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安土饗応作戦 光秀 左近 ケロタンの遠眼鏡  作者: あっちゅ寝太郎


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第二章 12話 前編 襖が勢いよく開いた。


安土の闇に浮かび上がる、三つの色。完璧主義の白(光秀)、猛火の赤(左近)、そして静寂の緑(ケロヨン)。

筆者の愛する「最強の武士」と「不滅の薬局キャラクター」が、歴史の時空を超えて安土の厨房で邂逅した。これは、家康の胃袋を巡る攻防戦であると同時に、光秀という孤独な料理人を支えた、異形の「戦友たち」の物語である。

第二章 12話 前編 襖が勢いよく開いた。


「十兵衛はおるかぁ!」


 現れたのは、前田利家。


 日に焼けた顔。


 堂々たる体躯。


 そして右手には――


 大きな算盤。


 光秀は思わず目を見張った。


「前田殿……。」


 左近も目を丸くする。


 ケロタンは算盤を見つめたまま、小声でつぶやいた。


「利家殿と申せば、槍働き天下一品のお方……。」


 弥助もうなずく。


「うむ。」


 ケロタンは首を傾げた。


「それが、そのような面妖な道具まで器用に鳴らされるとは……。」


 パチン。


 パチパチ。


 利家は無言で珠を弾く。


 ケロタンはさらに顔を近づけた。


「……ちゃんと数えられておるのでしょうかケロ。」


 一瞬。


 時が止まった。


 三成が青ざめる。


「こ、こらっ! 毛呂仙之佑!」


 利家は算盤を静かに置いた。


 そしてケロタンを見つめる。


「小僧。」


「はいケロ。」


「わしは若い頃、読み書きも算盤も大の苦手じゃった。」


「えっ?」


「槍ばかり振っておった。」


 利家は少しだけ笑う。


「されど、家を預かるようになれば、槍だけでは米は増えぬ。」


 再び算盤を手に取る。


 パチパチパチッ!


 珠が流れるように走る。


「だから泣きながら覚えた。」


 見事な手さばきに、一同は思わず見入った。


 ケロタンは感心したように何度もうなずく。


「すごいケロ……。」


 弥助も腕を組む。


「珠が踊っておる。」


 左近が真顔で言った。


「速すぎて、わしには途中から分からぬ。」


 光秀も小さくうなずく。


「……実は私も。」


 三人が顔を見合わせる。


 ケロタンはぽつりと言った。


「では……。」


 一同が振り向く。


「合っているかどうか、誰にも分からないケロ。」


 しん――。


 次の瞬間。


「こらぁーーっ!」


 利家の一喝が台所中に響いた。


 四人は一斉に頭を下げる。


 両手を太腿へまっすぐ添え、


 深く揖する。


 そのまま、


 トトト……


 トトトト……


 魚が尾びれを震わせるような足さばきで、一斉に後ずさる。


 利家は思わず吹き出した。


「なんじゃ、その泳ぐような下がり方は!」


 ケロタンは後ずさりしながら胸を張る。


「安土流最新礼法にございますケロ!」


 台所に、ようやく笑いが戻った。

後書き:筆者の想いに寄せて

なぜ島左近なのか。なぜケロヨンなのか。

それは、左近の持つ「武人の潔さ」と、ケロヨンの持つ「健やかな日常の象徴」が合わさった時、初めて信長の「死の気配」に対抗できると考えたからです。

店頭で雨の日も風の日も立ち続けるあのカエルのように、ケロヨンは安土の激動をケロリと見過ごし、左近は主君のために地獄の釜を焚き続ける。

この二人がいたからこそ、光秀は本能寺という「最後の配膳」まで走り抜けることができました。歴史という名の厳しい「処方箋」を、少しでも楽しく、そして美味しく書き換えたい。そんな願いを込めた主役抜擢でございました。

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