↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
安土饗応作戦 光秀 左近 ケロタンの遠眼鏡  作者: あっちゅ寝太郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
5/24

第一章 3話 後編 ◆毛呂仙之佑 渾名、けろたん。名乗る


外野の嫌がらせと信長の理不尽な圧力を、光秀の悪知恵と左近の勢い、ケロタンの珍妙な技でひっくり返す!


……だが、おもてなしが成功に近づくにつれ、光秀の瞳には異様な光が宿り始める。

「天下の行く末のため……上様、敢えて怒っていただきましょう」


光秀の胸に秘められた、あまりに切なく、壮大な深慮遠謀とは——?


歴史の結末が哀しいからこそ、今は思いきり笑い飛ばす!

史実のリアルと食文化の深掘りに、光秀の覚悟、そしてテンポ抜群の喜劇を掛け合わせた、命がけの過剰接待サイココメディ開幕!


第一章 3話 後編


◆毛呂仙之佑、名乗る


逆さまの男は、しばらく光秀と見つめ合っていた。


やがて器用に片手で天井板を支えたまま、にこりと笑う。


「驚かれませんでしたケロ。」


「驚く理由がない。」


光秀は淡々と答えた。


「鼠ではなく、人の気配だった。」


「さすがでございますケロ。」


男はするりと梁を伝い、猫よりも軽やかに畳へ舞い降りた。


音は、ほとんどしない。


歳は二十代半ばほど。


頭には蜘蛛の巣が一本。


鼻先には煤がつき、袖口には木屑が残っている。


どう見ても、天井裏暮らしが板についた男だった。


光秀は静かに問う。


「名は。」


「毛呂仙之佑。


皆様からはケロタンと呼ばれておりますケロ。」


「毛呂……。」


光秀が小さく頷く。


「その名は聞いたことがある。」


「本当でございますか。」


「いや、ない。」


「……ございませんでしたケロ。」


「うむ。」


「少し期待しましたケロ。」


光秀は表情を変えない。


「期待は身を滅ぼす。」


「名言でございますケロ。」


「違う。」


部屋に、妙な間が流れた。


◆値踏み


光秀は改めてケロタンを見据える。


「いつからそこにいた。」


「昼前からですケロ。」


「長いな。」


「天井裏は風通しが良く、退屈いたしません。」


「指し矢も見ていたか。」


「六周とも。」


「……。」


「大変面白うございましたケロ。」


光秀は静かに目を細める。


「何が面白かった。」


「皆様が『当たりたくない』お顔をされていたこと。


特に丹羽様は、途中から審判を忘れて応援しておられました。」


思い出したように、ケロタンは肩を震わせる。


「実に見事な六周でございました。」


「それ以上は申すな。」


光秀の声が一段低くなる。


ケロタンは、ぴたりと笑うのをやめた。


「殿。」


「何だ。」


「わたくし、口は軽そうに見えますが。」


一拍。


「案外、重うございますケロ。」


光秀は、その一言だけで十分だった。


◆思わぬ人材


光秀は文机へ戻り、筆を置いた。


「行く当てはあるか。」


「ございません。」


「主君は。」


「ございません。」


「飯は。」


「いただける時だけ。」


「寝床は。」


「天井裏ですケロ。」


「……なるほど。」


光秀は少し考えた。


「それでは働け。」


「はい?」


「余の饗応方へ来い。」


ケロタンは目を丸くした。


「よろしいので?」


「その代わり条件がある。」


「何でしょう。」


「今日見たことは忘れよ。」


「指し矢でございますか。」


「そうだ。」


「面白い話ほど話したくなるものですが……。」


「話せば命がない。」


「それは困りますケロ。」


少しだけ考え、


やがてケロタンは深く頭を下げた。


「承知いたしました。


天井裏の話は、天井裏へ置いてまいりますケロ。」


光秀は初めて、ほんのわずかに笑った。


「その言葉、忘れるな。」


◆新しい仲間


「今日より、お仕えいたします。」


ケロタンは畳へ両手をつき、


まるで蛙が跳ねる前のような格好で礼をした。


「明日から膳運びを覚えよ。」


「はいケロ。」


「まずは左近を紹介する。」


「あの赤い割烹着のお方ですね。」


「知っているのか。」


「殺気が割烹着から漏れておられましたケロ。」


光秀は思わず天井を見上げた。


「……そこまで見えるものか。」


「天井裏からは、世の中がよく見えますケロ。」


その時だった。


廊下から誰かの足音が近づく。


光秀が声を潜めた。


「隠れよ。」


「ケロリ。」


次の瞬間。


ケロタンは梁へ飛びつき、


天井板の隙間へ吸い込まれるように姿を消した。


板が静かに閉じる。


最後の一瞬だけ、


逆さまの笑顔が覗いた。


「では明日、お待ちしておりますケロ。」


光秀は静かに頷く。


「……面白い男を拾ったものだ。」


灯火が揺れる。


静かな夜は、まだ始まったばかりだった。


(つづく)

後書き:筆者の想いに寄せて

なぜ島左近なのか。なぜケロヨンなのか。

それは、左近の持つ「武人の潔さ」と、ケロヨンの持つ「健やかな日常の象徴」が合わさった時、初めて信長の「死の気配」に対抗できると考えたからです。

店頭で雨の日も風の日も立ち続けるあのカエルのように、ケロヨンは安土の激動をケロリと見過ごし、左近は主君のために地獄の釜を焚き続ける。

この二人がいたからこそ、光秀は本能寺という「最後の配膳」まで走り抜けることができました。歴史という名の厳しい「処方箋」を、少しでも楽しく、そして美味しく書き換えたい。そんな願いを込めた主役抜擢でございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。