「あの、静かにしてくださいね?」
ずるずると重たい体を引き摺るようにしながら歩いていく。
【肩、かしましょうか】
「他の人は見えないのに………不自然過ぎるだろ」
髪や目の色は先程戻したが魔力があまりにも少ないので少しも気を抜くことができない。
『マスター………。本当に一度休まれた方が』
「大丈夫………だ。欄丸に………任せてられないから、な」
顔色が真っ青で今にも倒れてしまいそうなのだが、無理矢理に足を動かしてなんとか進んでいく。
「うっ………」
コンクリートが落ちたせいでヒビが入った道路に爪先が引っ掛り、前のめりに倒れる。倒れて初めて全身が痺れていたことに気が付いた。
力が入らない腕や足をなんとか持ち上げる。するとその腕が上に引っ張られた。
「リシャット」
「欄丸…………お嬢様と旦那様は………?」
「あっちにいる。これをやったのか?」
周りに落ちている大量の瓦礫を見ながら欄丸が唸るように言う。
「ああ………。そうだな………」
「魔力は」
「もう………ほとんどない、な………」
欄丸がリシャットの首もとに手をやり、目を見開く。
「冷たいぞ」
「……………」
「おい。リシャット?」
「……………」
リシャットからの返事はなかった。その代わりにゆっくりと小さな胸が上下する。
欄丸が来て安心したのか、限界だったのか。
欄丸はぐったりとして動かないリシャットをなるべく動かさないように抱き抱えて歩きだした。
「みー! みー!」
美織達の所まで連れていくとミュルがリシャットの頬に何度も爪を立てる。だが、それに全く反応しないリシャット。
「リシャット君………大丈夫なのか?」
ピタ、と首に手をやり、冷たいと呟く。
それを聞いたミュルがリシャットの首に襟巻きのように巻き付いて暖め始めた。
【少し………いや、かなり危険な状態かもしれません】
「危険………?」
【体温異常が起こるほど魔力を消費しているのは危険です】
「なぜだ」
【リシャットさんはこの世界の人間とは生きている方法が根本から違います。生命力や栄養は勿論、魔力や気力を生命維持に使っている】
ライレンがいつになく真剣な表情をして真っ青な顔のリシャットを見る。
【だから殆ど食べなくても生きていけるんです。ですが、それをここまで使ってしまっているとなると………その内魔力切れで死んでしまうかもしれません】
突然そんなことを言われても欄丸にどうにかする方法はない。
「じゃあ、どうすれば………」
【とりあえず暖めて休ませないといけません。体温低下が一番生命力を削りますから】
「ん………うぅ………ん?」
違和感を感じて目線だけを動かして周囲を観察する。
「………なんだこれ」
手元にあった紙を目の前に持ってくると、拙い字でメモ書きが残されていた。
“おきたら よべ”
欄丸か。と小さく呟いて紙を近くにあった机の上に乗せる。そこには携帯電話が置かれており、呼び出しボタンさえ押せばいつでも繋がる状態になっていた。
電源をつけ、呼び出しのアイコンを押そうとしたが躊躇った。
「………病院って勝手に電話して良かったっけ………?」
電波は通じているがかけてはいけなかった気がする。と首を捻る。たしか、かけて良いところがあった筈だ。と思い立った。
そこまで移動しようかと考えたが点滴や何らかの機材が繋がっており、外して良いものかと更に悩む。
ふと目を横にやるとナースコールが目に入った。
「あ、……………これか?」
特に用もないのに押してどうする。という気持ちと、さっさと欄丸に連絡入れたいという気持ちがあり、いっこうに良い案が思い付かない。
リシャットは本来は優柔不断な天然記念物なのだ。普段は周りがしっかりしてくれないのでリシャットが仕切るのだが。
悩みに悩んで、
「もう、いいや………」
なにもしないことに決めた。
そんなことより気になるのはあの爆発である。被害はリシャットが瓦礫を放り投げた一般道と崩れた高速道路だけで人的被害は出ていない………筈だ。
さすがに気絶してから先は覚えていない。
「そういや………ライレン、どこ行った」
いつもならこの辺にいるけどな、と呟きつつ辺りを見回すがライレンは見当たらない。シアンは魔力切れから回復して直後は会話できないのだ。
シアンの存在自体魔力でできているようなものなので、魔力切れが起こると一時的にシアンと会話ができなくなる。
どうしようか、とぼんやり外を見ていると人の気配がした。扉の方に目をやると看護師がそのタイミングで入ってきた。
「あ、起きたんだね。親御さん、心配してたよ?」
「………親御さん?」
「? ええ。お熱計りますねー」
良いとも嫌だとも言う前に脇に体温計を突っ込まれた。ヒヤリとした感触が伝わってきて一瞬体が縮こまる。中々強引な人のようだ。
暫くしてピピッという音がなり、体温計を取り出すと35度9分という平常値だったので特になにか言われることもなく。
そんなことをしていると数人の男と美織達が入ってきた。
「あー‼ 起きてるじゃない‼」
「リシャット‼ 起きたら呼べと書いたではないか‼」
美織と欄丸がそれぞれの言語でリシャットに向かって叫ぶようにそう言う。
「あの、静かにしてくださいね?」
「あ、すみません………」
「もうしわけない」
最近欄丸も簡単な日本語くらいならわかるようになってきた。美織が謝るのをみて、自分も謝罪しておく。
「リシャット君。体の調子は?」
「旦那様。お陰様で大分楽になりました」
「そうかい。いやー、美織が毎日様子を見ないとってここ数日ずっと煩くてね」
何日も、という言葉に反応するリシャット。
【リシャットさんがあれを何とかしてから一週間経ってますよ】
「……………」
そんなに寝てたのか、と頭を掻く。
実際に何度か意識は覚醒しかけていたのだが眠かったので直ぐに意識を手放すようにしていた。
あんなことをしてしまった手前、美織達から逃げていた所もある。
「ところで………後ろの方々は?」
リシャットは見覚えのない人達である。
「警察の者です。少々お話をさせていただきたいのですが」
やはり、と目を細めるリシャット。
(これは………逃げられないな)
内心で両手をあげて降参する。話を逸らすことも難しいだろうし、美織達がいるので下手な嘘は直ぐにバレる。
(とうとう、話すときが来たのかもしれないな………)
小さくため息をつくのだった。




