↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
安土饗応作戦 光秀 左近 ケロタンの遠眼鏡  作者: あっちゅ寝太郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
13/22

第一章 第10話(前編) ◆家康の好み完全解析! 闇を走る服部半蔵


外野の嫌がらせと信長の理不尽な圧力を、光秀の悪知恵と左近の勢い、ケロタンの珍妙な技でひっくり返す!


……だが、おもてなしが成功に近づくにつれ、光秀の瞳には異様な光が宿り始める。

「天下の行く末のため……上様、敢えて怒っていただきましょう」


光秀の胸に秘められた、あまりに切なく、壮大な深慮遠謀とは——?


歴史の結末が哀しいからこそ、今は思いきり笑い飛ばす!

史実のリアルと食文化の深掘りに、光秀の覚悟、そしてテンポ抜群の喜劇を掛け合わせた、命がけの過剰接待サイココメディ開幕!


【家康饗応大作戦】


第一章 第10話(前編)

◆家康の好み完全解析! 闇を走る服部半蔵


六月も末。


昼間の蒸し暑さが嘘のように、

夜の安土城は深い闇に包まれていた。


雨雲は去ったものの、

湿った木の匂いが城内を満たし、

どこからともなく蛙の声が聞こえてくる。


その闇を裂くように、

一つの黒い影が屋根から屋根へと跳んだ。


徳川家康配下、

伊賀忍びの頭領・服部半蔵。


「……明智十兵衛。」


低く呟く。


「饗応の裏には必ず何かある。」


闇に溶けるように天井裏へ潜り込む。


さすが伊賀随一。


足音一つ立てない。


……はずだった。


「……ん?」


半蔵は違和感を覚えた。


股が妙に突っ張る。


「む……。」


慌てて確かめる。


「……しまった。」


裁着袴を前後逆にはいていた。


「出立が慌ただしかったとはいえ……

一生の不覚。」


誰も見ていない。


誰も知らない。


そう思った、その時。


「ハットリくん、破れたり。」


すぐ横から、

ぬるりとした声が聞こえた。


「!!」


半蔵が飛び退く。


暗闇の梁の上。


頭にお盆を載せたまま、

緑の割烹着姿のけろたんが、

静かに座っていた。


「な、何者!」


「毛呂せんのすけ。


皆からは、

けろたんと呼ばれておりますケロ。」


半蔵は額に汗を流した。


(気配を感じなかった……。)


達人同士だけが味わう敗北感。


しかし。


半蔵は違う意味で焦っていた。


「破れた……?」


慌てて袴を調べる。


膝。


裾。


腰。


股。


「どこだ……。」


真剣そのもの。


けろたんは無表情で首を振った。


「違いますケロ。」


「え?」


「服ではなく、

作戦が破れた、

と言ったのですケロ。」


「…………。」


「それと。」


けろたんは半蔵を指差した。


「やはり袴、

前後逆ですケロ。」


半蔵は固まった。


「…………。」


「お尻が前に来ていますケロ。」


「…………。」


「紐も全部こちらですケロ。」


半蔵は月明かりで確認した。


「……本当だ。」


忍び人生最大級の失態だった。


◆里芋の罠


「見られた以上、

生かしては帰れぬ。」


半蔵は苦笑しながらも、

手裏剣を取り出した。


けろたんは首を振る。


「物騒ですケロ。」


そう言うと、

お盆から里芋の皮を一枚。


ひらり。


半蔵の足元へ。


「……?」


ぬるっ。


ズルッ!


「ぬわっ!」


忍びとは思えぬ見事な転倒。


しかも袴が逆なので、

立ち上がれない。


「くっ……。」


「滑りますケロ。」


「知っておる!」


ようやく起き上がった半蔵は、

咳払いを一つ。


「今日のところは退く。」


「賢明ですケロ。」


「次は負けぬ。」


「まずは袴ですケロ。」


「……うむ。」


半蔵は闇へ消えた。


その後ろ姿を見送りながら、

けろたんは小さく呟く。


「意外と良い人でしたケロ。」


◆ついに完成


台所では、

光秀たちが巻物を囲んでいた。


「完成した。」


光秀が静かに微笑む。


『徳川家康・好物覚え書』


長い調査の末、

ついに仕上がった極秘資料である。


左近が腕を組む。


「苦労しましたな。」


弥助も頷く。


「ミーも、

いっぱい食べて調べた。」


「ケロリ。」


けろたんがお盆を下ろす。


「これで準備は整いましたケロ。」


光秀は巻物を開く。


「家康公は華美な料理より、

素材の味を好む。


麦飯。


川魚。


味噌。


生姜。


素朴な味付け。」


全員が真剣に聞く。


「そして……。」


光秀は静かに笑った。


「最後の一手が、

この『くさや』だ。」


左近は苦笑する。


「まだ言いますか。」


弥助も鼻を押さえる。


「クサイ。」


けろたんだけが真顔で頷いた。


「ケロリ。


十兵衛様は、

少々楽しみ過ぎておりますケロ。」


光秀は咳払いをした。


「……高度な兵法だ。」


三人は顔を見合わせた。


「はいはい。」


その時だった。


──ドンッ!


天井裏から、

大きな物音が響いた。


「……誰だ。」


左近が刀へ手を伸ばく。


天井板が、

ギシギシと軋み始めた──。


(後編へつづく)

後書き:筆者の想いに寄せて

なぜ島左近なのか。なぜケロヨンなのか。

それは、左近の持つ「武人の潔さ」と、ケロヨンの持つ「健やかな日常の象徴」が合わさった時、初めて信長の「死の気配」に対抗できると考えたからです。

店頭で雨の日も風の日も立ち続けるあのカエルのように、ケロヨンは安土の激動をケロリと見過ごし、左近は主君のために地獄の釜を焚き続ける。

この二人がいたからこそ、光秀は本能寺という「最後の配膳」まで走り抜けることができました。歴史という名の厳しい「処方箋」を、少しでも楽しく、そして美味しく書き換えたい。そんな願いを込めた主役抜擢でございました。


第一部は次回で完結となります。第二部は、二十五話くらいまで、第三部も予定しております。出来上がり次第投稿予定しております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。