第一章 第10話(後編) ◆家康の好み、完全解析
外野の嫌がらせと信長の理不尽な圧力を、光秀の悪知恵と左近の勢い、ケロタンの珍妙な技でひっくり返す!
……だが、おもてなしが成功に近づくにつれ、光秀の瞳には異様な光が宿り始める。
「天下の行く末のため……上様、敢えて怒っていただきましょう」
光秀の胸に秘められた、あまりに切なく、壮大な深慮遠謀とは——?
歴史の結末が哀しいからこそ、今は思いきり笑い飛ばす!
史実のリアルと食文化の深掘りに、光秀の覚悟、そしてテンポ抜群の喜劇を掛け合わせた、命がけの過剰接待サイココメディ開幕!
第一章 第10話(後編)
◆家康の好み、完全解析
六月末。
雷鳴が安土の空を震わせ、
激しい雨が白壁を叩いていた。
台所では、
四色の割烹着が一枚の巻物を囲んでいる。
白の割烹着の光秀。
赤の割烹着の左近。
緑の割烹着のけろたん。
そして特大白割烹着の弥助。
幾度もの買い出し。
予算騒動。
三成との攻防。
市場での大騒ぎ。
その全てを積み重ね、
ついに一巻の巻物が完成した。
『徳川家康・饗応覚え書』
光秀は静かに頷く。
「……これでよい。」
左近が腕を組む。
「長かったでやすね。」
弥助も豪快に笑った。
「ミー、お腹すいたネ。」
けろたんだけは、
頭のお盆を揺らさぬまま、
静かに巻物を見つめていた。
◆光秀の結論
光秀は巻物を開く。
「徳川殿は華美を嫌う。
素朴。
実直。
塩気を好み、
職人の仕事を愛でる。
これが徳川殿の本質だ。」
左近が頷く。
「なるほど。」
「豪華さではなく、
手間を食わせる。」
「見た目ではなく、
中身で勝負。」
光秀はゆっくり巻物を閉じた。
「ようやく答えに辿り着いた。」
◆まだ終わらぬ仕込み
その時だった。
けろたんが小さく口を開く。
「ケロリ。」
三人が振り向く。
「十兵衛様。」
「何だ。」
「まだ終わっておりませんケロ。」
光秀が首を傾げる。
「何がだ。」
けろたんは、
台所の一番奥、
普段は誰も近寄らない蔵の方へ、
ほんの一瞬だけ目を向けた。
「最後の仕込みは、
まだ誰にも見せる時では
ありませんケロ。」
「……?」
左近も弥助も、
意味が分からない。
光秀だけが、
少し考え込むように目を細めた。
しかし、
けろたんは何事もなかったように
お盆を持ち直す。
「まずは、
明日からの仕込みですケロ。」
「そうだな。」
光秀は再び巻物を抱えた。
「ここから先は実戦。
徳川家康を迎えるための、
最後の十五日が始まる。」
外では雷鳴。
やがて雨脚は少しずつ弱まり、
安土城の屋根を洗う音だけが、
静かに響いていた。
割烹着チームの戦いは、
いよいよ本番へ。
そして、
誰もまだ知らない
本当の切り札は、
静かに眠り続けていた。
(第一章・完)
(第二章へつづく)
後書き:筆者の想いに寄せて
なぜ島左近なのか。なぜケロヨンなのか。
それは、左近の持つ「武人の潔さ」と、ケロヨンの持つ「健やかな日常の象徴」が合わさった時、初めて信長の「死の気配」に対抗できると考えたからです。
店頭で雨の日も風の日も立ち続けるあのカエルのように、ケロヨンは安土の激動をケロリと見過ごし、左近は主君のために地獄の釜を焚き続ける。
この二人がいたからこそ、光秀は本能寺という「最後の配膳」まで走り抜けることができました。歴史という名の厳しい「処方箋」を、少しでも楽しく、そして美味しく書き換えたい。そんな願いを込めた主役抜擢でございました。
第一部 完結となります。続編は出来上がり次第投稿予定となります。第二部 25話くらいの予定。第三部も予定しております。御覧くださり、ありがとうございました。 曲木 六円




