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安土饗応作戦 光秀 左近 ケロタンの遠眼鏡  作者: あっちゅ寝太郎


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第一章 4話◆大福帳と曇り空


外野の嫌がらせと信長の理不尽な圧力を、光秀の悪知恵と左近の勢い、ケロタンの珍妙な技でひっくり返す!


……だが、おもてなしが成功に近づくにつれ、光秀の瞳には異様な光が宿り始める。

「天下の行く末のため……上様、敢えて怒っていただきましょう」


光秀の胸に秘められた、あまりに切なく、壮大な深慮遠謀とは——?


歴史の結末が哀しいからこそ、今は思いきり笑い飛ばす!

史実のリアルと食文化の深掘りに、光秀の覚悟、そしてテンポ抜群の喜劇を掛け合わせた、命がけの過剰接待サイココメディ開幕!


第一章 4話◆大福帳と曇り空


梅雨入りを間近に控えた、

どんよりとした重い曇り空。


安土城の内政方を預かる

一室の空気は、

雨を孕んだ生暖かい風のせいで、

むっとした湿気が籠もっていた。


「……高すぎる。

いくら何でも、これは度が過ぎております」


まだ青さの残る面魂の若き官僚、

石田三成は、

机の上に広げられた大福帳の数字を

睨みつけながら、

忌々しげに声を尖らせた。


その背後では、

増田長盛と堀尾吉晴の二人が、

待ってましたとばかりに

薄汚い笑みを浮かべて控えている。


「そうでございますよ、石田様。

明智様は、宿老の立場をいいことに、

ちと台所仕事で私腹を肥やそうと

なされているのでは?」


増田のねちっこい囁きに、

三成の眉間のシワが

さらに深く刻まれた。



◆割烹着チーム、推参


そこへ、

障子を静かに開けて入ってきたのは、

すでに白い割烹着を

完璧に着こなした明智十兵衛光秀。


その後ろには、

はち切れんばかりの胸の炎を

赤割烹着に押し込めた島左近、

そして、

緑の割烹着をまとい、

頭の上に何食わぬ顔でお盆を載せた

毛呂仙之助——通称、けろたんが、

行儀よく控えていた。


「石田殿。

これは私腹を肥やすなどという

生易しいものではない。

織田家の威信を懸けた、

天下の大戦の軍資金にございます」


光秀は澄ました顔のまま、

冷徹な声で大福帳の前に歩み出た。


「軍資金、でございますか」


三成は鼻で小さく笑い、

細い指先で大福帳の一節を

激しく叩いた。


「これを見られよ。

銭の出処が、あまりに不透明。

川魚の仕入れにこれほど、

さらに京から寄せる茶葉の代金も、

通常の倍近い。

私の一筆がなければ、

この銭は一文たりとも動きませぬぞ」



◆くさや代の闇


三成の目が、

大福帳の最果てにある

一際奇妙な項目でぴたりと止まった。


「……十兵衛様。

この、一番端にある

『くさや代』

なる不審な銭の使途は、

一体何にございますか」


部屋の空気が、

一瞬でひんやりと張り詰めた。


「くさや……?

何だそれは。聞いたこともないぞ」

後ろで堀尾が首を傾げ、

増田と顔を見合わせる。


「家康公の饗応に、

絶対に必要な『秘中の秘』。

東国の果てより、

莫大な手間をかけて取り寄せる、

天下の奇味にございます」


光秀の嘘ひとつない大真面目な口上に、

三成は目を細めて疑いの視線を向けた。


「ただの干物に、これほどの銭を?

ふん、私には、

帳尻を合わせるための

架空の項目としか思えませぬな。

却下、にございます」



◆漏れ出るアチチ


「……却下、だと」


光秀の背後で、

それまで石のように黙っていた

島左近の眉が、

ピクリと撥ね上がった。


(この青二才が……

十兵衛様が頭を下げておられるのを、

いいことに……!)


左近の胸の奥の種火が、

アチチ、アチチと音を立てて

燃え上がり、

赤割烹着の隙間から

濃密な殺気が陽炎のように

メラメラと立ち上った。


部屋の隅の障子が、

物理的な圧風で

カタカタと微かに震え出す。


増田と堀尾が「ひぃっ」と

息を呑んで腰を浮かせ、

三成もまた、

左近の放つ凄まじい眼光に

一瞬だけ背筋を凍らせた。


だが、三成はさすがに

秀吉子飼いの経費番であった。


じっとりと額に汗を滲ませながらも、

大福帳をきつく抱え込み、

視線を逸らさずに言い放った。


「お、脅しても無駄にございます!

通せぬものは、通せぬ!

この石田三成の目が黒い内は、

一文たりとも、無駄金は許しませぬ!」



◆暗礁


光秀は、

そっと左近の肩を手で制した。

左近は悔しげに歯を噛み締め、

殺気を霧のように霧散させる。


その様子を見て、

増田と堀尾が再び

勝ち誇ったような笑みを取り戻した。


「明智様、お諦めくだされ。

石田様の算盤は、

そう簡単には狂いませぬよ。

クスクス……」


三成の頑なな拒絶により、

予算会議は完全に決裂。

過剰接待の計画は、

本番を前にして、

早くも巨大な壁にぶつかり、

暗礁に乗り上げかけた。


だが、光秀は、

去り際に三成の青白い顔を

じっと見つめ、

その唇の端を、

ほんのわずかに吊り上げた。


(……生真面目な男よ。

だが、その真面目さこそが、

お前の『隙』となる)


光秀の隣で、

頭にお盆を載せたままの

けろせんのすけ(けろたん)が、

大きな目をくりくりと動かし、

三成の机の上の「あるもの」を、

じっと見逃さずに観察していた。


「ケロリ。

これは、面白い夜になりそうだケロ」



(つづく)


後書き:筆者の想いに寄せて

なぜ島左近なのか。なぜケロヨンなのか。

それは、左近の持つ「武人の潔さ」と、ケロヨンの持つ「健やかな日常の象徴」が合わさった時、初めて信長の「死の気配」に対抗できると考えたからです。

店頭で雨の日も風の日も立ち続けるあのカエルのように、ケロヨンは安土の激動をケロリと見過ごし、左近は主君のために地獄の釜を焚き続ける。

この二人がいたからこそ、光秀は本能寺という「最後の配膳」まで走り抜けることができました。歴史という名の厳しい「処方箋」を、少しでも楽しく、そして美味しく書き換えたい。そんな願いを込めた主役抜擢でございました。

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