」
要は、今の話を誰にもいうな、というのと今の生活を美織と大地だけでいいから最低限守らせろ、という事だ。
今の生活を守る、というのは屋敷の管理、警備の話だ。つまりこのまま執事として働かせるのが条件ということだ。
子供が働いて良いのか、という疑問は残るが、リシャットの場合働いた賃金が屋敷での滞在ということに繋がってくるので死活問題なのである。
それと、家の手伝いをする子供という立ち位置を貫いているので結果的にお咎めはない。
実際にちゃんと働いているのは欄丸なのでリシャットはそのおまけのようなものなのだ。本来は。
「最近、欄丸君もちゃんと仕事を理解してくれているし、美織の学校の時間、リシャット君も学校に行くってことで良いんじゃないかな?」
大地の何気ない発言だったがリシャットからすればこの人の発言は何よりも優先すべきこととなっているのでこれに乗っかることになった。
「本来、学生は原則として寮生活しなければならないのですが………特例でそれを免除します。また、授業は最低限で構いませんし、もし貴方の業務に差し支えがあれば一時的に抜けていただいても構いません」
「それは…………かなりの大盤振る舞いですね」
「貴方が本当に伝説の英雄なら、これぐらいのことはやらせていただきます。まぁ、疑うところなど何一つありませんが」
異常なまでの力に白亜だった頃の体験談、それと本人としか思えないほどそっくりな容姿。彼から見れば疑うところは一つもない。
一時的に抜ける、というのは魔獣退治を一旦やめるということだ。
強制ではない、と暗にいっている。
「それでは後日改めてお伺いします。それでは」
一礼して去っていった。因みに、この日に録音した筈のボイスレコーダーは片っ端から壊れ、通信器具も一時的に全く通じなくなり、リシャットの過去を少しでも口走りそうになった人には天罰という名の静電気の嵐が押し寄せるようになったとか、なんとか。
「リシャット」
「………ん?」
「あれで良かったのか」
「そうだな。でも、これから先警察の力が必要になってくるのは確かなんだ」
美織が喉が乾いたと言って大地と飲み物を買いに行くために退出した扉を見ながら小さくため息を吐く。
「それに、あんなやつらに手こずってたら本当にヤバイやつらに対応できなくなる」
「ヤバイやつら?」
「お前には言っておこうか………魔獣は捨て駒扱いのものだ」
「捨て駒?」
「ああ。これからもっと先……これまでとは想像もつかないようなやつらと戦わなければならない」
カサカサ、と美織がお見舞いだと言って持ってきた袋を開けると小さな立体のブロックパズルが出てきた。
それを適当に組み立てながら目を瞑る。
「俺は………やつらを倒しているうちに気付いたんだ。あいつらは何らかの目的があってこっちに来ているだけじゃないってことを」
「目的がないのに来ていると?」
「そういうことじゃない………いや、そうなのか? ………あいつらはどうやら時間稼ぎをしているみたいだ」
目を開いて完成したパズルを机の上に置く。瞑ったまま手先の感覚だけでパズルを組み立てていたらしい。しかも話しながら。
「何故?」
「さぁ? あいつら口を割らないからな。ただ、どうやら俺を生きたまま連れていきたいらしい」
「どういうことだ?」
「憶測でしかないんだけど………」
頭を掻きながら困ったような顔をして、
「あいつらは気力をエネルギーに変換できる技術を身に付けたんじゃないかなって思う」
「よくわからん」
「うん。わからないと思う」
お前には難しい。と笑うリシャットを頬を少し膨らませながら睨む欄丸。
「簡単に言えば………もしかしたらあいつらは気力を克服できるかもしれないってこと。そうでなくとも利用する方法はもう見つかっているのかもしれないな」
窓の外を見ながら厳しい視線を外に送った。
「それと、我のことは言わなくても良かったのか?」
リシャットは欄丸のことを日本に来る前に一緒に過ごした兄弟のようなもの、としか伝えていない。戦いとは無関係ということをひたすらに強調していた。
「言ったらお前も戦うことになるだろ。お前はやることがあるんだからそれをこなしてもらわないと困る」
ポン、と小さな手を欄丸の頭の上に乗せて、お前は気にしなくて良い、と呟く。
「………別に我は構わないぞ」
「ダーメ。どちらにせよ俺がいない間の屋敷の警備はお前が頼りなんだ。少しでも戦える人材は必要だろ」
「そんなにあそこに人が来るとは思えないが」
「まぁ、俺が追い払ってるしな………」
警戒しすぎでは? と思う欄丸。
「俺の前世は………それはそれは殺伐としていてな。道を歩くだけで絡まれたり人攫いに目をつけられたりするんだよ」
人攫いに目をつけられるのはリシャットの容姿が問題なのだが。
「だからなのかわからないけど、俺の仲間は酷く過保護でな。一人で外を出歩くってのがあんまり許されなかったんだ」
過保護なのは誘拐された先で誘拐されるなどとんでもないことを立て続けに起こしているトラブルホイホイだからなのだが、本人が気づいていないのがまたたちが悪い。
「俺はあっちの世界でも強い部類には入ってたと思うけど仲間としては心配だったんだろうな、皆」
照れるように笑う。
「だからさ、俺が出来ないことをお前がやってくれ。俺の体は一つしかない。何個も同時にこなせるほど器用じゃない。だからお前が俺の居場所を守ってくれ」
『ちょっと恥ずかしい台詞ですね』
「シアンっ⁉ いつから聞いてた⁉」
『そうですね。重力魔法使った辺りから』
「大分前だな、それ………」
ライレンを美織達の方につけたので邪魔はいないかと思っていたのにシアンの事が完全に頭から抜け落ちていたリシャットである。




