3 伊予美ちゃんは誤解している
という訳で俺は昼飯を食い終えた後、
小暮が所属する一年一組の教室の前にやってきた。
このクラスには俺が片思いをしている伊代美も居るんやけど、
今回の目的は伊代美に会う事ではなく、小暮のスカウト。
とはいうものの、矢沙暮高との練習試合からこっち、
ロクに伊代美とも会えてないんやよなぁ・・・・・・。
家は近所なんやけど、
俺は野球部の朝練があるから伊代美より早く学校を出なあかんし、
学校でもなかなか会う機会がない。
何かこのままやと、どんどん伊代美との距離が遠のいていくよな気がする。
ああ・・・・・・。
と、一人で落ち込んでいた、その時やった。
「わっ!」
という声とともに、俺はいきなりドン!と背後から背中を押された。
「うわっ⁉」
驚きの声を上げてよろめく俺。
そして後ろに振り向くと、やや茶色みのある髪をおさげにした、
おっとりした目もとが愛らしい女子生徒が立っていた。
それを見た俺は咄嗟にその子の名を呼んだ。
「い、伊代美ちゃん!」
そう、彼女は俺の幼なじみにして片思いの相手の、小白井伊代美やった。
「あはは~、ごめんね?びっくりした?」
驚いた俺の顔を見て、伊代美はおかしそうに笑いながら言った。
それに対して俺は、
「う、うん、ちょっと・・・・・・」
と言ってぎこちなく頷く。
う~む、伊代美と久し振りに会えたのは嬉しいけど、
彼女を前にするとやっぱり緊張してしまう。
そんな俺に伊代美は、いつもののんびりした口調で続けた。
「そういえばこの前は試合に呼んでくれてありがとう。
昌也君カッコよかった」
「え⁉ほ、ホンマに⁉」
「うん。久し振りに昌也君が野球やってるのを見たけど、
昌也君はやっぱり野球をやってる時が一番カッコいいと思う」
「い、伊代美ちゃん・・・・・・」
伊代美の嬉しい言葉に、俺の頬は自然とほころんだ。
この前の試合で俺はあんまり活躍できんかったけど、
伊代美ちゃんはちゃんと俺の事を見ててくれたんやなぁ・・・・・・。
昌也感激!
と、心の中でウカレポンチになっていると、伊代美はニコッと微笑んでこう続けた。
「それに小暮さんにもカッコいい所を見せれたし、良かったね♡」
「え?」
その言葉に目を丸くする俺。
実は伊代美は、俺が想いを寄せているのは小暮やと思い込んでいるのやった。
しかしそれは大きな誤解なので、俺は慌てて訂正した。
「な、何を言うてるんや!
この前も言うたけど、俺と小暮はそういう関係とちゃうんやって!」
しかし伊代美はいたずらっぽい笑みを浮かべてこう言う。
「照れんでもええよぉ。
小暮さんもこの前の試合で、昌也君はええキャッチャーやって誉めてたし」
「え?ほ、ホンマに?」
あいつはこの前の試合で、俺をボロカスにけなしてくれたんやけど。
(しかもビンタまでされた)
「良かったね♡」
「いや、あの、だからね?」
「今日も小暮さんに会いに来たんやよね?」
「えと、その、違う事は、ないんやけど・・・・・・」
「ちょっと待っててな?すぐに呼んで来るから」
伊代美はそう言うと、そそくさと教室に入っていった。




